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第4話 芽郁の願い

外に行っても誰にも会えないと気づいてから、芽郁は部屋の中で過ごすことが多くなっていた。エレフのおかげで食べるのには困らなかったし、もともと内にこもる性格だったので、ずっと部屋にいることも苦痛ではなかった。


エレフにもらったノートは、日記帳がわりになった。もともと日記をつける習慣はなかったのだが、代り映えのしない毎日だ。ノートにメモしないと、今日が何月何日かもわからなくなる。日付とその日の出来事、一行にも満たない文章だが、芽郁にとっては大事なものだった。


ある夜のこと、芽郁が窓の外を見ると、いつも眺めている木に変化があることに気づいた。うつつ祭の日でもないのに、木から紙が生えている。不思議に思って窓のそばから見ても、夕闇の中に白い紙が映えるのは見えても、何が書かれているかはわからない。


明るくなってから確認に行こうと夜明けを待ったが、朝になると紙が消えている。その後何日も同じようなことが続いた。やはり直接確かめたい気持ちが強くなり、ある夜、エレフをつれて部屋を出た。迷宮のような建物を出て、いつもの窓の外へと急ぐ。月もない夜で、エレフから取り出したランタンが頼りだ。やっとの思いで木にたどり着くと、芽郁ははやる気持ちで紙の文字を読んでゆく。そこには、いくつもの願いが書かれていた。


「周りと同じようになれますように」

「びくびくせずにすごせますように」

「つらい時には守ってもらえますように」


夢見祭の紙には書かないような、ささやかで本音をこぼしたような願い。

自分も似た願いを持っていたことを思い出しながら、見ず知らずの人のものらしい願いに思いを寄せる。


「よく通る声になりますように」

「心の声がきちんと届きますように」

「冴えない自分とお別れできますように」


あまりにも自分がかつて願ったそれに似ているので、芽郁はもしやと思いつつ最後の1枚に目をやった。

そこには、


「みんなの願いが叶いますように」


あの日、願いの木に託すことができずに持て余した言葉、そのものだった。


芽郁は、この木の願いが全て自分のものだと悟るとすぐ、木になっている紙を全て集めた。こんな願い、誰にも知られたくない、と。

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