第6話 近況の報告
要求が通ったらしく、私はイフェネアお姉様の部屋でお世話になることになった。
基本的に優しいお姉様ではあるが、ただ優しいというだけではない。貴族としての生活を学ばせてもらっている。
「この服も段々慣れてきたし……」
貴族としての服装に、私は最初慣れていなかった。
しかし今は、背筋を真っ直ぐにして歩くことさえできる。こういった歩き方というのも、イフェネアお姉様の指導のお陰だ。
生活をともにすることで、貴族の令嬢というものが少しだけわかったような気がする。とにかく私は、イフェネアお姉様を見習うことによって進化しているのだ。
「……なんて、調子乗っている場合じゃないんだよね」
「まあ、そんなに深刻に考えることでもないよ?」
「エフェリアお姉様……」
「止められなかったなら、それはそれで良いくらいに思っていた方が気は楽だし。いくらお兄様方でも、多分一番軽い鞭打ちくらいまでしかしないだろうから」
「それだって問題ですよ」
エフェリアお姉様の言葉に、私は思わず反論していた。
現状、私を詰めていた二人の令嬢は、追い詰められている。最善で鞭打ち、最悪で絞首台だ。多分あの二人は知らないだろうけど、大変な状況である。
もちろん、あの二人は良い人達ではないのだが、それでもそれだけの罰を受ける程の悪人かと言われると微妙な所だ。私は、最高でもオルディアお兄様の案くらいで良いと思っている。
「まあまあ、そのためのスーパーアドバイザーも呼んでいるから大丈夫だよ、クラリア。そうだよね、ロヴェリオ」
「……荷が重いんですよ、オルディア様」
「そうかな? 僕は期待しているんだよ。ロヴェリオは王族の中でも、特に頼りになるからさ」
「本当にそう思っています?」
「これは紛れもない本心だよ。まあ、他の王族も頼りになるけれど、こと今回においてはロヴェリオが適任さ。現状を知っていた訳だからね」
スーパーアドバイザーとして呼ばれたロヴェリオ殿下は、オルディアお兄様の言葉に頭を抱えていた。
それは当然だろう。私がもしも同じ状況に立たされていたら、震えていたかもしれない。
助けられた時から思っていたが、ロヴェリオ殿下はとても勇気がある人なのだろう。だからこそ、ここにもこうして来てくれたのだ。
「さてと、それじゃあ部屋にもついた訳だし、エフェリア仕切ってくれるかな?」
「え? 私が仕切るの? オルディアがやってよ」
「一応、エフェリアがこの中だと最年長なんだけど、まあいいか。そういうことなら、僕が音頭を取らせてもらう。話し合いを始めるとしようか」
オルディアお兄様の言葉に、私達三人は頷いた。
こうして私達四人は、お兄様方の過激な罰に対する対策を考える会を、始めるのであった。
◇◇◇
結局の所、権力には権力をぶつけるしかないという結論になった。
スーパーアドバイザーとして呼ばれたロヴェリオ殿下が王族として止める。それが今回の作戦の肝だといえるだろう。
ロヴェリオ殿下には負担をかけてしまうことになるが、この際それは仕方ない。もちろん、私達の方からもお兄様方に釘を刺しておくつもりだ。
「それじゃあ、クラリアは兄弟と仲良くなれたってことなのか?」
「ええ、そういうことになりますね」
せっかく来てもらったということで、私はロヴェリオ殿下に最近あったことを伝えていた。
ちなみに、エフェリアお姉様とオルディアお兄様はこの場には既にいない。お兄様達程ではないにしても、二人とも色々と忙しいようだ。
「まあ、実の所俺はそんなに心配しているという訳でもなかったんだけど……」
「そうなのですか?」
「皆のことはよく知っているからさ。クラリアを虐めるような人達ではないって思っていたよ」
ロヴェリオ殿下は、笑顔を浮かべていた。
その笑顔の理由は、私にもよくわかる。ヴェルード公爵家の人々は、良い人ばかりだからだ。
こんな私でも受け入れてもらえる。それはありがたいとしか言いようがないことだ。その寛大な心には感謝しなければならない。
「でも、やっぱり少し心配なことはあるんですよね……」
「心配なこと?」
「ヴェルード公爵夫人のことです。私のことをどう思っているのでしょうか? それがわからなくて……」
「ああ……」
私は、ロヴェリオ殿下に気になっていたことを相談してみることにした。
ヴェルード公爵は、私の父にあたる人物だ。彼からは最初に顔を合わせた時から、敵意や害意というものは感じなかった。実の娘であるため、それは当たり前といえるだろうか。
わからなかったのは、ヴェルード公爵夫人だ。妾の子である私のことは、当然快く思っていないはずである。他の人とはなんとか上手くやっていけそうなため、それが今は気掛かりだ。
「それについては、俺もよくわからないんだよな。父上も心配していたし……」
「父上……というと、国王様が、ですか?」
「そんなに驚くようなことでもないさ。クラリアにとって父上は伯父様なんだから」
「伯父様……ああ、そっか。そうなるんですね」
国王様が伯父様であるという事実に、私は今の今まで気付いていなかった。
考えてみれば当然なのだが、この国の最高権力者と自分が繋がっているなんて、驚きである。
「まあ、叔母様だって優しい人だから、そんなひどいこととかはしないと思うけど……」
「というかそのつもりなら、もう何かしていますよね」
「そうだな。本人に聞いてみるのが一番だろうけど……まず無理だよな」
ヴェルード公爵夫人のことは、お兄様方も何も言ってこなかった。
お兄様方もわかっていないのだろうか。それともわかっていて言わないのだろうか。
どちらにしても、これからどうしていくべきかわからない。正直言って、私には荷が重い問題である。




