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妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?  作者: 木山楽斗


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第10話 責任の所在(アドルグside)

「……なんで俺も同行することになっているんだか」

「ロヴェリオ、そんな顔をされると俺としては少し傷ついてしまうな。俺と一緒は不服か?」

「いや別に不服ではありませんけれど……」

「一応お前は、俺のお目付け役ということになっている」

「半分くらいの年齢の子供がお目付け役って、それでいいんですか?」

「くくっ……お前も言うようになったものだな」


 ロヴェリオの言葉に、アドルグは笑顔を浮かべていた。

 いとこではあるが、彼にとってロヴェリオは弟のようなものである。アドルグはその弟の成長を喜んでいるのだ。


「それで、本当に行くんですか?」

「ここまで来て引き下がる理由もあるまい」

「はあ、嫌だなぁ……これから絶対に修羅場だし」

「今の内から慣れておくことは必要だ。何事も経験だぞ?」

「その修羅場を引き起こしたのは、アドルグ様ですよね……?」


 アドルグとロヴェリオは、ドルートン伯爵家の屋敷にやって来た。

 その目的は一つである。その家の令嬢ペレティア及び、カラスタ子爵家の令嬢サナーシャが、ヴェルード公爵家のクラリアに対して行った非道の数々に対する、代償を払わせるのだ。

 それは明らかに、良い場にはならない。それがわかっているからこそ、ロヴェリオも嫌がっているのだということは、アドルグも理解していた。


「しかしそう思ったからこそ、伯父上も俺にお前を任せたのだろう」

「父上め、恨んでやるからな……」

「事情も知っているお前が、適任だと思ったのもあるだろう。そもそもの話、お前だってあの二人には思う所があるのではないか?」

「ないとは言いませんよ。でも、アドルグ様程過激ではありません」

「安心しろ。俺もその辺りは弁えている。本当は八つ裂きにしたいが、七つ裂きに留めるとしよう」


 当然のことながら、アドルグも今回の件で二人の令嬢に過剰な罰を与えられないということは、わかっている。

 それで彼の怒りが完全に収まるという訳ではないが、被害者本人であるクラリアの意見も、彼は尊重しようとしているのだ。


「幸いなことに、ドルートン伯爵とカラスタ子爵とは話がついている」

「え? 七つ裂きで?」

「無論、そういう訳ではない。二人は家から追い出されるようだ。正式に親子の縁を切るらしい」

「そ、そこまでするんですか?」

「当然だ。そうしなければ、我々は家そのものを追い詰める他なくなるからな」


 二人の令嬢は愚行を働いたものの、それぞれの家の当主は馬鹿という訳ではなかった。

 家を助けるためには娘を切り捨てる必要があると判断して、それを実行することを決めたのである。

 アドルグは、それで今回の件を手打ちにすると決めた。それはヴェルード公爵家を背負う彼なりの割り切り方なのである。




◇◇◇




 アドルグは、ドルートン伯爵とその娘であるペレティア、カラスタ子爵とその娘であるサナーシャとロヴェリオとともに対峙していた。

 二人の令嬢は、アドルグのことを睨みつけている。ただその視線に力はない。流石に彼女達も、正式な公爵家の令息である自分には勝てないと思っていることを、アドルグは理解した。

 その一方で、彼女達の父親はすっかり怯え切っていた。この国において、ヴェルード公爵家の影響力は多大だ。その機嫌を損ねているという現状が、二人はよくわかっているようだ。


「アドルグ様、これは一体どういうことなのでしょうか?」

「……ペレティア嬢、質問の意図が計りかねる。あなたは俺に何を聞きたいのだ?」

「どうしてあなたが、ここを訪ねて来たのかを聞きたいのです。私達が一体、何をしたというのですか?」

「まさかわかっていない訳でもあるまい。俺の妹をあなた達は侮辱したのだからな」


 アドルグがそれぞれを睨みつけると、サナーシャは震えて、ペレティアはその表情を歪めた。

 クラリアから、二人の令嬢の様子はアドルグも聞いている。そのことからも予想していたが、彼は改めて主導権を握っているのはペレティアであると気付いた。

 家同士の力関係的にも、それは特におかしくはないことだ。それを認識しながらアドルグは、ドルートン伯爵の方に目を向けた。


「ドルートン伯爵、あなたにお聞きしたいことがあります」

「な、なんでしょうか?」

「ご息女は、前々から少々お転婆な所があったと聞いています。以前にも同じようなことをしたそうですね。その時あなたは、何も注意しなかったということでしょうか?」

「ま、まさか、きちんと注意しましたとも」


 アドルグには、ドルートン伯爵が嘘をついていることはすぐにわかった。

 彼の目は泳いでいる。それは明らかに、やましいことがある時の動きだ。

 故にアドルグは、父親の性根まで捻じ曲がっていることを認識した。そもそもの発端が、目の前の伯爵であることは明白だったのだ。


「カラスタ子爵、あなたにもお聞きしておきましょうか?」

「わ、私は別に……す、全ては娘の責任です」

「お、お父様……」


 次に目を向けたカラスタ子爵は、娘と同じようにその体を震わせた。

 それに血の繋がりを感じながらも、アドルグは忌々しく思った。子爵がその責務から逃げて、娘に責任を押し付けようとしているからだ。


 二人の令嬢の行いは、許されるものではない。それに対する罰を、アドルグは与えるつもりだ。

 ただ、その責任の全てが二人にあるとは彼も思っていない。二人の父親と話したことによって、アドルグはそれをより濃く認識している。

 その点において、つい先日失望した両親に対して彼は少し敬意を取り戻した。駄目な所はあったが、それでも二人の精神は気高きものだと、アドルグは思い返したのである。


「私もドルートン伯爵も、被害者なのです! 娘達は愚かなことをしました! 申し訳ありません!」


 アドルグの目の前で、カラスタ子爵は地に頭をつけて謝ってきた。

 それにロヴェリオが困惑しているのを横目で見ながら、アドルグは自分と倍以上年が離れた子爵を見下ろす。

 そうやって見下ろしてみても、彼にはまったく持って理解することができなかった。自分よりも立場が弱い者を虐げることの何が楽しいのかが。


「カラスタ子爵の言う通りです。私達は、きちんとした教育を施してきたつもりです」

「お、お父様、何を……」

「しかし、この娘達は期待を裏切りました。正直頭を抱えています。こんな出来の悪い娘を持つことになるなんて、思ってもいませんでしたから」


 アドルグが二人の令嬢の行いについて考えていると、横からドルートン伯爵が声をかけてきた。その言葉にアドルグは表情を歪める。ドルートン伯爵もカラスタ子爵も、自らの保身しか頭にないことが伝わってきたからだ。

 自らの父親に痛烈に批判されていることに、二人の令嬢はその表情を歪めている。それは自業自得ではあるのだが、それでもアドルグは彼女達に対して幾分か同情していた。二人の父親の言い分が、あまりにも醜いものだったかだ。


「ドルートン伯爵、それからカラスタ子爵、あなた方は何かを勘違いしているようだ」

「勘違い?」

「そ、それはどういうことですか?」

「当主というものは、責任を背負う立場です。家に属する者の行動の全てが、自分達に返って来るものだということをあなた達はわかっていない」


 ドルートン伯爵とカラスタ子爵は、貴族の当主としては不適格である。アドルグはそのような結論を出していた。

 二人の令嬢を家から追放することによって、今回の件を手打ちにする。その結論は変わっていない。しかしそれでも、アドルグは二家に対して指導をする必要があると感じていた。


「やり方などいくらでもあったということです。ご息女をきちんと教育する。教育できなかったのなら外に出さない。そんな風に対処することをあなた達はしなかった」

「そ、それは結果論というものです。今回の件は不測の事態で――」

「ご息女は以前も同じようなことをしたようではありませんか。その時点で、あなた方は対処するべきだったといえるでしょう。一つ忠告しておきましょうか。ヴェルード公爵家はあなた方に目を光らせていると」

「なっ……!」


 アドルグの言葉に、ドルートン伯爵とカラスタ子爵は顔を見合わせた。

 公爵家の監視があるという言葉には、効果があった。二人は派手に動くことができなくなるのだ。自らの行いを改めざるを得なくなる。改められなければ、家が追い詰められるからだ。

 それに焦っている二人を見てから、アドルグは娘達の方に視線を向けた。彼女達にも言わなければならないことがあると、彼は思っていたのだ。


「さて、ペレティア嬢、サナーシャ嬢、あなた方の処遇については家からの追放――つまりは貴族からの除名ということになっている」

「なっ……!」

「ど、どうして私達がそんなことに……」


 アドルグの言葉に、二人の令嬢はその表情を歪めていた。

 そんな二人の言葉に、アドルグは隣にいるロヴェリオがその表情を歪めていることに気付いた。目の前の二人が、何故自分達がこんなことになったのか理解していないことに、彼は腹を立てているようだ。


「……あなた達はクラリアに自分達が何をしているのかわかっていないんですか?」

「クラリア? あんな妾の子のことで、ヴェルード公爵家はこんな対処をするというのですか?」

「妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか? あなた達は一体どこまで……いやそもそもの話――」

「ロヴェリオ殿下、そこまでです」


 アドルグにとって、ロヴェリオがそのように口を挟むのは予想していないことだった。その言葉も彼らしくはない。冷静さというものを欠いた言葉だ。

 ただその言葉をアドルグは嬉しくも思っていた。それクラリアを思っての言葉だということは、明白だったからだ。


「ペレティア嬢、サナーシャ嬢、言っておくがこれだけで済んでいるということにあなた達は感謝するべきだ」

「な、なんですって?」

「俺の妹は寛大だった。あなた方にあれだけのことをされたというのに、必要以上の罰を与えることを良しとしなかった。クラリアは誇り高きヴェルード公爵家の一員だ。あなた方も少しくらいは見習うといい」

「……わ、私があんな妾の子に」

「ペ、ペレティア嬢……」


 アドルグの言葉に、二人の令嬢はかなり動揺しているようだった。

 自分達が見下していた相手から同情されていたという事実に対して、二人は屈辱のようなものを覚えているらしい。

 それを認識したアドルグは、ゆっくりとため息をついた。彼女達の根底にある高慢さというものが、そう簡単に取り除けるものではないとわかったからだ。


「無駄かもしれないが、一応言っておくとしよう。あなた方にはやり直すチャンスが与えられているということだ。これから父親ともども心を入れ替えることだな。今回がこれで済んだということが幸運だったと思え。次は命すら残らないかもしれないぞ?」


 アドルグは、二人の令嬢に対して忠告しておいた。それを彼女達は黙って聞いている。

 忠告が心に響いているかどうかは、アドルグにはわからなかった。ただ彼も、これ以上何かを言うつもりはない。彼が言葉をかけたのは、あくまで心優しき妹に倣っただけだからだ。

 これで生き方を改められないなら、所詮はそれまでの話である。アドルグはそう結論付けて、今回の一件について一区切りつけるのだった。

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