第8話
朝起きると、ベットにいて毛布を被っていた。
部屋まで来た記憶がなくて、寝た時間も覚えてない。
(どうやって部屋に来たんだろう……)
突然部屋にノック音が響く。
「は、はい!」
「ユーリアちゃん、起きた?」
「起きました…!」
「入っても平気かしら」
「大丈夫です?」
ノックしたのはクレアさんだ。
こんな朝からどうしたんだろう。
「突然ごめんね……昨日のこと、セフィロトから聞いたわ」
「昨日……あ!」
そう、昨日。セフィロトさんの執務室で泣いてしまったんだ。
「だから、目が腫れてるかもって思って。ホットタオルを作ってきたの。朝ごはんも持ってきたからお部屋で食べちゃいましょう?」
「あ、ありがとうございます!はい!」
ホットタオルで目を温めて、腫れているはずの目を癒す。
「うふふ、ユーリアちゃんったら」
「…?どうしました?」
「髪の毛、凄いわよ。直すから、目を温めながらでいいから背を向けて?」
「え、はずかし……は、はい!」
クレアさんに髪の毛を整えてもらって、クレアさんのご飯を食べて。
どんなときでもクレアさんのご飯は美味しいと思った。
あれから四年が経った。
今ではもうノアール家に馴染んで、リリア以外のメイドからも"家族"として扱われている。
「おはようございます、ユーリア様」
「リリア、おはよう!」
ずっと人に対してさん付けで呼んでいたけど、やめて欲しいと言われた。
最初は違和感しか無かったけど、最近は慣れてきたなぁ。
「お、おと、セフィロトさん!おはよう!」
セフィロトさんとクレアさんはまださん付けで呼んでしまうけど、いつかお義父さまとかお義母様って呼べたらいいな。
そう呼ぼうとしていることに気付かれていて、優しく微笑んで待ってくれている。
「あら、ユーリア。おはよう!ちょっとまっててね、もう少しでご飯の準備ができるから」
「クレアさんもおはよう…!クレアさんのご飯楽しみ」
「もう、毎朝作ってるのに。調子のいい子ね」
最近は私もずっと笑顔で過ごせていて、今の私を救い出してくれた二人が大好きだ。
それでもまだ、両親がいなくなったときの夢を見るときがある。
でも、そんな夢を見たときは抱き締めて、頭を撫でてくれる人がいることを分かっている。
「あ、そうだ。今日は仕事が休みだから、市街地の方まで行かないか?」
「ほんと?行きたい!」
「そう言ってくれてよかった。クレアはどうだ?」
「そうねぇ……私も行くわ。用意するから少し待っていて」
三人でお出かけが決まった。
この家に来てからあまり外に出ることがなくなり、王都から出るのは本当に久しぶりだった。
リリアに相談をしながら着ていく服を決め、玄関の方へ向かう。
セフィロトさんは既に待っていて、馬車の手配をしてくれていた。
「ああ、ユーリア、早かったね」
「リリアが手伝ってくれて……」
「お待たせ、早く行きましょう?」
クレアさんも玄関まで来て、ようやく、家族で初めてのお出かけだ。
馬車に揺られて十数分。鎖橋を渡れば見えてくるお店が立ち並ぶエリア。
ここは基本的には庶民向けのものが置かれている。
高くても銀貨一枚といかないくらいのものだ。
何個かのお店に入り、クレアさんのものを買ったり、食料品を買ったり、他にもいろいろと買い物をして、レストランへはいる。
行ったことがあるお店だった。
「前、ここ来たよね」
「そうね。まだユーリアがこーんなに小さかった時かしら?」
そう、みんなで食べに来たことがあるんだ。
お父さんもお母さんもいて、五人出来たことがある。
懐かしい記憶を、いい思い出だったと片付けられるようになった。
「……また来られる?」
「もちろん!絶対に時間を作るよ」
「ええ、なんだったら私と二人で来る?」
「おい、私抜きか?」
「だってあなた、忙しいでしょう?」
一緒にいると、笑いが絶えない。
ああ、私ここに来てよかった。
ご飯を食べ進めていくと、隣の席で食事をしている人達がなにやら噂をし始めた。
「ねえねえ、聞いた?立太子がほぼ確定したって」
「え!じゃあ、聖女候補がまた集められるの?」
「そうよ!聖女になれたら王太子様と結婚できるの!」
「まあ私たちには縁のない話だけどね」
「もう!夢がない!」
(……なんだろう、今の)
胸の奥が、キュッと締め付けられた気がした。
でも、どうしてそうなったのか分からない。
二人が心配そうな顔で私を見つめる。
「大丈夫です、あの、聖女候補ってなんですか?」
「ああ、隣の会話か。家に帰ったら歴史についても勉強しようか?」
「そうね、今まで一生懸命だったからそんな暇なかったけど、お勉強してみましょう。もうすぐユーリアも舞踏会デビューなんだから」
「は、はい!」
思いつきで話題に出したら、勉強の話に持っていかれてしまった。
元々少し苦手なのに、残念だ……。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
以下第8話の登場人物
主人公 - ユーリア・ノアール
義父 - セフィロト・ノアール
義母 - クレア・ノアール
この世界のお金について
【銅貨、銀貨、金貨】で構成されています。
・銅貨10枚=銀貨1枚
・銀貨10枚=金貨1枚
平民の月給はおおよそ銀貨5~6枚で、第8話内で出てきたお店は、大体銀貨1枚もしない価格帯が中心です。
ノアール子爵は銀貨であればあまり考えず使える程度の余裕がある家、というイメージです。




