表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

第7話



 セフィロトさんは、ずっと昔から私を可愛がってくれていた。

けど、私が養子に来てからはあまり話してくれなくなった。

ご飯の時間も被らないから、会話する時間もない。


ある日の夜、クレアさんに頼まれてセフィロトさんの執務室へ行った。

そのとき、セフィロトさんが紙を握りしめて、お母さんとお父さんの名前を小さく呟いていた。


(セフィロトさん……?)


「ユーフィ、ローアン……なんで」


あの紙は、なに?

執務室をよく見ると、お母さんとクレアさんとセフィロトさんの三人が写った絵が沢山飾ってあった。

高くて滅多に撮れない写真も何枚か飾ってある。

セフィロトさんは、私が家に来たときから……いや、お父さんとお母さんが亡くなってからずっとこうなんだろうか。

絵や写真を大事そうに握りしめてたらのかな。


「……セフィロト、さん」

「!ユーリアちゃん」

「あの、クレアさんに頼まれて、これ、夜食です」

「クレアが……ありがとう、ユーリアちゃん。……こっちへおいで」

「……?」


セフィロトさんに招かれて、仕事用のテーブルの前まで行く。


「いつか、見せてあげようって思ってたんだ。この写真」

「写真…?」


見せてもらったのは、小さいお母さんとクレアさんとセフィロトさんが写った写真。


「私達の幼い頃の写真でね。今より高かったけれど、私達の両親がお金を出しあって撮らせてもらったんだ」


写真の中の三人は、笑顔だった。

クレアさんは真ん中でお母さんとセフィロトさんの手を握ってる。

セフィロトさんはクレアさんに握られた手を少し赤い顔で見ていた。

お母さんは、前を向いて笑顔で、クレアさんの手を強く握り返していた。


「少し恥ずかしいんだけどね。それと、これも」

「これ、は」


もう一枚に映っていたのは、私だ。

正確に言えば、まだ小さい私を抱っこしているお父さんと、横で微笑んでいるお母さん。


「まだユーリアちゃんが生まれて直ぐに撮らせてもらったんだ」


目尻が熱くなって視界がぼやける。


「本当はユーリアちゃんが成人した時にプレゼントする予定のものだったんだ」

「私が成人したとき?」

「そう。こんなに小さかったんだぞ、ってね」


我慢して。今まで泣かなかった。

ここで泣いたら、今までの我慢が。

だって、私が今泣いたら、ダメなんだ。一人だから。


「……泣いてもいいんだよ、それを受け止められる人が、君にはちゃんといる」

「っでも、」

「ユーリアちゃんは今まで泣かなかった。たしかにいい子だ。お母さんに気を使っていたんだろう?ミシェリアさんとテオドアさんが気負わないようにしていたんだろう?」

「ちが、う」

「ユーリアちゃんがどんなことをしても、私達は受け入れるよ」


涙があふれる。

今まで一度もこぼれたことなんて、なかったのに。

熱くなっても、顔を伝うことはなかったのに。


「う、うぁああ……」


嗚咽が漏れて、もう隠せない。我慢ができない。

大きな暖かい手が、頭を撫でる。

その温度が、涙を止まらなくさせた。


かちゃかちゃと茶器をいじる音が聞こえて、気がつくと少し冷めた紅茶とクレアさんが用意してくれた夜食と少しのお菓子が用意されていた。


「落ち着いた?お茶を用意したから、食べよう」

「……う、ん」


まだ声がガラガラで、でも、敬語は使おうと思わなかった。

お茶を飲んで、クレアさんの夜食を食べて、心臓のドキドキも収まった。


「……私は、ずっと後悔してるんだ」


いきなり、セフィロトさんがそう言った。


「え…?」

「ユーリアちゃんを養子に迎えたことを。数ヶ月に一回会う程度の子爵が、迎え入れていいのかってね」

「でも、そんなこと」

「ナイトレイ家の方が濃い関わりがあったんだろうし、そっちの方がユーリアちゃんも気負わなかったんじゃないかって」

「……」

「そんなこと無かったね。君は、ここで泣いてくれた。私の選択は間違ってなかった」


そんなこと、ない。

私はノアール家に引き取られて良かったと思ってる。

また涙が溢れてきて、今日の私はおかしいんだと思う。


「わ、わた、私、ここにいてもいいの?」

「…!もちろん、ここはユーリアちゃんの帰るところだよ。逆に、来てくれてありがとう」


ずっと、悩んでた。

ここに引き取られてからずっと迷惑をかけてしまってるんじゃないかって。

それに、またいなくなったらって思ったら怖くて。

張り詰めていた心が、氷が溶けるように柔らかくなっていって、さっきからずっと溢れて止まらない涙が、増えていく。




「泣き疲れて眠ってしまったみたいだ」

「そうね、目が赤くなってる。可愛い寝顔」


小さな声で会話を交わす二人の前にはベットで寝ているユーリアがいる。

あの後執務室で寝てしまい、セフィロトが連れてきたらしい。

毛布をかけ、頭を撫でる。


「ユーリアちゃんのこれからが、幸せで溢れますように」



ここまで読んでいただきありがとうございます!


以下第7話の登場人物

主人公 - ユーリア・ノアール

義父 - セフィロト・ノアール

義母 - クレア・ノアール

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ