11 失敗が生んだ怪しい商人!?
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翌日、領主の館で、これからのことについての話し合いが開催されました。私、ヴィオ、ガヴさん、そしてドガンさんがテーブルを囲っています。
「……許せません。みんなが頑張って作った食材や毛皮を、あんなふうに奪うなんて」
ガヴさんが村の帳簿を持ってきてくれています。辺境特別税は、何年も、確かに課されていたようです。私はこれがスカンピアを貧しくしている原因ではないかと考えました。
「狩りのやり直しじゃ。氾濫を防ぐためにどのみち狩りはせざるを得んかった。そう気落ちすることはない」
「しかし、このままでは、狩っても狩っても奪われるだけです。それに、税金を払うための『現金』が必要です」
ドガンさんの意見もヴィオの意見も正しいです。狩りをしてダンジョン産の資源を売ればお金になります。しかし、お金か小麦でなければ税金として認められません。そればかりか、今日のように「差し押さえ」と言って強引に奪われるだけ。送られてきた奪われたものの査定金額を示す領収書は、ひどい値段でした。
しかし、正規のルートで売れば、こちらの動きが筒抜けになってしまいます。またゴッズに目をつけられるかもしれません。
「お金を集めるには、裏ルート……いえ、私たち独自の販路が必要ですわ」
私は知恵を振り絞りますが、そんな伝手はありません。
「王都のお友達の中に、誰か商会の関係者はいなかったかしら?」
私は書類入れをひっくり返して、どこかに古い手紙が挟まっていないか探りました。私は片付けが苦手です。書類入れの中には、ヘアピンやハンカチなど、雑多なものが詰め込まれていました。
下のほうに埋まっているものを引っ張り出したとき、ころんと何かがこぼれ落ちました。
昨日圧搾機にかけてしまった魔石の塊です。
魔石はころころと転がり、玄関のほうへ。
チャリ……。
魔石を追っていた私は、硬質な衣擦れの音で顔を上げました。
魔石はコロン、と見慣れぬ靴のつま先に衝突しました。
それを拾い上げたのは、いつの間に入ってきたのか、気配も音もなく佇む影でした。
「おや、これはいい品だ」
月明かりに照らされたその顔には、不気味なくちばしを持つ革の仮面――ペストマスクが張り付いていました。
まるで、闇そのものから染み出してきたかのような唐突さでした。
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ペストマスクをつけたその人は、拾い上げた魔石に虫眼鏡をかざして言いました。
「素晴らしい……! 内包された魔力が悲鳴を上げている。いつ爆発するかわからない、この『不安定な美』こそ至高!」
「(褒められているのかしら……?)」
私が呆気に取られていると、その人は「失礼」と咳払いをします。
「私はクロウリーと申します、商人です。
しかしただの金には興味がありません。人の執念や魔力が籠もった歪なものこそ至高。
その点、この魔石は素晴らしい。ゴッズがホクホクした顔をしていたので、ここには何かあると思って来てみたら……!」
クロウリーと名乗った彼はそのように言いました。なんと、商人です! 独自の販売ルートを欲していた私たちにとって、彼の訪問は起死回生のチャンスです。
「クロウリーさん、はじめまして。私はオルダー領領主のゼジリア・オルダーです。実は……」
私はクロウリーさんを館の中に招き入れ、これまでの経緯を話しました。
「事情はわかりました。ひとまず、この魔石は買い取らせていただいてよろしいですか? お値段は……」
クロウリーさんは金額を提示しました。その額は、なんと金貨百枚! 通常の魔石の値段から考えても、破格のお値段です。しかし辺境特別税には到底足りません。
「あなたがたには、この資金を元手にして、ダンジョン素材を加工していただくことをおすすめします。
できあがったものは私が買い取らせていただきましょう。
そのかわり、面白いものが見つかった場合、独占契約を結ばせていただくことをお約束いただけますか?」
クロウリーさんは、魔法鞄からいくつかの品物を取り出してテーブルに並べました。
ポーション瓶、王都でも見たスパイス。そして謎の白い粉です。よく見ますと、それは小さな八面ダイスのような形の結晶であることがわかりました。
「これは、ミョウバンか?」
ドガンさんは白い粉のことをご存じのようです。
「これはとてもいいものじゃ。使いみちは、飲み水の消毒、染料の色をよくすること、毛皮なめしと多岐にわたる。この国ではあまり出回ってはおらんはずじゃ」
「ドワーフのお嬢さんは博識でおられる様子。これはダンジョンから採れたものを、わずかばかり入手できたものです。これ以上の在庫はありませんが、あなたがたのダンジョンにも、同じものが眠っているかもしれませんね」
「そんなに都合のいいことが……いや」
ドガンさんは私をちらりと見ました。
「ミョウバンの希少度はそう高くはない……嬢ちゃんのスキルがあれば、ワンチャンあるかもしれんのう」
ドガンさんがそう言うと、ヴィオが意見を述べました。
「ダンジョンの探索を進めるという方針には私も賛成です。お金を稼ぐためには、より希少な素材が必要です。
狩りは罠も併用し、浮いた時間で調査を行ってみるのはどうでしょう」
ドガンさんはふぅむと唸り、クロウリーさんにいくつかの部品の名前を告げました。クロウリーさんは品物の一部を、バネやワイヤーに取り替えます。
「領主様、お買い上げの商品はこちらでよろしいですか?」
クロウリーさんは品物の数と値段を読み上げて言いました。私はそれに了承しました。するとクロウリーさんは納品書と釣り銭、そして小さな木箱を渡してくれました。
「この箱は手紙箱という魔道具です。この箱に手紙を入れれば、私に届きます。ご注文があればぜひともお申し付けください。すぐに参上いたします。では――」
クロウリーさんが恭しく礼をすると、その姿は影へと消えていきました。
「これは転移魔法?
いえ、転移魔法はこのような細かい運用はできないはず。もし未知の魔法であれば、王国が目をつけないはずがありません。
ユニークスキルか、それとも特殊な魔道具でしょうか」
ヴィオがつぶやきました。クロウリーさんは秘密が多い方のようです。私たちはこの新しい交誼について、彼が私たちに協力してくれる限り、私たちも彼の不利になることはするまいと誓いあいました。




