12 硬すぎ!? 鉄の豚ですわ!
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翌日、私とヴィオとドガンさんは、ドガンさんの作った昇降機で地下へと降りました。
いつも狩りをしているダンジョンの第一層は森林のようなエリアです。ここにドガンさんが作ったくくり罠を仕掛けます。村人が誤ってかからないように、仕掛けた場所の近くにある木の枝に、赤い布で目印をつけておきます。
「ここから先は未知のエリアです。慎重に進みませんと……」
「わしのもう一つのユニークスキル、【構造解析】を使おう。こいつは疲れるんじゃがのう」
ドガンさんはダンジョンの壁に手をつけ、魔力を流し込みます。ドガンさんの魔力は薄く広く均一に伸びていきます。しばらくしてドガンさんは言いました。
「【構造解析】はものの内部を解析するスキルじゃ。これによると……ふむ。このダンジョンは細かく枝分かれしているようじゃ」
ドガンさんは、地面に枝で図を描きました。
今、私たちがいる第一層は、比較的広いエリアです。ここからさらに下層へ行く出口は複数あり、その先は第二層で行き止まりのところもあれば、さらに深い階層へと続くエリアもあるようです。
ドガンさんの魔力では、このダンジョン全てを解析しきることはできず、これで全てだとは限らないということでした。
「方角的にはこっちとあっちは構造体の材質が違っておるようじゃ。
毛色の違う素材を得たいなら行ってみる価値があるじゃろう。
もちろん、同じ雰囲気でも下層に行けば、素材の方向性は維持したまま素材の質が上がると予想できる。どうする?」
ドガンさんの問いに私は答えます。
「狙いはミョウバンですわ。森林ではないエリアに行きましょう!」
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ドガンさんはロープとフック、そして命綱を組みあわせた、簡易な昇降のための道具を持ってきてくれていました。
ドガンさんの操作で、私たちは一人ずつ下層へと降下していきます。
第一層の青々とした緑が頭上へと遠ざかり、周囲の空気が変わるのを肌で感じました。
湿った土の匂いは消え、代わりにツンとする刺激臭――鉄錆と、古びた油の匂いが漂ってきます。
「……到着じゃ。ここが第二層、いわば『廃工廠』エリアじゃな」
私たちは慎重に足を踏み出しました。
カツン、カツン。
靴底から伝わる感触が、柔らかい腐葉土から、冷たく硬い金属と、補強された木の床へと変わります。壁面も、植物の根ではなく、錆びついたパイプや歯車が複雑に絡みあった無機質なものになっています。
まるで、巨大な機械の体内に入り込んでしまったような気分です。王都の学園にいたとき、校外学習として時計塔の見学に行ったことを思い出します。この階層の雰囲気は、あの巨大な魔道具の内部によく似ていました。
「お嬢様、警戒を。前方に敵影あり」
目を細め、前方を警戒していたヴィオが鋭く警告しました。
通路の奥から現れたのは、三つの巨体。平べったい鼻に、突き出た牙。二足歩行の豚のような魔法生物、オークです。
ですが、私が知っているオークとは様子が違います。
「色が……鉄色? それに、なんて大きさですの!」
彼らの肌は、磨き上げられた黒鉄のように鈍く光っています。手には棍棒ではなく、ダンジョンの壁から引きちぎったであろう、太い鉄骨が握られていました。
――「アイアン・オーク」。
以前読んだ図鑑の知識が蘇ります。金属質の皮膚を持つ、高ランクの魔獣です!
「グルルァァッ!!」
先頭の一体が、戦車のような勢いで突進してきます。
「ぬんっ! やらせんわい!」
ドガンさんが前に出て、愛用のハンマーを盾に構えます。
ガギィィン!!
鉄骨とハンマーが衝突し、凄まじい火花が散りました。ドガンさんの足が、金属の床を削りながら数センチ後退します。
「ぐぬぬ……! 腕力だけなら上の層のボス並みじゃぞ、こいつら!」
「援護しますわ! 【火球】!」
私は杖を振り、炎の弾丸を放ちました。
ドォン!
炎はオークの胸板に直撃し、爆ぜました。しかし――。
「効いていません!? 魔法を弾きましたわ!」
煙の中から現れたオークは、少し煤けただけで、ピンピンしています。あの金属の肌が、魔法の熱と衝撃を拡散させてしまっているようです。物理も魔法も効きにくいなんて、反則ですわ!
「お嬢様、落ち着いてください。関節などの『継ぎ目』は柔らかいようです」
冷静なヴィオの声。彼女の手から、数本のナイフが投擲されました。
ヒュッ、ヒュッ。
ナイフは正確にオークの膝裏と脇の下――装甲の薄い部分に突き刺さりました。
「ブモォッ!?」
痛みに体勢を崩したオークの動きが止まります。
「ナイスじゃヴィオ! そこなら通るわい!」
ドガンさんがハンマーを振りかぶります。
「【槌術】の奥義を食らえ! 【兜割り】!!」
ドガンさんの渾身の一撃が、無防備になったオークの脳天を捉えました。硬質な音が響き、巨体が崩れ落ちます。
「ふぅ……。硬い敵には、崩しが必要ということですわね」
私は冷や汗を拭いました。このダンジョン、一筋縄ではいきません。
私たちは残りの二体も同様の連携で処理し、戦利品を確認しました。
「【鑑定】! ……おお、これは『上質な鉄の牙』に、霜降りの『オーク肉』じゃ! 苦労した甲斐はあるぞ!」
上質なお肉は村人を飢えから救うのによし、売るのによしのありがたい素材です。鉄の牙は矢尻にしてもよく、鋳潰してもよいという、これもまた汎用性の高い素材です。
「あのような硬い体のオークから、こんなに柔らかいお肉が採れるなんて驚きですわ!」
私は魔法鞄にドロップを収納しました。
「先に進みましょう!」
私たちはアイアン・オークを倒しながら、螺旋状の回廊を下へ下へと進んでいきました。




