第3話 エティラディーという場所
あくる日、芽郁は部屋から出て、建物の内外を散策した。
建物の中には、芽郁が使っている部屋の他に10個ほどの小部屋と、大きな円卓と椅子を備えた食堂を見つけることができた。しかし、その広さとは裏腹に、人影を見かけることはなかった。辺りはしんと静まり返り、いつ来るともしれない主を待ち続けているように見えた。
外に出れば人もいるはず、と期待を持って庭に出たが、やはり誰もいない。昨日会った場所に行けばミツキに会えるかもしれない、と芽郁は街を歩きはじめた。昨日にも増して人の気配はなく、不安に思いながら社へと向かう。着いて見ると、入口の門が閉まっている。力一杯開けようとしても、頑丈な門はびくともしない。芽郁は門を叩くと、
「ミツキ、いるんでしょ、ミツキ。いるなら出てきてよ。」
と、叫んだ。
しかし、門の中からはなんの返事もない。異界に来て、なんの説明もなく務めを果たすまで居つづけろとはあまりにも酷だ。芽郁はすぐにでも帰りたいと涙を流した。
いつまで泣いていたのだろう。何時間も泣き崩れていたようにも思えるし、何分かがあまりにゆっくり流れていったのかもしれない。エレフに声をかけられ、ようやく我に返った芽郁は、とぼとぼと来た道を帰って行った。
部屋に帰ってきてしばらくすると、エレフは芽郁にチャックを開けて中身を取り出すように促した。入っていたのは一冊のノートと揃いのペンだった。
「いまのあなたに一番必要なものよ。」
芽郁は今一つ釈然としなかったが、エレフの好意だと思って
「ありがとう。」
と、呟いた。
その晩、せっかくだからと芽郁はノートを開いた。しかし、何を書いていいかわからないまま時間だけが過ぎていき、結局小机の上に突っ伏すように寝てしまった。
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