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妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?  作者: 木山楽斗


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第16話 詰められる父

「……まだ、そういう話が出ているというだけだ」

「私はそんなこと、全然聞いていなかったのだけれど?」

「いや、だから今から報告しようと思ったのではないか」


 レセティア様の言葉に、お父様は怯んでいるようだった。

 それは当然のことであるだろう。レセティア様は、すごい剣幕だ。あれは誰だって、そうなるものだろう。

 それにこの場には、他にもお父様を睨みつけている人達がいる。お兄様方も、今回の件を聞きつけて集まったのだ。


「父上、クラリアに対して婚約を申し込んできた者がいるということですか? まだ十歳のクラリアに求婚とは穏やかではありませんね」

「アドルグ、話はあくまでも家同士の婚約の話だ。ドルイトン侯爵家からそういった旨の話があり、ご子息の相手としてクラリアが良いと思ったらしい」

「クラリアを現当主が指名したということですか? それはなんだか奇妙ですね。こういう言い方はあまりしたくはありませんが、怪しく思ってしまいます」

「イフェネア、それは私もわかっている。その理由について、考えている所だ」


 アドルグお兄様やイフェネアお姉様の言う通り、私を婚約の対象として挙げているのは、よくわからないものである。

 何と言ったって、私は妾の子だ。こうして温かく迎え入れてもらえているが、それは紛れもない事実である。

 そんな立場の私との婚約なんて、利益があるものかは微妙な所だ。しかも、私の存在はつい最近公表されたばかりだというのに。


「ドルイトン侯爵というと、人格者として知られていると記憶しています。なんでも、慈善事業に精を出している方だとか」

「ウェリダン、流石だな。それはその通りだ」

「なんだ、良い人なんだ。それなら大丈夫なんじゃないですか、お父様」

「エフェリア、そういう訳にもいかない。裏がある可能性だってあるかもしれない」

「まあ、もちろん、表だけを見て信用はできないよね」

「オルディアの言う通りという訳だ」


 ドルイトン侯爵という人がどういう人かは、わからないようだ。

 ウェリダンお兄様の情報を信用すると、エフェリアお姉様が考えているように私に同情して話を持ち掛けているということになる。

 ただ、オルディアお兄様の言う通りかもしれない。貴族というものは裏で色々とやっていると、私も聞いたことは何度かある。


 ただ、結果としてヴェルード公爵家の人達はとても優しい人達であった。

 それなら案外、ドルイトン侯爵だって評判通りの人物なのかもしれない。お兄様方を見渡しながら、私はそのようなことを考えていた。

 そこで私は、ロヴェリオ殿下が目に入った。彼は、少し沈んだ顔をしているような気がする。それは私の気のせいだろうか。


「……ドルイトン侯爵の真意というものはわからない。しかし実際の所、これは悪い話という訳でもないだろう」


 家族から色々と言われたお父様は、ゆっくりと言葉を口にした。

 その言葉に、周囲にいた人達はその表情が強張る。なんだか少し、可哀想になってきた。何故かわからないが、お父様の味方がこの場にはいないような気がしてしまう。


「悪い話ではないというのは、どういうことでしょうか、父上。クラリアはまだ十歳です。婚約などは早い話でしょう」

「いや、そのようなことはない。私達はそのくらいの年の頃には既に婚約を交わしていたぞ?」

「父上の時と今では時代が違うということをわかっていただきたい」

「そんな人を年寄りみたいに……」


 お父様の言葉に対して、アドルグお兄様は厳しい言葉を口にした。

 それは実際の所、どうなのだろうか。私のイメージでは、私くらいの年でも婚約したりしているような気がするのだが。

 しかしそこで、私はお兄様方の婚約の話を聞いたことがないことを思い出した。もしかして、実際はそういうものなのだろうか。


「大体、順番というものがあるはずです。最初に婚約するべきは長兄である私であるべきでしょう」

「ヴェルード公爵家の嫡子であるお前の婚約者選びが難航していることは、申し訳ないと思っている。ただこれは重要な問題だ。最初に、という訳にもいかないかもしれない……というかアドルグ、お前は妹を嫁に出したくないだろう」

「……当然、そんなことは思っていません」


 お父様の言葉に、アドルグお兄様はゆっくりと首を横に振った。

 ただこれは、私にもわかる。お父様の言ったことが図星だったのだろう。

 ということは、お姉様方の婚約が決まらないのもそういうことなのかもしれない。いや、流石にお兄様一人の力で決まる訳ではないか。


「まあとにかく、ドルイトン侯爵家との婚約は熟考するべきことだ。そこでクラリアには、一つ頼みたいことがある」

「え? あ、はい。なんですか?」


 そこでお父様が、私に声をかけてきた。

 まだお父様とはそこまで話したことがないため、少し声が上ずってしまう。ただ敵意はなさそうではあるし、私は肩に力を入れるのをやめた。


「ドルイトン侯爵家にて、嫡子であるディトナスが主催するお茶会というものに参加してもらいたい」

「お茶会、ですか?」

「まあ要するに、様子見というものだ。そうだな……エフェリアとオルディア辺りに、付いて行ってもらうとしよう」

「えっと……」


 お父様の言葉に、私はエフェリアお姉様とオルディアお兄様を見渡した。

 すると二人は、ゆっくりと頷いてくれる。どうやら二人は、私に判断を委ねてくれているようだ。

 そういうことなら、私も覚悟を決めるべきなのかもしれない。ヴェルード公爵家の一員としてどうすれば良いのか考えて、私もゆっくりと頷くのであった。




◇◇◇




「ドルイトン侯爵家のディトナスのことは、ウェリダン兄上が調べてくれたよ」

「ウェリダンお兄様は、そういうのが得意だよね。どんな人なの?」

「僕達よりも一つ年下で、クラリアよりも三つ年上の十三歳らしい。基本的には、紳士的であるというのが、ウェリダン兄上の評価だ。悪い噂なんかは、特にないらしい」


 馬車の中で、対面のエフェリアお姉様とオルディアお兄様はそのような会話を交わしていた。

 ディトナス様は、一応私の婚約者候補ということになるらしい。ドルイトン侯爵家は、彼以外には子供がいないらしい。侯爵夫人は既に亡くなっているらしく、父と子二人きりであるそうだ。

 そういった境遇は、私とお母さんに似ているといえる。今となっては、大家族の一員になっているが、昔は私も二人っきりだったのだ。


「今回は、そんなディトナスが同年代の子息子女を集めて開くお茶会ということらしい。誰こそ、父上も僕達に白羽の矢を立てたんだろうね」

「え? 単純にお兄様方だと過激だからじゃないの?」

「まあ、そうかもしれない。今回のこれは要するに、クラリアと対面することが目的だろうからね。多分、アドルグお兄様は絶対に無理だ」


 オルディアお兄様は、呆れたような笑みを浮かべていた。

 それに対しては、エフェリアお姉様も苦笑いを浮かべている。アドルグお兄様がそういう人であるということは、共通の認識であるらしい。


「そういえば、ロヴェリオはどうしてついて来たの?」

「え?」


 そこでエフェリアお姉様は、私の横にいるロヴェリオ殿下に話を振った。

 それに彼は、驚いたような顔をする。突然話を振られたため、面食らっているようだ。


「ど、どうしてって、それはもちろん、クラリアが心配だからですよ」

「そうなんだ。ロヴェリオは結構心配性なんだね」

「王家にとっても、クラリアのことは無関係ではありませんからね。把握しておく役割が、俺にもあるというか……」

「まあ、ロヴェリオにも色々とあるんだろうね」


 ロヴェリオ殿下は、私が頷いた後に同行を申し出てくれた。

 それはもちろん、私にとってはありがたいことである。味方は一人でも多い方が良い。それがロヴェリオ殿下なら百人力だ。


「招待状には、別に何人で来ても良いと書いてあるからね。特に問題はないだろう。ロヴェリオも身内である訳だし、向こうも違和感は抱かないはずだ。クラリアと同年代である訳だしね」

「まあ、私達は私達の役目を果たすだけだよね……私はあんまり自信はないけど」


 エフェリアお姉様は、苦笑いを浮かべて居た。

 今回私達には、ドルイトン侯爵家の真意を探るという重要な役目がある。それをしっかりと果たしていかなければならない。

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