第4話
また、変な夢を見た。
お墓参りのときに見た記憶と同じ夢。なはず。あまり記憶が朧気で分からない。
衛兵が家の周りに沢山いて、近所の人たちがザワザワしてて。
あれ、どんな夢だっけ?
「お、お母さん、おはよう」
「ユーリア。おはよう。朝ごはんできてるわよ」
あれから、季節が変わった。
それでも、冬になってもお母さんは回復することはなくて。
あんなに明るかったお母さんと、お父さんを返してよ。
「ありがとう、…あ、お母さん今日なんだけど」
「どうかしたの?」
「エドガーと冬の市場に行ってくるね」
「今日だったのね。そう、行ってらっしゃい」
七日に一回のペースで開催される市場は、季節の変わり目に大々的なイベントを打っている。
その季節にちなんだものしか並ばないその市場は、毎シーズン人気だ。
「お母さん、今日はお仕事ない日だから夜ご飯作って待ってるわね」
「う、うん!お母さんの夜ご飯久しぶりだな、楽しみにしてるね」
お父さんが死んじゃってからお母さんがお仕事までやっている。
私だって働くと言ってるのに、お母さんは許してくれなくて。
家を出て、待ち合わせ場所の市場の入口にある時計台の下まで向かう。
「ユーリア、おまたせ」
「あ、エドガー。おはよう」
数分待てばエドガーが到着する。
二人きりで遊ぶだなんて、何年ぶりかな。
「とりあえず市場行っちゃお!お母さんにお土産も買いたいんだ」
「…………よかった」
「?なにが?」
「ん、なんでも。とりあえず何買いたいんだ?」
エドガーを連れて目的のお店まで向かう。
途中あったスイーツには目を奪われてしまって、エドガーが買ってくれたりもしたんだけど。
口にものを含んでるから指をさしてエドガーに伝える。
「これ?」
「ん!」
急いで食べているものを飲み込んで、口の端についたマカロンの欠片を舐めとる。
お母さんが昔好きだと言っていたお店の冬市場限定のキャンドル。
装飾が施されてて、とても可愛い。
「このキャンドルください。いくらですか?」
「これは銅貨2枚だよ」
銅貨2枚。朝お母さんがくれたお小遣いが銅貨4枚だった。
お金だってそんなに稼げる訳でもないのに、遊ぶからって。ずっと貯金してたから渡さなくてもいいのに。
「ありがとうございます」
「こちらこそありがとう、大事にしてね」
キャンドルを貰ってそのお店を離れる。
「これ買いたくて。付き添ってくれてありがとうね」
「う、ううん。元気になれたならよかったけど」
「私、元気ないように見える?」
「うん、見える」
「あはは……お母さんを元気にしたいと思って買いに来たのに元気づけられちゃったなぁ」
エドガーと話しながら市場の狭い通路を歩く。
人も多くて声も通りにくい。
「またなんかあったら、元気づけてやるから」
「!エドガー……ありがとう」
エドガーったら、優しいんだから。
その後は色々見て回った。市場だからかいつもより少し高めの値段設定で、買えたものは少なかったけど、いい思い出になったと思う。
「じゃあ、今日はありがとう!」
「こちらこそ。また会お」
「うん!」
噴水広場でエドガーと別れる。
住んでる区画が違うから、いつもここでおわかれだ。
今日はなんだか嫌な予感がするから、近くまで一緒にいて欲しかったような気もするけど。
家までの間、衛兵を沢山見た。
この区画はたまに貴族も住んでるから、衛兵がいるのはよくあることだけど、家に近付くに連れて衛兵が増えていく。
(なんなんだろう……)
角を曲がって、真っ直ぐ行けばお母さんが待ってる。
買ったキャンドルを握りしめて、喜んでもらえたらうれしいと思って。
家が見えてきたところで、玄関に衛兵がたっているのが見えた。
(……なんで?)
「あ、あの……」
「ん?お嬢ちゃん、どうかしたかい?」
「私、の家、なんですけど……」
「…………」
そういうと衛兵の人が黙りこくってしまった。
なに、なにがあったの。お母さんは?
また違う衛兵が現れて、その人と話し始めた。
すると衛兵の人が無言でドアを開けてくれた。
中は散乱していて、タンスの中のものが倒れている。
しかしなぜかとても静かで、お母さんの声はしなかった。
「おかあさん?」
どこにいるの?
お母さんの好きなキャンドル、買ってきたよ?
歩いていると、ぴちゃん、と水が跳ねる音がした。
「みず…?」
確かに水だ。
そばにコップが倒れて、割れてる。
テーブルでこぼれて、床に落ちているみたいだ。
突然、玄関が開く音が聞こえた。
「お嬢ちゃん。ちょっと、こっちに」
「衛兵さん…?」
外に出ると、人だかりができていた。
先程の衛兵の人は偉そうな人に怒られていて、どこか現実味がなかった。
「あ、あの、お母さん、どこにいるかわかりますか」
「こんな話するのも残酷か……」
嫌な予感が拭えなくて、胃液が上がってくる感覚がした。
「直球で、申し訳ない。君のお母さんは亡くなった」
「なく、なる?」
「ああ」
「帰ってこないの?」
「帰ってこられない」
口下手そうな衛兵の人は包み隠さず教えてくれた。
私が市場に行ってる間にスラム街の人たちが泥棒が入ったこと。
お母さんが家にいる時間で、ご飯を準備してたこと。
それで……お母さんが、殺されてしまったこと。
言い淀んでた部分もあったから、これでもまだ全部では無いんだろう。
私は、足元が崩れたように立っていられなくなった。
なんで。なんで。なんで。なんで。お父さんもお母さんも。帰ってこない。
「誰か頼りになる大人の人はいるか?」
「……ミシェリアおばさんとテオドアおじさん?」
「どこにいる、わかる?」
「わからない……ナイトレイって苗字してる人達」
口下手な衛兵の人は他の衛兵の人に何かを告げてた。
なにかを探せ?って言ってる。
エドガーのお家をなのかなぁ。
頭では理解できてても、心が追いつかない。
嫌だって気持ちと、呆然とする気持ちのどちらもが支配していて、どうしよう。
周りが見れなくて、説明を受けているときに沢山居た衛兵さんたちが私の方をみてヒソヒソと話していたことには気付けなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
ちょっと重すぎ…?
以下第4話の登場人物
主人公 - ユーリア・アミリル
母親 - ユーフィ・アミリル
幼馴染 - エドガー・ナイトレイ




