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第11話



「こちらになります」


 そう案内されたのは、広い天蓋付きのベッドと、広いソファーが置かれた部屋だった。

ドレッサーもあって、窓は大きい。

太陽が差し込んで、窓から見えるバラ園が一際綺麗に映る。


「素敵な部屋……」


持ってきていた荷物は既にベッド横に置いてあった。


「それでは後ほど夕食のお時間にお呼びいたしますので、お寛ぎください」

「は、はい!あの…部屋から出るのもいいですか?」

「聖女宮内部であればお好きに見ていただいて構いません。バラ園への立ち入りも含め許可されておりますのでご自由にお過ごしくださいませ」

「ありがとうございます!」


メイドさんはそう言って部屋から出ていき、広い部屋に一人になった。

こんなにも綺麗なバラ園に入ってもいいなんて、行かなきゃ損だよね?

窓を眺めていると、バラの赤とは似つかない金色が揺れているのが見えた。


一度部屋から出て、鍵をかける。

私の部屋とは反対側にも扉があるけど、こっちのお部屋だと教会とかが見えるのかな?

階段を降り、バラ園の方へ向かう。


聖女宮と王妃宮からしか入れないこの庭園は、王家と公爵以上の貴族、聖女候補だけが立ち入れるようで、聖女候補はそのまま入れるからと許可もいらないみたいだ。

立ち入りできない日もあるらしいけど、今日はいいみたい。


綺麗なバラのアーチをくぐれば、バラ園だ。

ガゼボもあって、寛ぐには最高なスペースだろうと思った。


(窓から見たときも思ったけど、とっても綺麗)


ウロチョロとバラ園を一人で歩き回っていた。

ただ、歩いているだけでこんなにも心が踊る場所に来たのは初めてで、テンションが上がっていた。

生花のいい香りがして、ガゼボで座っているだけで心が安らぐ。


(いい場所だなぁ)


太陽の光が優しく包んでくれているようだった。

暖かくてウトウトしていたらいきなり誰かに話しかけられた。


「……寝ているのかな」


(だれ…?)


「起きた方がいいよ」

「ん、んん?」


体を揺さぶられ、目を開けると視界に入ったのは金と青。


「ああ、おはよう。今日から来た聖女候補の子かな」

「お、おはよう、?」


って、違う!

ダメだ。

ここにいるってことは公爵家か王家の二択!

私よりも遥かに地位が上の人だ。


「…!も、申し訳ございません!」

「大丈夫だよ。ほら、ここは安全だけど、もうすぐで母上が使用するから。別のところに行った方がいいかも」

「わかり、ました。……母上?」

「自己紹介がまだだったね。私はセシル・ヴァレリアン」


セシル・ヴァレリアン……って。

王太子だ。

この国、ヴァレリアン王国の次期国王。


「セシル殿下…!?大変なご無礼を…!申し訳ありません!」

「気にしないでいいんだけど……とりあえず母上がもうすぐ来てしまうよ。母上は優しいけど今回は立ち入り禁止らしいから」

「了解いたしました…!」


(やばい、やばい、やばい!!ノアール家は大丈夫かな!?王太子にこんな、こんな!)


さっき敬語外しちゃった。

大丈夫じゃない、よね……。

無言のままセシルの後ろをついていく。

心臓がドキドキと痛んで、緊張を伝えてくる。

できる限り静かに深呼吸を繰り返した。

聖女宮の入口まで着いたところで、セシルが振り返った。


「あ、あの。ありがとうございました」

「寝ちゃってたからどうしようかと。そういえば、君の名前聞いてなかったね」

「……!ゆ、ユーリア・ノアールと申しますっ!」

「ユーリア嬢。聖女候補は私と話す機会も多いだろう。よろしく」

「は、はい!よろしくお願いいたします!」


そのまま手を振られ、勢いよく聖女宮へ入る。

頭の中が真っ白だ!

セシルと会話してしまった。


部屋に戻って、ソファーに体を沈める。


(なにか、なにかが思い出せそうだったのに)


あの瞬間は緊張して、焦って何も考えられなかったけど、なにか引っかかるものがあった。

なんだったんだろう。




目を閉じ、考えていると睡魔がやってきて、抗わずにそのまま意識を落とした。



ぽたり、ぽたりと水の落ちる音がする。


『…………』

これで、よかったんだよね。

手を握って祈りを捧げるフリをしながら、私は。




……コンコン、コンコン。

扉をノックする音が部屋に少しだけ響く。


「ユーリア様。お食事の時間です」

「あ、は、はーい!」


いきなり声をかけられ、元から忙しかった心臓が勢いを増した。

眠い目をこすりながら部屋の外へ出る。

部屋の外の冷たい空気に触れて眠気はすぐに無くなった。


聞いていた通り、夕食は聖女候補たちで食べるらしい。

今度は挨拶をしてもいいらしくて、仲を深めることが目的なんだそう。


(上手くやれるかなぁ)


「あの、他の聖女候補の子達ってどんな人ですか?」

「聖女候補様方には個別に侍女がついております。その為私はユーリア様以外の聖女候補様方のことは存じません」

「は、はぁ……」


メイドさんも知らないみたいだ。

無言のまま案内され、大きな扉が見える。

どうして貴族や王家っていうのは扉を大きくするんだろう?


聖女候補たちが食事を摂るところは聖女宮にあって、私たちはあまり移動することがない。

なにか理由があるのかな。


私が食堂に着く頃にはみんな到着していて、私待ちだったみたいだ。


「遅いわね。何をしてるのよ」

「え、あ。ごめんなさい」

「揃わないと食事が取れないルールなのよ!急ぎなさいよね」


リシェルがそう言う。

少しキツそうな性格だ。

大人しく空いた椅子に座り、夕食が来るのを待った。


「こんばんは。カミラ・グレイスです。マーティア男爵家の次女に当たります。どうぞよろしく」

「…?」

「聞いてないんですか?自己紹介をしろとのことですよ」

「あ、そ、そうだったんだね!」


カミラが真面目そうな顔で自己紹介を始めた。

挨拶はしてもいいと言われたけど自己紹介か。


「わ、私、ミレイユ・エンシミオ!平民のまま来た、来ました!」

「エンシミオさん。よろしくお願いします」

「カミラ、さんもよろしくお願いします!」


少しオドオドした女の子はミレイユと言うらしい。

さっきの説明のときに冷や汗をかいていた子だ。


「ユーリア・ノアールです!ノアール子爵家の養子になりました」

「ユーリアさん!よろしくお願いします!」

「うん、ミレイユさん。よろしくお願いします」


カミラから自己紹介を始めたからかその横の人が挨拶をする方針になり、ミレイユの隣に座っていた私はそのまま自己紹介をした。

特に話せることもないし、これだけでいいかな?


「……ノア。ノア・セレナ」


自己紹介中もどこを向いていたのか分からなかったノアは、こちらを見ることもせず淡々と名前だけを教えてくれた。


「あら。なにがノア。なのかしら?挨拶くらいちゃんとなさって?私のことをなんだと思っているの?」

「なんなの」

「ふんっ!リシェル・ベラミーよ。ベラミー伯爵家の長女。一番かわいがられているの」

「聖女は平民しかなれない」

「……うるさいわね。なんなのよ」


聖女は平民しかなれない。貴族の娘だったとしても、養子だったり孤児だったりで血は繋がってない。

図星をつかれたのか、リシェルは少し声量を落とし、ノアを睨みつける。


「お、おち、落ち着いてください」


慌ててミレイユがリシェルに声をかける。

リシェルは居心地が悪そうにミレイユも睨みつけ、そのまま俯いた。

少し気まずい雰囲気が続き、沈黙のままいると食事が到着した。


「わ、おいしそう!」

「……」


みんなが一斉に食べ始める。

王宮で出される食事は全て美味しくて、頬が落ちそうだった。

一口一口大事に味わい、会話は少ないまま食事は終了した。


美味しいご飯を食べたあとでも気まずい雰囲気の中、リシェルは勢いよく立ち上がり一人でスタスタと部屋に戻ってしまった。

ノアも続いて静かに部屋へ戻り、食堂は私もミレイユ、カミラの三人だけになった。


「静かになりましたね」

「そうだね、あ、そうですね!」

「敬語じゃなくても良いですよ。私たちはどちらにしろ、平民ですから。身分差などありません」

「いいの?なら、カミラさんも敬語やめて欲しいな。ユーリアさんも!」


ミレイユは敬語が苦手らしく、食事中も時々言葉が詰まっていた。

カミラもそれに気付いていたんだろう。


「うん、お言葉に甘えて。よろしく!…ミレイユ!」

「…うん!よろしくね、ユーリア!」

「仲良くなるのが早い」


カミラが少し呆れたようにそう言う。

それでも敬語を辞めてくれたから、仲良くなったって思っていいのかな?


「カミラ、ミレイユ。一年間よろしくね」

「こちらこそ一年間よろしく」

「うん!一年間、頑張ろうね!」



ここまで読んで頂きありがとうございます!

これで第一章第一幕は終わりです…!


以下第11話の登場人物

主人公 - ユーリア・ノアール

王太子 - セシル・ヴァレリアン

聖女候補 - ミレイユ・エンシミオ

聖女候補 - カミラ・グレイス

聖女候補 - リシェル・ベラミー

聖女候補 - ノア・セレナ

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