日常編13 励ますために(オルディア視点)
僕はエフェリアとともに、クラリアがいる部屋の前まで来ていた。
彼女は今、病で苦しんでいる。僕達はそのお見舞いに来たのだ。
ただ、現在クラリアは隔離状態にある。部屋に入るというのは、流石に難しそうだ。
「うーん、やっぱり入るのはまずいのかな?」
「まあ、そうだろうね。屋敷で風邪が流行ってはいけないだろうし……」
エフェリアの言葉に、僕はゆっくりと頷く。
一応僕達も、その辺りは弁えている。クラリアが隔離されている意味が、分かっていない訳ではない。
しかしそれでもここに来たのは、クラリアが一人で寂しくしていると思ったからである。風邪を引いてただでさえ不安だろうに、誰とも会えないというのは苦しい状況であるはずだ。
「……少し安心したわ」
「うん?」
「……イフェネアお姉様?」
僕とエフェリアとは別の声が聞こえてきて、僕達は少し驚いた。
声のした方向に視線を向けると、そこにはイフェネアお姉様がいる。少し息を切らしているように見えるが、どうしたのだろうか。
「イフェネアお姉様、どうかしたんですか? そんなに息を切らして……」
「オルディア、それからエフェリア、あなた達の姿が見えないから心配していたのよ。もしかして、クラリアの部屋を訪ねようとしているんじゃないかって……」
「え? あ、それはそうですよ? えっと、やっぱりまずいですか?」
「……部屋に入るのを止めようと思っていたのだけれど、そのつもりがなかったというのなら、とりあえずは良いわ」
エフェリアの言葉に、イフェネアお姉様は苦笑いを浮かべる。ひょっとして、僕達が部屋にこっそり入るなどと思っていたのだろうか。
それはない、と否定したい所だが、普段の行いというものがある。僕達は悪戯なんて繰り返していた訳だし、イフェネアお姉様の懸念も無理はないか。
「そうしようかとも思っていたんですけどね? でも、もしも部屋に入って風邪が移った場合、色々な人に迷惑をかけると思いまして……」
「あはは、そうだよね? 私達にしては、結構冷静な判断だったのかも……」
「まあ、二人とも成長しているということでしょうね? クラリアという妹ができてから、自覚を持つようになったとは思っていたけれど……」
イフェネアお姉様は、笑顔を浮かべていた。僕達の成長、それが嬉しいということだろう。
イフェネアお姉様は、今クラリアにそうしているように、僕達にも貴族としての基本的なことを教えてくれた。だからこそ、猶更喜んでくれているのだろうか。
そういう顔を見ていると、なんだかこれから悪戯なんてしにくくなってくる。まあ、最近僕の方は、ある程度自重しているのだけれど。
「ただ、イフェネアお姉様、僕達はクラリアのことが心配なんです。クラリアのお母様、カルリアさんと一緒とはいえ、心細いでしょう?」
「それは……そうだと思うわ。クラリアだって、ヴェルード公爵家の環境に慣れてきているだろうから、例えお母様と一緒でも、心から安心という訳にはいかないのではないかしら?」
「私達もそう思って、相談したんです。なんとかクラリアにお見舞いできないかなって……」
「お見舞い、ね……まあ、聞いた話によると、昨日などよりは体調も良くなっているとは聞いているし、手紙くらいなら読めるかもしれないわね」
僕達の言葉に、イフェネアお姉様は知恵を授けてくれた。
確かに手紙であるならば、少なくとも言葉は届けられる。とても簡単なことだが、僕達はそれを見落としていた。
とはいえ、それだけで良いものなのだろうか。味気ないような気もしてしまう。もう少し、クラリアが安心できるような何かが、できれば良いのだが。
「イフェネアお姉様、とりあえず手紙は書きましょうか。アドルグお兄様や、ウェリダンお兄様は忙しいかもしれませんが……」
「アドルグお兄様もウェリダンも、そういう話をしたら、必ず手紙を書くでしょうね。あまり無理はさせたくないから、一人一言ずつということにしましょうか?」
「イフェネアお姉様? そう言いながら一人で何個か書いたりしませんか? 怪しいので、まとめるのはオルディアにしましょう」
「……エフェリア、そういった点に関して、もう少し私のことを信用してもらいたいのだけれど」
エフェリアの懸念は、もっともなものだった。イフェネアお姉様にまとめを任せたならば、必ず一人だけ言葉を増やすだろう。
いや、それは流石に疑い過ぎだろうか。イフェネアお姉様とて、このような状況なら抜け駆けなんて考えないような気もする。
とはいえ、結局は僕がまとめる方が良いだろう。役割分担の観点から考えても、暇な僕やエフェリアがそういったことは担当するべきだ。
それから、他にクラリアを励ませる方法がないかも考えるとしよう。まだ僕達にも、何かできることがきっとあるはずだろうから。




