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妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?  作者: 木山楽斗


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第25話 申し出の理由

「何故見分けることができたのか、それは中々に難しい質問ですね。勘ということになるのでしょうかね……なんとなく、そう思ったのです」


 部屋に戻って来たレフティス様は、笑みを浮かべていた。

 私は、エフェリアお姉様とオルディアお兄様の顔を見る。二人とも少し困惑しているようだ。

 ただ、私はレフティス様の言わんとしていることがわからない訳でもない。二人がどちらであるかを私は見分けることができるのだが、その正確な理由を述べろと言われても、中々に言葉が出て来ないものなのだ。


「なんとなく、わかる気がします。雰囲気とか、そういうことですよね?」

「クラリア嬢、わかってくれて嬉しく思います。その通りなのです。纏う雰囲気とでも言うのでしょうかね。似せてはいるとは思いますが、何かが違うのです」


 私が試しに言葉を発してみると、レフティス様は笑顔を向けてきた。

 それは言葉の通り、私の共感に喜んでいるということだろう。

 ただ、その大袈裟ともいえる笑顔が本当の笑顔なのかはわからない。単純に、私に話を合わせてくれているだけの可能性もある。


「とはいえ、確証はありませんでしたからね。故に二人の決定的な違いというものを探ることにしました。少々、失礼ではありましたが……」


 レフティス様は、自分の喉にあてた。

 それに私は、首を傾げる。一体彼は、何をしているのだろうか。先程までは共感していたのに、一気にわからなくなる。


「喉仏、ですか……」

「ええ、オルディア公爵令息は、男性ですからね。それでも、目立たない方ではありますが」

「……オルディア、ちょっといい?」

「うん? ああ……」

「わあ、本当だ。私とはちょっと違うね」


 エフェリアお姉様は自分の首に手をあてながら、オルディアお兄様の首を触っていた。

 どうやら、そこも男女によって違う部分であるらしい。私だけでなく、エフェリアお姉様も知らなかったことであるようだ。その表情からは、それが伝わってくる。

 それは当然といえば、当然かもしれない。エフェリアお姉様は、自分が女性だと示すために、自らの衣服を全て脱いだような人である訳だし。


「しかしこちらとしては、お二人がどうして入れ替わっていたのかが気になりますね。何か理由があってのことなのでしょうが……」

「それについては、申し訳ありません」

「いえ、別に気にしているという訳ではありませんよ。むしろ、楽しませてもらいました。双子ならではのことですからね」


 レフティス様は、本当に楽しそうに笑っていた。

 こうやって話してみてわかったことだが、それは演技などではなさそうである。

 彼はきっと、感情を素直に表す人なのだろう。段々とそれがわかってきた。


「ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。発案者は私です」

「エフェリア嬢が、ですか? 一体どうしてそのようなことをしたのか、聞いてもよろしいでしょうか?」

「はい。その、レフティス様からの婚約の申し出というものがどういう意図なのかを、探りたいと思いまして……」

「……意図ですか。なるほど、確かに急な婚約の申し出というものは、奇妙であったのかもしれませんね」


 レフティス様の質問に対して、エフェリアお姉様は正直に理由を話していた。

 無礼もあったため、全てを話すべきであると判断したのだろう。それは賢明な判断なのではないだろうか。これ以上の無礼があっては、ならないだろうし。


「いえ、奇妙という程のことではないんです」

「理由について、ぼかしてしまったのが良くなかったのかもしれませんね。ただ、理由としては単純なものです。エフェリア嬢が欲しかったというだけですからね」

「私が欲しい?」


 レフティス様は、相変わらず大袈裟な動作を交えながら言葉を発していた。

 エフェリアお姉様は、それに目を丸めている。レフティス様の言葉が、あまりにも大胆なものだったからだろう。


「あなたは、ラベーシン伯爵家にいて欲しい人材であるということです。次期当主として、そのように判断しました。ヴェルード公爵家との繋がりも、もちろん魅力的なものですが、どちらかというと重要なのは、人柄の方でしょうかね……」

「人柄……私は、そんなに評価していただける程に優れた人間なのでしょうか?」

「ラベーシン伯爵家は、少々堅い家であると知られています。ですが、今の世の中そのままで良いとは思えません。エフェリア嬢によって、新しい風を吹かせたいのです。これからのためにも、それが必要だと思っています」


 レフティス様は、伯爵家の次期当主として色々と考えているようだった。

 私などは、そういった立場にないためよくわからないが、アドルグお兄様などもそうなので、やはり自覚があるということなのだろうか。


「例のお茶会で話した時に、エフェリア嬢と話して、天真爛漫というか、真っ直ぐで明るい方だと思いました。あなたは魅力的です。だから婚約を申し込んだのです」

「そうだったのですか……」


 レフティス様の言葉に、エフェリアお姉様は少し照れているようだった。

 今の言葉は、きっと嬉しいものだったのだろう。それがその表情からは伝わってくる。

 というか、私もなんだか嬉しかった。レフティス様は、エフェリアお姉様の良い所をとてもよくわかっている。そんなことを思って、私は自然と笑顔を浮かべるのだった。


「レフティス様の考えは、よくわかりました。あなたにそう思っていただけて、とても嬉しく思います。試すようなことをして、本当に申し訳ありませんでした」


 エフェリアお姉様は、レフティス様に対して頭を下げていた。

 オルディアお兄様も合わせて頭を下げていたため、私もそれに倣うことにした。これはヴェルード公爵家として、謝罪しなければならないことであるだろう。


「別にそのことを問題にしようとは思っていませんよ。むしろ、お二方を見抜けなかったなら、婚約する権利なんてものはないでしょうからね……ですから、このことは水に流すとしましょう。とはいえ、それで婚約の話を進めていただけるというなら、嬉しいですが」

「両親は今回の婚約を良いものだと考えています。私個人としても、レフティス様は良い人であるとは思っていますから、婚約したいと今は思っています」

「今は思っている……それは、今後変わるかもしれないということですか?」


 レフティス様は、その表情を少しだけ強張らせた。

 それはエフェリアお姉様の言葉にあった含みが、気になったからだろう。

 ちなみに私は、なんとも思っていなかった。ただ言われてみれば、確かにエフェリアお姉様の言葉は変かもしれない。わざわざ今とつける意味なんて、ない訳だし。


「レフティス様に、一つお聞きしておきたいことがあるのです。それはここにいるクラリアのことです」

「え?」


 エフェリアお姉様の言葉に、私は思わず声を出してしまった。

 自分の名前が出て来るなんて、思ってもいなかったため、つい反応してしまったのだ。

 レフティス様の方は、目を丸めている。彼にとっても、これは予想外のものだったようだ。


「クラリアのことを、レフティス様はどう思われているのですか?」

「クラリア嬢のことですか? その質問の意図が、よくわかりませんね……可愛らしいお嬢さん、とでも言えば良いのでしょうか? 素敵な子だとは思いますよ」

「……なるほど」

「……あの、エフェリア嬢?」


 レフティス様の言葉に、エフェリアお姉様は嬉しそうに頷いていた。

 しかし、言った彼の方は困惑している。質問の意図が未だに理解できていないのだろう。


 ただ理解できていないということが、これに関しては重要なのかもしれない。それでエフェリアお姉様は悟ったのだ。レフティス様には、ディトナス様のような私に対する過激な思想などはないということを。


「レフティス様、無礼なことをしてしまった私が、こんなことを言うのはなんですけれど、どうかこれからよろしくお願いします」

「え、ええ……よろしくお願いします」


 エフェリアお姉様とレフティス様は、しっかりと挨拶を交わしていた。

 これから二人は、正式に婚約することになるだろう。二人を見ながら、私はそう思うのだった。




◇◇◇




「オルディアお兄様は、寂しかったりしないんですか?」

「え?」


 私とオルディアお兄様は、中庭に出て来ていた。

 エフェリアお姉様とレフティス様を二人きりにするために、私達は客室から離れることにしたのである。

 そこで私は、お兄様に聞いてみることにした。イフェネアお姉様も懸念していたが、今回の件に何か思う所などがないのかを。


「エフェリアお姉様のことです。もちろん、実際に離れ離れになるのは先ではありますが、今回の婚約によって、それが現実味を帯びてきた訳ですし……」

「なるほど……まあ、寂しくないと言えば嘘はなるかな?」


 私の質問に対して、オルディアお兄様は苦笑いを浮かべていた。

 当然のことながら、やはり寂しいとは思っているようだ。それはわかっていたことである。私だって、寂しさを覚えているのだから。

 問題は、オルディアお兄様にとってエフェリアお姉様は特別だということだ。双子である二人の間には、普通以上の絆があるはずなのである。


「ただ、覚悟はしていたことだよ。何れはそうなると、思ってはいたんだ。例え僕達が一心同体であっても、ずっと一緒にいられる訳ではないと。まあ僕達は、貴族だからね。己の役目というものを果たさなければならない」

「それは……」

「まあ、大方、イフェネア姉上辺りに何か言われたのだろうけれど、心配はいらないよ。僕だってもう子供ではないからね」


 オルディアお兄様も、貴族の自覚というものをしっかりと持っているらしい。

 私やイフェネアお姉様は、その辺りについて侮っていたということだろうか。私達が心配するまでもなく、こういった時のことはいつも考えていたのかもしれない。


「僕よりもエフェリアの方が、今回の件はこらえていたようだけれど、さっきの様子から考えると、きっともう大丈夫だろう」

「それはそうですね……レフティス様は、良い人みたいですし」

「ああ、彼なら僕も安心することができるよ。きっと二人は、これからも仲良くやっていくだろうね」

「はい」


 私は、オルディアお兄様の言葉にゆっくりと頷いた。

 エフェリアお兄様とレフティス様、あの二人ならこれからも上手くやっていけるはずだ。気も合っていそうだったし、多分その点に関しては問題ないだろう。


「……しかし、これからエフェリアとどう接していくべきかは、結構難しい所かもしれないね」

「何かあったら、私を頼ってください……と言いたい所ですが、それはイフェネアお姉様あたりに任せた方が良さそうですね」

「いや、ありがたいとも」


 今回の件をきっかけに、エフェリアお姉様とオルディアお兄様の関係性というものは、少なからず変わるのだろう。

 それは仕方ないことだ。変化というものは、いつか必ず訪れるのだから。

 私だって、去年の今頃は自分がこうしているなんて思ってもいなかった。そういった経験から、オルディアお兄様を助けられる可能性はあるかもしれない。

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