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妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?  作者: 木山楽斗
番外編

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番外編⑥ 家族として(イフェネア視点)

 グレットが無事に見つかった朗報は、すぐに孤児院中に知らされた。

 大事にならなくて、本当に良かった。孤児院から抜け出していて、街中ならまだしも森などの方に行っていたら大変なことになっていたかもしれない。


「グレット」

「……」


 皆、グレットの無事を喜んでいる。しかし一人だけ、少しだけ面持ちが違う者がいた。それはカイゼルという男性だ。

 彼はグレットの実の兄である。この孤児院の出身者で、今は騎士として働いているそうだ。


「皆にどれだけ心配をかけたことか……少し反省しないと駄目だぞ?」

「……わかってるよ」

「これに懲りたら、一人で高い所に上るのはやめろ。それから、人目につかない所に行くこともだ。危ないことはしないでくれ」


 カイゼルとグレットは、年の離れた兄弟である。そのためカイゼルとしては、グレットの親代わりのような気持があるのかもしれない。

 だからこそ今回の件にも、厳しく言い聞かせているのだろう。それは私にも理解できる。長女として、私も下の子達を導いてきた立場であるからだ。


「わかっているよ、カイゼル兄……心配かけて、ごめん」

「……わかっているなら、いいんだ。本当に無事でよかった」


 項垂れるグレットの肩を、カイゼルはそっと叩いた。

 兄からこれだけ言い聞かされれば、グレットも今後は滅多なことはしないだろう。彼は聡い子だ。それは間違いない。


「グレット? カイゼル君、少しいいかしら?」

「イフェネア様……」

「……イフェネア様、この度は弟が迷惑をかけてしまって申し訳ありません」


 私が近づいていくと、兄弟同じようにばつの悪そうな顔を向けてきた。

 その理由は、大体わかっている。私がヴェルード公爵家の出身者だからだ。


 貴族というものは、平民よりも地位が上である。ましてや私は、孤児院を支える家の令嬢、今回の件によって万が一それが打ち切られたら、などと考えているのかもしれない。

 そう思われるのは、私にとっては悲しいことであった。ただ、立場上仕方ないことだということも理解している。しかしなんとも、ままならないものだと思ってしまう。


「お気になさらず、グレットが無事で何よりです」

「イフェネア様……」


 私が頭をゆっくりと撫でると、グレットは安心したのか笑顔を浮かべていた。

 この子とは、私が孤児院に来てからともにともに暮らしてきた。そのため、それだけで私の思いというものは伝わってくれたのだろう。

 ただカイゼルの方の顔は険しいままだ。私が来た頃、彼は既に騎士であった。私はまだ彼との間に、絆を育めてはいない。


「グレット、ペレティアとサナーシャに体を洗ってきてもらいなさい。天井裏は埃塗れだったからそのままではいけないわ」

「あ、うん。わかった」


 私の言葉に、グレットはペレティアとサナーシャの元へと駆けて行った。

 天井裏ではすっかり怯え切っていたが、元気はいっぱいであるようだ。そういった姿を見ていると、私もより一層安心できる。


「……本当に、弟が申し訳ありません」

「カイゼル君、少しお話してもよろしいでしょうか?」

「話、ですか? はい、なんでしょうか?」

「ああ、これは別にヴェルード公爵家に関わるようなことという訳ではありません。単に個人的に、あなたと話してみたいというだけです」

「私と、ですか?」


 私の言葉に、カイゼルはその体を強張らせていた。

 彼からすれば、目上の人間からのこういった提案は不本意だろうか。その辺りの距離感というものも、少しでも詰められれば良いのだが。


「ええ、カイゼル君とはそれ程話したことがなかったと思いまして……この孤児院の出身者と聞いていますが、私が来る頃には既に騎士として働いていらっしゃいましたよね?」

「そうですね。年齢が年齢でしたので……弟のグレットは、まだお世話になっていますが」

「事情は聞いています」


 カイゼルとグレットの二人の両親は、グレットが生まれてすぐに亡くなったらしい。商人として働いていた二人は、事故に合ってしまったそうだ。

 それから二人は、悪い大人達によって両親の遺産なども失い、結果的にこちらに身を寄せるようになったらしい。それはなんとも、ひどい話だ。


「……孤児院を預かる者の一人として、あなたには私のことを知っておいて欲しいと思っています」

「……存じ上げています。あなたは、ヴェルード公爵家のご令嬢、ですよね?」

「はい。ですが、それだけではありません。私はこの孤児院に暮らす子供達の家族です」

「家族……」


 私の言葉に、カイゼルは目を丸めていた。

 貴族の私が、そのようなことを言うとは思っていなかったのだろう。ただ私は、そのつもりだ。ここにいる子供達、いや同僚達とも、家族でありたいと思っている。


「意外ですか? 私がこのようなことを言うのは……」

「ああいえ、そういう訳ではありませんが……いえ、そうかもしれません。貴族の方というのはもう少し気難しいものだと思っていました」

「まあ、そういうものですよね……」


 カイゼルは、私から目をそらしながら言葉を発していた。

 だがそれは、私に少し心を開いていたからこそ出てきた言葉のように思える。


「その、すみません……」

「いえ、謝らなくても結構ですよ。そもそもの話、私は既に貴族の一員という訳ではありません。家を出て教会に身を置いていますからね。もう少し気軽に接していただいても構いませんよ?」

「それは流石に……そもそもイフェネア様の場合は、特に何かがあったから家を出たという訳でもないと聞いています。現に今も家との関係は良好だとか」

「……あら、まるで誰かに問題があって家を出たかのような口振りね、カイゼル」

「え? あっ……」


 私とカイゼルの話に、割って入ってくる者がいた。

 それはサナーシャだ。彼女は少し苦笑いを浮かべながら、こちらに近づいてくる。


「イフェネア様、グレットが体を洗い終えました。それでカイゼル、あなたは私のことを言っていたということかしら?」

「え? いや、別にそういう訳では……」

「いいのよ。事実だもの……私とペレティアは、かつて愚かなことをして家を出ることになった。ただこれでも、私も元貴族なのよ?」


 サナーシャは、少しこちらに視線を向けてきた。その申し訳なさそうな目に、私はゆっくりと首を横に振る。

 彼女とペレティアは、かつて私の妹に牙を向いた。それは本当になんとも愚かしいことではあったが、今の私は彼女達を責めようとは思わない。


 二人は教会に身を置いてからは心を入れ替え、人々のために努めてきた。それを私は、よく知っている。彼女達はヴェルード公爵家と近い教会にいたからだ。

 その二人の行いは、クラリアにも伝わっている。それで優しいあの子は、二人の罪を許した。だから私も、二人のことを許すことにした。

 それから私も教会に身を置くようになって、二人と直接接して改めて理解した。この二人はかつてのような邪心を持たず、懸命に人々のために尽くしているということを。


「サナーシャ様、もちろんそれはわかっています」

「本当かしらね? なんというか、あまりわかっていないような気もするけれど。でも要するに、イフェネア様だって変わらないということよ」

「そうは思えません。イフェネア様は、サナーシャ様とは違います」

「……そういう風に言われると、少し腹が立つわね?」

「え? ああいや、別に他意がある訳では……」


 孤児院でともに過ごした期間があるからか、カイゼルはサナーシャには少し気やすいようだった。二人もまた、家族といえるような関係なのかもしれない。

 だがそういうことなら、カイゼルもいつかはわかってくれるような気がする。私もまた、グレットや他の子供達のことを思う家族の一人なのだということを。

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