01 貧乏令嬢と最強の侍女、まずは物理的に落ちるところまで落ちますわ!
初投稿です。連載をはじめました。
01〜10話は日に2回更新、11〜は日に1回更新。
ストックは8万字以上です。 更新→完結保証です。
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「ど、どうしてこうなりましたの~~っ!?」
私の絶叫が、荒涼とした大地にむなしく響き渡りました。
視界がぐるぐると回っています。いえ、回っているのは私自身です。
現在、私ことゼジィ――ゼジリア・オルダーは、領地の外れで見つけた謎の「大穴」に真っ逆さまに落下中……ではなく、なんとつたに足が絡まって、宙ぶらりんになっていました。
「……何をしておられるのですか、お嬢様」
頭上から、あきれはてたような声が降ってきます。
逆さまの視界に映ったのは、銀色の髪を揺らす私の侍女、ヴィオ――ヴィオレッタ・フェリシアでした。彼女は崖の上から私を見下ろしながら、優雅に細い煙草をふかしています。
「ヴィ、ヴィオぉ! 助けてくださいまし! 血が、血が頭に上って……お肌に悪いですわ!」
「自業自得です。『その辺りは地盤が緩いから近づくな』と、三秒前に忠告しましたよね?」
「だ、だって! キラキラ光る珍しい苔があったのですもの!」
「はぁ……。相変わらず、その無駄な行動力と好奇心だけは王級ですね」
ヴィオは紫色の煙を吐き出しながら、やれやれと肩をすくめました。
彼女がふかすパイプは、呼気に魔力を乗せることで、周囲に効果を発現する魔導具です。効果は詰める薬草によって異なりますが、今のは煙の色からして、魔物除けの薬草でしょう。
ヴィオには私を助ける気があるのでしょうか。いえ、間違いなくあるのでしょうが、その前に十分ほど説教をする気満々の顔です。
「いいですかお嬢様。私たちはただでさえ、着の身着のまま追い出された貧乏主従なんですよ。これ以上、仕事を増やさないでください」
「ううっ、わかっていますわ……。でも、家宝の『ドラゴンの魔石』は無事ですし……」
私は懐をまさぐり、真っ赤に輝く拳大の魔石を取り出しました。
このドラゴンの魔石は、当家の初代様が討伐したドラゴンのもので、この功績により我が家は伯爵位を賜ったという来歴があります。
これを売るのは最後の手段ですが、そうすれば当面の生活費はどうにかなるはずです。
「ほら、見てヴィオ! この輝き! これを売れば……」
「お嬢様、手元」
「え?」
ツルッ。
私の手は、泥で汚れていました。
そして、私の指先は、絶望的なほどにぶきっちょでした。
――ヒュゥゥゥ……。
私の手から滑り落ちた国宝級の魔石は、重力に従って穴の底へ。
遥か下に見える、青白く発光する「魔素溜まり」へと吸い込まれていきます。
「あっ」
「あ」
二人の声が重なった、その直後でした。
カッッッ!!!!
穴の底から、世界を塗り替えるような閃光が奔りました。
同時に、ズズズズズ……と大地が鳴動を始めます。
「な、なんですのー!? 地震!? 噴火!?」
「ちょ、お嬢様! 魔素の濃度が急上昇しています! まさか、魔素溜まりに魔石が反応して……!?」
「へ?」
ヴィオが珍しく焦った声を上げた瞬間、穴の底から凄まじいエネルギーの奔流が噴き上げました。
私はつたごと吹き飛ばされ、空高く舞い上がります。
「ひゃあああああああ!!」
空中で手足をバタつかせながら、私は走馬灯のように「一週間前の出来事」を思い出していました。
愛する婚約者から突きつけられた、理不尽な婚約破棄。
そして、身に覚えのない罪と、莫大な借金。
本当なら今頃、王都のテラスで優雅に紅茶を飲んでいたはずなのに。
いったいどこで間違ってしまったのでしょうか。
――話は、あの悪夢のような夜会に遡ります。
あれは忘れもしません。王城の煌びやかなダンスホールで行われた卒業記念パーティーでのことでした。
私はそのほんの一週間前、両親を不慮の事故で亡くしておりました。
ですので、お祝いごとでありながら、喪服での参加でした。
周りの令嬢たちは、当然のことながら思い思いに着飾っており、まるで色とりどりの大輪の花が盛りを競う花園のよう。私は浮いておりました。ただでさえ暗い印象を与える宵闇色の髪に、濃紺色の地味なドレスの私のことを、こそこそと「暗いオーラが出ている」と陰口をたたく声が聞こえていました。
もとより、両親を亡くしたばかりの私は、その夜はおしゃべりを楽しむ気分ではありませんでした。なので、ドリンクを受け取った後は、おとなしく壁の花となっていることにしました。
ですが、私の心は沈んでばかりではありませんでした。
婚約者のアルフォンス王子に久々に会えるからです!
アルフォンス王子は、このサン・ガルディア王国の第九王子です。
本当なら、私の卒業を待って結婚する予定でしたが、私が喪中のため延期になっておりました。
そのことがあってか、最近はすれ違うことが増えていました。王子は公務がとてもお忙しく、今日のパーティーで、私をエスコートすることも難しいのだそうです。
寂しいですが、私の都合で王子に待っていただいているのですから仕方ありませんわね。
私は少し緊張しながら、人混みの中、王子の姿を探しておりました。
そのとき、不意に音楽が止まりました。
壇上には、先ほどまで探していたアルフォンス王子の姿が。ですが、私の喜びは次の瞬間にはしぼんでしまいました。なぜなら、王子の腕には、ミルクティー色の髪の、愛らしい令嬢がくっついていたからです。
その令嬢はリリア・クレイ様とおっしゃる男爵令嬢です。子猫のように愛らしい彼女は、金髪碧眼の絵に描いたような貴公子然としたアルフォンス王子にとてもお似合いで、私は悔しいながらもそれを認めざるを得ませんでした。
空いている王子の右腕が上がり、混乱する私をまっすぐと指さします。
そして王子は、高らかにこう宣言なさいました。
「ゼジリア・オルダー! 貴様との婚約を破棄し、こちらの『真の聖女』リリアとの婚約を発表する!」
「は、はいぃ!?」
私は驚きのあまり、言葉を失いました。しかし腕に伝う液体の感触で正気に戻ります。私は、つい【身体強化】の魔法を発動してしまい、手に持っていたグラスを握りつぶしてしまっておりました!
「見ろ、グラスを素手で……なんて怒りようだ」
「恐ろしい腕力……とんでもなくがさつな女だな」
ひそひそと声が聞こえます。
私の妙に多い魔力のせいで、周囲を威圧してしまったようです。悪意はなかったにせよ、私は自分のはしたない行いを恥じました。
それにしても、いったい、なぜこのようなことになってしまったのでしょう。私の混乱は増すばかりです。
リリア様が聖女というのは、あくまでそういう噂がある、という認識でした。たしか、彼女が目覚めたユニークスキルが、それらしいものであったがゆえに、「もしかして聖女ではないか」とささやかれだした、というものだったような……。
おたおたする私に、王子は「フンッ」と鼻を鳴らし、言葉を続けました。
「お前はこのリリア嬢に対して、陰湿なイジメを行っていただろう!」
「い、いいえ! 誓ってそのような事実はございませんわ!」
私は慌てて否定しましたが、リリア様が食い気味に「怖かったのですぅ~」と言葉を被せます。
「証拠はいくらでもある!」
王子は私の罪状をすらすらと読み上げます。
「一つ、リリアの教科書を隠した! 二つ、リリアに冷水を浴びせた! 三つ、リリアの階段突き落とし未遂!」
それらは全て誤解です。
教科書の件は、リリア様が教科書をお忘れになったので貸そうとしたところ、スープの染みを発見したので、鞄の中で【浄化】の魔法を使っていただけ。
冷水の件は、おそらく花壇に水をやっていたときに、ジョウロの前にリリア様が割り込まれたときのことでしょう。
階段突き落としの件は、階段の下にいる私に向かって、階段の上からリリア様が落ちてこられたのです! あのとき、私は下敷きになって足をくじいてしまいましたが、私をクッションにしたリリア様は無事だったように記憶しています。
私は潔白だというのに、周囲の目はどんどん冷たくなっていきます。
「ち、違います! 私はただ……!」
「弁明があるなら聞いてやる。前に出ろ!」
王子はどや顔で私にそうおっしゃいました。私は何も考えずその言葉に従いました。
なぜ、このときに一度深呼吸をしなかったのか、今でも悔やまれます。
なんたる不運だったでしょう。私はよりにもよってこの場面で、ドレスの裾を思いっきり踏んづけてしまったのです!
「あだっ!」
私は盛大にスッ転びました。
悪いことは重なるものです。私が転倒した先には、巨大な初代国王のクリスタル像がございました。私のおでこが初代国王の像にヒットした瞬間、おそらくですが、私のユニークスキルが発動してしまったのです……!
私のユニークスキル、【災い転じて福と為す】。
詠唱を噛んだり、転んで魔法を暴発させたりしても、「結果的に敵の弱点に直撃する」というパッシブスキルです。
初代国王の像がなぜ敵と判定されてしまったのかはわかりません。王族である王子が、私を敵と見なしたせいでしょうか?
――ガッシャァァァーン!!
無残にも初代国王の像は、大きな音を立てて崩壊してしまいました。
衝撃で星が散る私の瞳には、「うわぁ……」とドン引きするリリア様が映っておりました。
「き、貴様ぁぁぁ!! 婚約破棄への腹いせに、国宝級の芸術品を破壊し、我々を殺そうとするとは!!」
アルフォンス王子が怒号を上げました。
「ち、違いますの! ただ足が……!」
「問答無用! 貴様には、損害賠償として金貨一億枚を請求する! 一年以内に払えなければ、爵位剥奪の上、鉱山送りだ!」
「そ、そんな殺生な~~~!!」
かくして私はタウンハウスと家財道具一式を手放して王都を去り、伯爵家の領地であるオルダー領にやってくることとなりました。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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