第5話 <人生ゲーム>
あくる日、芽郁は集めた紙をビリビリに破いて処分した。しかしその夜には、そんな芽郁をあざ笑うかのように、木には全く同じ紙が生えてきた。何か手はないかと何日か観察を繰り返したが、切っても破っても燃やしても、効果はないようだった。
憂鬱な日々が続く中、気晴らしでもしようと、芽郁はエレフから本を取り出した。白い表紙には「わすれもの」とタイトルだけが書かれており、それを開くと目にも鮮やかな黄緑色の見返しが広がっている。様々なジャンルの作品が一冊にまとまっているようで、犬の飼い方から、一編の詩、果ては道路地図までと見事にバラバラだった。芽郁も奇妙に思ったが、どんなに奇妙でも、ないよりはましだった。
芽郁は半日かけて本を読み進めると、ページとページの間に紙が挟まっていることに気づいた。紙を取り出し、広げてみると、すごろくのようだ。しかも既製品ではなく、手作りらしい。久々に感じる人の存在に、芽郁も思わずうれしくなる。大判の紙に油性ペンで書かれた文字やイラスト。作者は何を思って作ったのだろう。芽郁は1つ1つのマスにゆっくりと目を通そうとした。
するとラグの上にいるエレフが言った。
「気づいちゃった?それは<人生ゲーム>、私のお気に入り。あなたが沈んでいるのが見てられなくて、ちょっとしたサプライズを仕掛けたの。」
「気持ちはありがたいんだけど、人生ゲームって、ひとりじゃ遊べなくない?虚しさに拍車がかかりそうなんだけど。」
「大勢で億万長者を目指すやつと違って、もっと高尚な遊びよ。ひとりでもちゃんと楽しめるから心配しないで。」
そう言うとエレフは、中からピクニックシートを取り出し、床に広げた。<人生ゲーム>を上に乗せ、自分もちゃっかり横端に陣取っている。芽郁も靴を脱いでシートに座る。
「あと必要なのはコマとサイコロね、取り出してちょうだい。」
芽郁がそれらを取り出すと、エレフはコマをスタート地点へ、サイコロを空いた場所に置いた。
「ゲーム・スタート!」
いつになく高いテンションでエレフがしゃべると、部屋に芽郁の生まれた日の光景が映し出された。プロジェクターがないのが不思議だったが、部屋が真っ白なおかげでスクリーンがなくても良く見える。はじめはポカンとしていた芽郁だったが、しだいに状況を飲み込みはじめ、エレフにこう尋ねた。
「<人生ゲーム>って、自分の人生そのものがテーマのゲームってこと?」
「そうだけど。」
「ちょっと怖くない?」
「私がついてるから安心して。で、やるの?やらないの?」
そう言われると、やらないとは言えない。芽郁はエレフに流されるまま、ゲームを続けることにした。
気に入ってくださったら、ブックマーク、評価、コメントなどいただけるとうれしいです。