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妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?  作者: 木山楽斗


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第7話 消えた尊敬(アドルグside)

「実の所、アドルグからは前々から相談を受けていたのだ」


 ヴェルード公爵夫妻は、国王の前に立っていた。

 それを見ながら、アドルグは考える。自分の両親が今、何を思っているのかを。


 クラリアという隠し子の存在、それはヴェルード公爵家にとって少なからずスキャンダルになることであった。

 それに関してクラリアに罪がある訳ではないと、アドルグは認識している。問題なのはヴェルード公爵イルリオの素行だ。妻がいる身でありながら、他の女性と関係を持ったその不貞行為に対して、アドルグは少なからず嫌悪感を覚えている。


 ただわからないことは、父と母の仲が良好であったにも関わらず、そのようなことが起こったという事実であった。

 単なる出来心ということもあるが、両親に対して尊敬の念を抱いていたアドルグにとって、状況は不可解なものである。


 今回の件に関して、母親であるヴェルード公爵夫人レセティアのスタンスがわからないというのもアドルグは気になっていた。

 ことがことであるだけに、もう少し意見が聞けて然るべきであるというのに、彼女は沈黙を貫くばかりなのである。


「クラリアの件に関しては、私も把握していないことが多い。この際だ。洗いざらい吐き出してもらおうか」

「兄上、ことはそう難しいことではありません。私が昔手を出したメイドとの間に子供がいたことをつい最近判明したというだけのことです」

「イルリオ、お前はレセティアと愛し合う関係にあったと、私は認識している。そんなお前が浮気をするとは思えなかった。何か事情があるのではないか?」

「お恥ずかしい話ですが、事情などというものはありはしません。単に私が不貞を働いたというだけのことです」

「私やアドルグにさえ、話せないようなことなのか」


 伯父の口振りに、アドルグは父が何かを隠しているということを理解した。

 しかしながら、考えてもわからない。事情があったにしても、メイドとの間に子供を作った理由がアドルグには思いつかなかった。

 故にアドルグは、クラリアが父の子ですらないとさえ考えた。事情があって匿っているという可能性さえも、彼は考慮したのだ。


「……イルリオ、もう隠すのはやめにしましょう」

「レセティア、しかし……」

「このまま隠していても、事態をややこしくするだけです。恥を忍んで話すしかありません……お義兄様、できればアドルグには聞かせたくないのですが」

「アドルグはヴェルード公爵家を何れ背負うことになる。聞かせぬ訳にもいかぬだろう」

「……そうですか」


 母親からの視線に、アドルグは居たたまれなくなっていた。

 とはいえ、彼もその場を離れるつもりはない。ヴェルード公爵家の次期当主として、ここにいることが自分の使命であると、彼は強く認識しているからだ。


「……クラリアの母親は、カルリアと言います。かつてはラウゴッツ侯爵家、つまりは私の実家に仕えていたメイドです」

「ほう、そうだったのか……」


 母親の言葉に驚く国王様を見ながら、アドルグは思い出していた。

 確かにそのような名前のメイドが、昔公爵家にいたような気がしたのだ。

 そういえば、ある時からを境にそのメイドは見ていない。それが今から十年程前、丁度自分とクラリアの年の差くらい前のことだと、アドルグは気付いた。


「彼女は祖母の代からラウゴッツ侯爵家に代々仕えてきた家系の出身です。扱いとしては平民でしたが、侯爵家でもそれなりに影響力がある一族でした」

「なるほど、さぞ立派なメイドだったのだろうな」

「ええ、しかしそれだけではありません。私にとって彼女は……友達のようなものでした。幼少期から仕えてもらっていましたから」


 そのメイドが母にとってそれ程重要な存在だったということを、アドルグは知らなかった。

 自分達の前では、きちんと主従関係として節していたということを彼は認識する。

 ただそうなると、益々不可解であった。母とそのような関係であったメイドに、父が手を出したという事実には、アドルグも驚きを隠せない。


「家族以外でそのことを知っていたのは、イルリオくらいでした。婚約が決まってから、彼とは気が合って仲良くなり、そこで打ち明けました。カルリアは私にいつもついていましたから、それからは二人も親しくしていました」

「イルリオ、それでお前はそのメイドに惚れ込み手を出したのか?」

「……素敵な女性であるとは、思っていました」


 兄からの質問に対して、ヴェルード公爵は目をそらした。

 その動作に、アドルグは疑問を覚える。父の歯切れは、どうにも悪い。

 それから、母の様子もおかしかった。先程からアドルグの方をちらちらと見ている。それはここから先が、聞かれたくないことであることを表していた。


「……お義兄様、この件については私も同罪です。なぜなら、彼女に無理をさせたのは私でもありますから」

「レセティアよ、それはどういうことなのだ?」

「端的に申し上げてしまいますと、私達が彼女を巻き込んだといいますか…………三人で盛り上がったといいますか……」

「兄上、これ以上レセティアには言わせないでいただきたい」

「……」

「……」


 両親の発言に、アドルグは伯父と顔を見合わせていた。

 二人の抽象的な物言いは、ある事実を表している。その事実に、アドルグは今日から両親のことを尊敬するのはやめようと思った。

 そう思った矢先、国王様の怒号が響いてきた。それを聞きながら、アドルグはこの事実を兄弟達にどのように話すべきか、頭を抱えるのであった。

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