無名作者と無名作者のカオスコラボレーション。
《燈馬の実家・リビング》
――帰宅早々、燈馬の母親から顔色が悪いと言われ、親父の方は黙って夕刊の新聞を読んでいた。
俺は……瞑をリビングへ置き去りにし、スタスタとお風呂場へ向った。
《お風呂場》
――チャポーン……カコッ――。
【燈馬】
「……ふぅ――湯船にお湯張ってて良かったわ……」
――現実世界の俺なら、きっと……湯船に浸かりながら、タバコでもふかしていた事だろう。
風呂に入りながらのタバコは、世界一旨いのだ……。
そして――後でカーチャンに怒られて、あばばば……。
家の中は禁煙になっても、たまにそんな事があった。
【燈馬】
「ははっ……“懐かしいぜ”――本当に……はぁ――」
寒い日には、外に出たくないもので、ついつい風呂に浸かってタバコをふかし……。
そして、煙いんだよボケぇッッ――!!
なんて……コトもあったり――。
本当に色々とあったコトを思い出していた。
【燈馬】
「しっかし――また……“恋とヤッちまった”――」
……バシャバシャっッ!! ぶくぶくぶくぅ!!
――バシャッッ!! ポタポタポタ……ピチャ――。
【燈馬】
「ハァ……どうしよう――どうすんだ俺は……」
俺は湯船に頭を突っ込んで、気分を落ち着かせようとしていた。
しかし――全く効果がなく……。
【燈馬】
「あぁ――ヤベえなホントに……前回と同じになったら、どうすんだよ……時間もねえし――」
――ガチャッ……パタンッ――。
【瞑】
「……なに? “時間が無い”って……?」
【燈馬】
「おい……マジかよ? な……なんで、風呂場に?」
【瞑】
「いや……なんか、“絶望した顔してたから”……心配してさ?」
【燈馬】
「おいおい――親達居るんだぞ? ナニやってんだ……お前は……はぁ――」
【瞑】
「……うん、さっき様子見てくるって、伝えたから大丈夫でしょ?」
【燈馬】
「いやいやいや……そう言う問題じゃねえよ――まぁ……あの親達なら問題ねぇか――うん」
【瞑】
「――ちょっと待ってて? 体洗うから……」
【燈馬】
「は……ハァ……」
気分が落ち着くドコロか――むしろ悪化していた。
結局……この後、“色々とあるのだ”――。
ほんっと……色々と。
《洗面所》
――フゥーーーーーーンッ……。
ワシャワシャ〜〜、ワシャワシャ〜〜。
【瞑】
「ふぅ……“サッパリした”――ふんふ〜〜ん♪」
【燈馬】
「い……いや――コッチは“ゲッソリ”なんですが」
瞑はルンルン気分で長い黒髪へ、ドライヤーを当てていた。
いつもの、柑橘系な香りではなく……。
ほんっと――ドコでもあるシャンプーや、トリートメントの匂いが洗面所に広がっていく。
それもなんだか……俺には良く感じられて、やっぱり瞑は魅力的に見えた。
【瞑】
「ふぅ……でも――“よかった”でしょ?」
【燈馬】
「う……うん――“ヨカッタ”……」
【瞑】
「ならイイじゃない……“ゲッソリ”でも……ふふっ」
【燈馬】
「お……おん――そうだな……うん……」
本当に瞑は……元気でとっても笑顔が似合う、イイ彼女だった。
正直……俺は、燈馬がとっても羨ましくて、仕方がない――。
こんなに可愛くて美しい女の子がいるのに……。
他の女の子と色々と、関係を持っているのだ――。
きっと――本来の燈馬も……姫乃恋にヤラれて、色々と厄介な展開になり、死んだのだろう。
作中には無い、“描かれなかった裏のエピソード”。
それが今まさに、“ココで起きている”。
描き切る前に作者は飛んで、消えたのだから笑えない……。
雑で適当に書き殴った……そんなWEB小説だった。
ちゃんと完結まで行けば、多少は読まれたコトだろう。
ドコのドイツなのか分からないが、ソイツは作品を書くのを止めて、未完のままにした。
本当に惜しい作品だった……。
俺は陰ながら、そんなガラクタみたいな作品を楽しみに待っていた。
しかし――待てど待てど……更新はされずに終わったのだ――。
WEB小説は……そんな惜しい作品が、ゴロゴロ転がっている。
マトモに書けて、マトモに完結出来る作者は……。
“本当に一握りな世界”なのだ。
しかし……文句も言えない――。
有料ではなく、無料で読めるプロもド素人も混ざった、カオスな世界なのだ……。
いつの間にか、更新されなくなって終わる作品など、山の様にあり、星の数もあるのだから。
でも……俺はとても悲しかった――。
いつか――更新してくれると、甘い期待をしていたのだから。
大抵……そんな読者の思いは作者には伝わらない。
WEB小説は、好き勝手書き散らかす作者も多い。
言ってしまえば……見切り発車のまま、書き始め、風呂敷を広げ過ぎて――自分で畳めなくなった。
大抵はソレが原因で頓挫する。または、日常生活が忙し過ぎて、徐々に書けなくなってフェードアウト。
本当に集中力がぶち切れて、脳が空っぽになって、本当に書けなくなった。
または、病気で執筆不能になるか……くたばったか。
答えはそこら辺に大体あるのだ……。
長編モノを最後まで、“書き切れるヤツは一握り”。
ソレが――“WEB小説と言うモノ”。
俺自身も、少しはWEB小説を書いて、暇を潰していたのだから、多少作者の気持ちは汲むコトが出来る。
しかし……俺は――“完結を誰よりも見たかった”。
きっと――俺が世界で一番、無名なそんな作者を、応援していたのかも知れない……。
だから――こんな意味の分からない、異世界に転生した。
本当にイカれた展開だった。
――バッシィイィ〜〜ンッッ!!
【燈馬】
「……ぎゃおぉおっおっふっッ――!?」
【瞑】
「な〜に……“自分の世界”に入ってるのよ――?」
ヒリヒリ〜〜ッッ……。
――さすさすっ……スリスリぃ〜〜。
【燈馬】
「あぁ゙……痛い――おほほっ……思いっ切り、お尻叩いたでしょ……あ〜〜いってぇ……うぅ〜〜グぅ……」
【瞑】
「いや……“なんかアホみたいなコト”考えてるなぁ〜〜ってさ? ふふっ……“目が覚めたかな”?」
【燈馬】
「おうよ……“お陰で目が覚めた”……マジで――」
【瞑】
「ならイイのよ……ふふっ――さ、アナタも髪を乾かして、もう行きましょ?」
【燈馬】
「おう……分かった」
……パシッ――。
俺はドライヤーを瞑から受け取った。
そのまま髪を乾かしながら、“再度誓った”。
作者不在なら……“俺がこの物語を完結させる”――。
書き切れなかった作者の代わりに……俺が――。
……せめて、“続きを描いて”やろうと。
ココからは、“完全な改変になる”のだろう……。
しかし――ソレも……“一つの結末”なのだ。
書き切れなかった作者に代わって、俺が――。
“この物語を創り変えて”……“完結まで持って行く”。
もし……コレが最後のループだとしても。
進み続けるしかない――。
望んだ通りのハッピーエンドなんて……。
無いかも知れない。
それでも……“描き続ける”しか無いのだから。
よく分からん、無名作者の未完のWEB小説を――。
それまた……無名作者の俺が――“描き切る”。
誰も望んでいない――カオスコラボレーション。
……ソレが今まさに――ココで始まる。
《燈馬の自室》
――アレから俺達は、家族達と食卓を囲んだ。
ほんっと……たわいない話を少しだけ交わして。
【瞑】
「ふふっ……本当にアナタの部屋は空っぽね?」
【燈馬】
「いや……知らねえよ――記憶ねえしさ……」
【瞑】
「あぁ……そうだったわね。ふふっ……でも、なんだか、“アナタは堂々としてる”から……」
【燈馬】
「ふぅ……そうだな。なんでだろうね? 俺にも分からねえよ……ははっ――?」
【燈馬】
「でも……こんな質素な部屋も悪くねぇ……」
俺はそもそもループ1回目の身だ。大体の状況は把握している。
しかし……本当に燈馬の部屋も、現実世界の俺も……。
本当に部屋の中は、シンプルでモノが少なかった。
あの……恋の部屋に比べたら、本当に雲泥の差。
そんな本当にスッキリしていて、イイ部屋だった。
【瞑】
「そうね……シンプルでイイ部屋だと思うわ?」
【燈馬】
「だろ――? 結局……いくらモノがいっぱいあっても、使わなきゃ、ただのガラクタに過ぎねぇんだ」
【燈馬】
「必要なもんだけありゃそれでイイ……“ソレで十分幸せ”なんだから――」
俺は三十路を迎えた頃には、そんなコトを考えていた。
ただ――飯が食えて、タバコが吸えて……。
雨風凌げる家があれば、ソレで十分幸せだと。
世の中には沢山の誘惑があって、人々はソレにドップリ浸かって、いつの間にか身動きが取れなくなっている。
本当に幸せなコトってなんだっけ状態。
そう考えた時、極論……。
“息吸って生きてるだけ儲けもん”。
俺はソレに気が付かされたのだ――。
人類は皆、その些細でちっぽけな幸せに、気が付かずに……。
不幸だなんだと騒ぎ、喚くのだ。
そんなモノの本質を、自分が幸せ過ぎるがあまりに……。
“誰もが”――“気付かない”……。
“当たり前の日常”、“当たり前の日々”――。
“その全てが幸せだと言うコトを”……。
世界はとてつもなく広く、そして残酷だ。
1秒毎に何処かで人は死ぬ。
ソレが常に止まる事なく――続いて行く。
そんな世界でマトモに体が動かせて、飯が食えるのだから、どれだけ恵まれてドレだけ幸せなのか。
誰もがその本質を見失って、分からなくなる。
ソレがこのご時世には蔓延って蝕んでいる――。
――ゴッッ!! ぐぐぐぅ〜〜メリメリぃッッ!!
【燈馬】
「あんぎゃ〜〜ッッ!! ごばぁッッ――ごぶっ――ゲホッ、ゴホッ――ガッ……ハッ――あぐぅ……?!」
【瞑】
「さっきから……アナタは――ボーっとし過ぎ!!」
【燈馬】
「……ゲホッ――ゴホッ――おげっ、はぁ、ハァ、ハァ――良いパンチじゃねえかよ……軽く効いたぜオイ……ハハッ――ゴホッ……はぁ……イッテテッ――」
俺は瞑に、ボディーブローを喰らって悶絶していた。でも……こんなモノも――きっと幸せなのだ。
……痛みも辛さも感じられる。
世の中には、何も感じられなくなった人もいる。
そんな中――俺は痛みも悲しみも喜びも……。
“感じられる”のだから――。
【瞑】
「なに……“ニヤニヤしてるのよ”? 額に脂汗浮かべながら――」
【燈馬】
「いや……ゲホッ――俺って……“幸せ”なんだなって――さ……?」
そう――俺は世界一幸せだった。
“一度死んだハズなのに”……こうして息吸って生きてる。
それだけで十分幸せなのだ。
【瞑】
「そうね……ふぅ――“色んな女の子と遊べて”、それでいて、“記憶も都合良く無いモノね”……?」
【瞑想】
「おうふっ……はひっ――“その通りですぅ”……」
俺はぐうの音も出ない――。
本当に幸せなのだから……。
これで不幸なら他の人はどうなのだと。
一番エンジョイして、楽しんでいるのは自分じゃないかと……。
【瞑】
「ふふっ……それに、“アナタの両親”――“明日は有給でデートに行くんですって”?」
【燈馬】
「はひっ……!! そ――そうですぅ……」
【瞑】
「ほ〜〜んっと――“都合がイイわよねぇ”……? フフッ――はぁ……私も明日、学園サボっちゃおっかなぁ〜〜?」
【燈馬】
「いや――学園に行った方がよろしいのでは……?」
【瞑】
「う〜〜ん……でも、姫乃さんが絡んでくるでしょう? だから――ふふっ……サボろっかな〜〜って」
【燈馬】
「ハァ……俺は今まさに、お前に絡まれそうなんだけど……?」
【瞑】
「うん……そうね? “今から絡みたいけど”――その前に、ちょっと――」
【燈馬】
「……なんだよ――本棚なんか眺めて?」
【瞑】
「いや――“姫乃さんの情報”とか無いかなって?」
【燈馬】
「ふむ……確かにな? ワンチャンあるかも……?」
そう言えば、前回のループでは……。
俺がこの部屋を調べる展開には、ならなかった。
調べる前に――俺は死んだのだから……。
本当に唐突なバッドエンドを迎えた。
姫乃恋――アイツに襲われて俺は死んで……。
まさかのループを果たしていた。
遂にココで……千載一遇になり得る、そんなチャンスが巡ってきた。
そんなチャンスに俺は、思わず背筋をゾクゾクさせていた。
【瞑】
「……悪いけど、勝手に漁らせて貰うわね?」
【燈馬】
「あぁ……イイぜ? あ――でも、”エッチィ本”とか出て来たらマジウケるわ」
【瞑】
「ふふっ……“それも込みで探すのよ”!!」
【燈馬】
「やたら元気そうじゃない――ははっ……メチャクチャ楽しそうじゃん、瞑――お前……」
【瞑】
「ふぅ……そりゃそうよ、なんだかワクワクするじゃない? 勝手に人の部屋を焦るなんて……」
【燈馬】
「まぁ……ね? 本当に、俺に記憶が無くて良かったよ……」
【瞑】
「だからこそよ――ふふっ……燈馬の秘密を暴ける機会は中々無いわ?」
【燈馬】
「ははっ……“本当に楽しそうだ”――」
【瞑】
「えぇ……“とっても”」
瞑は口許を歪ませ、厭な程ニヤァ〜〜っと嗤った。
それこそ……ニヒルな笑みを浮かべて。
そうして――瞑の捜索が始まる。
俺は黙ってベッドに座りながら、チョコマカ動く、可愛い可愛い、そんな瞑を眺め続けていた。
《燈馬の自室・数分後》
――チッ……。
瞑の舌打ちが聴こえてきて――。
俺には超スピードで、それがナニを指すのか……。
光よりも速く理解出来ていた。
【燈馬】
「ふふっ……“エッチィ本”は出てきたか――?」
【瞑】
「……“無いわよ”――おっかしいなぁ……なんで?」
【燈馬】
「いや……コッチがなんで? えっ……? え?」
【瞑】
「いやいやいや……え? え……?」
【燈馬】
「――いやいやいやいや……えっ?」
俺達は本当にお互い――ポカーンとしていた。
そうだったのだ……燈馬の部屋には――。
“不健全だけど”、“健全な本が無い”のだ……。
二十歳なのに……そんな本の一つも出て来ない。
逆に不健全な部屋なのだ。
【瞑】
「おっかしいなぁ……まさか一本も無いとは……」
【燈馬】
「いや、俺も……まぁ――ソレには同意するわ」
二人して、頭を悩ます問題だった。
俺も瞑も……えっ? ソレしかないのだから……。
【瞑】
「ふぅ……でも――“コレなんてどう”?」
……スッ――。
瞑は俺に、一本のアルバムを見せて来た。
【燈馬】
「……“幼稚園”――の? “卒業アルバム”……!?」
【瞑】
「そう……“ココにもしかしたら”――“姫乃さん”……」
【瞑】
「“写ってる”ん……じゃ――?」
……ゾワゾワっッ!! ゾゾゾッ――!!
【燈馬】
「おいおい……そんな――まさか……?」
俺は背筋を本当に凍らせていた。
そう――作中で恋との絡みは見た記憶が無い。
一応……本当に微かに、他のヒロインと絡んでる様な記述があったような、無かったような――。
そんな曖昧なモノだった筈だ。
恋と燈馬の描写は無いとするならば――。
――ペラッ……ペラペラッ――ピタッ……。
【瞑】
「ふぅ……“間違いない”――“あの子だわ”……?」
俺がボーっとしている間に、瞑は真相に近付いていた。
それは――アルバムに乗っていた集合写真だった。
ソコには……。
【燈馬】
「おい……マジかよ――“コレ”……“姫乃恋”だ……」
【瞑】
「間違いない……“名前も”――“髪の色も”……“全部一緒だ”――」
そう……その集合写真には――。
“幼き頃の”……“燈馬”と――“恋”が写っていた。
【燈馬】
「ククッ――“そう言うコトかよ”……おいおい――コイツは“本当にやべぇ”……“話”になってきたぜ……?」
俺は点と点が繋がった気がして、思わず笑ってしまった。
【瞑】
「ちょっと……なにその青褪めた顔――本当にヤバそうな気配がするんだけど……?」
【燈馬】
「……“やべぇドコロの話じゃない”――本当に……」
【瞑】
「勿体振らずに教えてよ……“アナタと姫乃さんにナニがあったのか”――」
【燈馬】
「イイぜ……? ただ――コレは俺の推測だ……ソレだけは覚えておいてくれ」
【瞑】
「うん……」
そして、俺は語り始める。
燈馬と恋に関する――推測を。
【燈馬】
「恐らく……俺は――“幼き時に”……“恋を振った”」
【瞑】
「えっ――? えっ? いや……でも、“そんな幼い時のコト”普通……覚えてるモノなの?」
【燈馬】
「……“普通じゃないから覚えてんだ”」
【瞑】
「んなっ――ナニソレ? 意味分からない……」
【燈馬】
「瞑……“アイツの美貌”は知ってるだろ……?」
【瞑】
「えぇ……“クッソムカつくほど”――可愛いわ……」
【燈馬】
「あぁ……いや、お前もすげー可愛いケドな?」
【瞑】
「はぁ……アリガト」
【燈馬】
「……んんっ――ゴホンっ!! で、お前も行った通り、姫乃恋はクッソムカつくほど、可愛いワケだ」
【燈馬】
「つまり……? そんなヤツが、“俺みたいなヤツに振られたと”する――さぁ……どうだ?」
【瞑】
「……それも、クッ――ソ――ムカツクわね?」
【燈馬】
「だろ……? “そう言うコトだよ”……自分から振るのはイイとして、俺みたいなヤツに振られたら、どうなるのか……」
【瞑】
「成る程……“いつまでも忘れない”――と……?」
【燈馬】
「あぁ……そうだ。きっと――ずっ〜〜っと……“俺の 事を根に持っていた”んだろうぜ……」
――正直、俺は恋本人ではないから、本当のコトは何一つ分からない。
でも……俺が恋だとしたら――よく分からないモブに振られて、ブチ切れる。
そんなコトを思ってしまうのだ。
【瞑】
「それで……姫乃さんは、“どっかのタイミングで転園でもした”――?」
【燈馬】
「恐らくはな……だから、記憶がある時の俺には、恋との絡みは無いし、恋との思い出もない……」
……ソレなら“本当に都合の良い話”なのだ。
ガラクタの様なWEB小説。
プロみたいな完璧なストーリーなんて、描けるワケがない――。
だとするならば――無理矢理ストーリーを繋げる為に……。
“一番奥底へ”――“情報を隠す”……だろう。
【瞑】
「だからか……燈馬――アナタに執拗に迫るのは」
【燈馬】
「だろうな……合同合宿だか、なんだか知らねえが、ソコではアイツ……髪の毛黒く染めてたんだろ?」
【瞑】
「……そう言えば、“アナタも黒く染めたのね”? ふふっ……一切触れなかったけどさ?」
【燈馬】
「あぁ……穂村姉妹の母親が黒染めくれてな」
【瞑】
「ふぅ〜〜ん? まぁ……イイんじゃない? いつもより、ビシッ――と、決まってるみたいだし」
【燈馬】
「あぁ……まだプリン頭よりはマシだろうよ」
【瞑】
「そうね……で――話を戻すけど、つまりソレはワザと黒くして、“地味にしてた”……と?」
【燈馬】
「あぁ……多分な? ただでさえ目立つヤツだ。勝手にホイホイ野郎共が、声を掛けるだろうぜ?」
【瞑】
「でしょうね……あの子――“完璧だもの”……」
【燈馬】
「……安心しろ――“俺は瞑の方が完璧に見える”」
魅力なんて人それぞれなのだ。
そして俺はやっぱり、瞑が一番良く見えていた。
もし……恋と先に出逢っていれば――。
逆の想いを抱いているかも知れない……。
“初めての相手”――ソレは“一番印象に残るモノ”だ。
だから俺は、先に瞑と出逢って良かったのだと。
常に思うモノだった。
【瞑】
「アリガト……でも、“嫉妬しちゃうかも”――女の私から見ても……彼女、魅力的に見えちゃうし」
【燈馬】
「まぁ……うん」
【瞑】
「あ……否定しないんだ? ふふっ……まぁ、そうよね――“燈馬は姫乃さんとも”……“シタし”……?」
【燈馬】
「やめてよ……その話は――マジでゴメンって……」
そう……お風呂場で詰められて――。
あの件を俺は瞑に話したのだ……。
【瞑】
「まぁ……イイわ? ソレより――どうしましょうかね……本当に。きっと――姫乃さんは、アナタに相当恨みとか――未練とかあるんじゃない?」
【燈馬】
「……だからよ――マジ意味分かんねえし……んなガキの頃の話をいつまでも根に持たれても、コッチは困るっての……」
【瞑】
「いや、持つんじゃない? アナタのコトだから、うん、無理とか言ってそう……」
【燈馬】
「うわぁ……ソレは効くわ――うん。それに、ガキなんて適当に発言するから、悪気無く素直に言っちゃうんだわ……」
【瞑】
「うん……子供は素直だもんね? まぁ……今のアナタも、“ズバズバ言ってるケド”――」
【燈馬】
「バカだなぁ……“コレは愛”だ。ガキも大人も一緒、伝えなきゃなんねえコトは、いくらでもある」
【燈馬】
「ソレをオブラートに包むのか、そのままストレートに伝えるのか……ソイツ次第ってワケよ?」
【瞑】
「おぶ……“オブラート”? ナニソレ……?」
【燈馬】
「ふぅ……“一昔前にあったヤツ”だよ。クソ苦い粉薬をだなぁ……薄っぺらい食える紙に包んで、それを飲むんだよ――」
【瞑】
「なんでそんな古い情報ばっかり、記憶してるのよ……? マジで意味が分からない――」
【燈馬】
「……いや、知らんて――トホホ……ほほぉ……」
――俺にもソレは分からなかった。
【瞑】
「うん……ソレで? アナタは、“どう思うの”?」
【瞑】
「その……あの、姫乃さんが今後、“どう動くのかって”……」
【燈馬】
「――う〜〜ん……そう――だなぁ……」
恋がどうしたいか……ソンなのは決まっている。
きっと――“俺達を”……。
【燈馬】
「“コレも推測だが”――“俺達の仲をグチャグチャにして”……“壊したいんだろう”――」
【瞑】
「ふぅ……そうよね――きっとそう。うん……私も姫乃さんだったら、そうするかも」
【瞑】
「だって……自分を呆気なく振った相手は、“平然と仲良く”――仲間達と過ごしているんだもん……」
【燈馬】
「いや、重いって……終わってるって――十数年前のコトをいつまでも、いつまでも……駄目だって……」
――本当に俺達は、気が重くて仕方がなかった。
ズーンっと……空気が重苦しくなって、体も心も何もかも……重かった。
【瞑】
「本当にアナタは最初から最後まで……トラブルメーカーなのね? 凄いわよココまで貫くと……」
【燈馬】
「いや……姫乃の方がやべぇって――マジで終わってる……」
ココで前回の伏線が回収されたのだ……。
恋が俺を最後――“殺す前に言ったセリフ”。
それは……“私の初恋の人”――。
本当に本当に、“一番最初の恋”……。
誰が気がつくんだと言う、クソみたいな伏線。
ソレが遂に回収されたのだ。
嬉しいような……悲しい様な――。
【瞑】
「とりあえず、少し休みましょうか……ふぁ――あぁ……はふぅ――んっ……ふぅ……眠くなって来た」
【燈馬】
「あぁ……少し、休みたいわ俺も――ふぁあぁ〜〜ふぅ……クッソ眠みぃや……はぁ……良く寝れそう――」
【瞑】
「ふぅ……さぁ、お布団で暖まりましょ?」
【燈馬】
「おん……寝よう寝よう――」
こうして俺達はスヤスヤ――。
寝れるわけもなく……朝まで――。
《燈馬の実家・リビング・朝》
――朝から葉子が襲来し、俺は恋とナニがあったのか……ちゃんと説明していた。
燈馬の両親は愛を育みに、外へデートに向かった。
前回みたいに、葉子にぶん殴られる展開になると思いきや、そんなコトは起きず……。
逆に葉子は、俺に謝るのであった。
アンタの言葉を振り切って、学園の正門で待機してるべきだったと――。
それに……トイレまで追い掛けられる展開は、あったとしても、起こり得ないと思っていたと……。
自分の甘さや俺の腹痛等の、絶体絶命の状況で起きたコトなので、仕方がない。
そんな風に葉子は言った後、俺に頭を下げた。
――悪いのは、全て俺だと言うのに……。
……そのまま俺達は燈馬の家に残り、葉子は一人、トボトボと――学園へと向かって行った。
このまま――“ナニゴトも起きずに”……。
“時が経てばイイ”――。
そんなコトをグッタリしながら、ソファーに座り思っていると……。
――ピンポーン……ピンポーン……。
朝早くから……何者かが、インターホンを押した。
俺は物凄く――“厭な予感がして”……。
一気に気だるさがブッ飛んでいた。
……ピッ――。
【瞑】
「……ナニか――“御用ですか”?」
――あの……“姫乃です”。“燈馬くんは”……。
――“いらっしゃいますか”?
【燈馬】
「うげっッ――?! おいおい……嘘でしょ?!」
インターホンの応答ボタンを押した瞑。
そして――通話口から聴こえる……“恋の声”――。
……ピッ――。
瞑はすぐに通話を終了させた。
【瞑】
「ちょっと待って……なんで?」
【燈馬】
「いやいやいや……俺はアイツに住所とか教えた事ねえぞ――?」
【瞑】
「だ……だよね? ちょっと待って? えっ……?」
【燈馬】
「……えっ? えっ――? いやいや……なんで?」
俺達は朝からパニックになっていた――。
……ピンポーン――ピンポーン――ピンポーン――。
呼び鈴は鳴り止まない……。
軽くじゃなく――重くホラー展開が始まっていた。
【瞑】
「ふふっ……燈馬――ふぅ……とりあえず入れるわよ? うるさいし……ピンポーンピンポーンって」
【燈馬】
「はぁ……イイよ――中に入れてやれ……およよぉ……」
――朝から俺は泣きたい展開へと発展していた。
どうしてこうなるのか……本当に勘弁して欲しかった。
そして――。
【恋】
「はぁ……外はとっても寒かった――うふふっ? ごめんね? “朝からお仕掛けちゃって”……」
【瞑】
「んなっ――“なんの用よ”? 私達、ゆったりしてたのに……」
瞑はちょっと、ドン引きしながら……ピキッていた。
明らかにピリピリしてる感が……。
俺にはガァツッリ……伝わって来る。
ちょっとドコロじゃなく――怖かった。
【恋】
「ふぅ……いや――そうだなぁ……“燈馬くんの顔を見たくなっちゃって”……?」
【燈馬】
「ちょっと待ってよ……なんで、お前がウチの住所知ってんの? 普通に意味分かんねえし……」
【恋】
「あぁ……ふふっ――“八崎さんの後”……“着けたの”」
【瞑】
「よ……葉子か――つまり、コンビニかどっかで葉子を見掛けて、その後……着けたと――?」
【恋】
「ん〜〜まぁ、“そんなトコ”かな……?」
【燈馬】
「いや、お前は学園ちゃんと行けよ……」
【恋】
「あぁ……そうそう、“葵とシタんでしょ”? 聞いたよ〜〜昨日、学園で」
【瞑】
「駄目だ……話を聞いてない――」
【燈馬】
「いやいや……俺がそれ先に言うセリフだよ……」
【恋】
「……葵がね? 燈馬くんと関係持ってるから、私に近付くなって言ってたけど……普通に無理だよ」
【恋】
「無理だから……ふふっ――トイレで……」
【瞑】
「……もう止めて!! “本当に迷惑なんだって”……分かるでしょ? 私と燈馬は、コレからまだ……」
【瞑】
「――“イチャイチャするんだから”っッ!!」
【燈馬】
「ゴガッ――くぅ〜〜ごぎゃがぁ……恥ずかしい」
朝っぱらから、大声でそんなコトを言われたら、俺はもう……両手で顔を隠す事しか出来ない……。
【恋】
「うん……だからね? ふふっ……?」
【恋】
「私も……“混ぜて貰いに来たの”」
【瞑】
「ウゲッ――冗談でもやめてよ……マジで嫌い、アナタの事……本当に邪魔しないで――」
【恋】
「ううん……駄目だよぉ……邪魔しないと、どんどん――“アナタに燈馬くんは傾いて行くでしょ”?」
【瞑】
「は……ハァ? ちょっと待って――アナタ、理解してるの? “私は燈馬の彼女なのよ”……?」
【恋】
「うん……“知ってるよ”? だからだよ――そんなアナタだから、駄目なの……」
【恋】
「だって……アナタ、小柄で華奢だけど――凄く可愛くて、綺麗で……とっても――“色っぽいもの”……」
【恋】
「そんな子にずっと、ベタベタされたら……燈馬くんは、“アナタだけに夢中”になっちゃうじゃない」
【瞑】
「……“ソレが彼女ってもの”でしょ? ナニが悪いのよ……本当に意味分からないわ? アナタの言ってるコト、全部……」
【恋】
「だからよ……その余裕も――強気な態度も……全部気に食わないの――ふふっ、ずっと……燈馬くんの側にいて、“離れないアナタが羨ましかった”……」
【瞑】
「それは……彼女だからね? ふ、普通よ……普通なのよ!!」
【恋】
「でも……アッハハ?! 当の……燈馬くんは……“月夜さんより”――“月宮さん”に惹かれてたんだよね?」
【燈馬】
「……なっ――ナゼソレを……?!」
俺は本当に驚いていた……。
ナゼ、恋がそんなコトを知っているのかを。
【恋】
「ふぅ……“本当はナンデモ知ってるの”――それに、なんだか……“アナタの気持ちが”、“月夜さんに戻って行く感覚も”……“感じ取れたし”――」
【瞑】
「……アナタは一体――“ナニがしたいの”?」
【恋】
「そうだね……ふふっ――とりあえず……“今はもう少し”――“燈馬くんを感じたい”かな〜〜?」
【瞑】
「つまり……燈馬と――“シタい”と……?」
【恋】
「うん……“足りないもん”――“あんなんじゃ”……」
【燈馬】
「そうかよ……なら、“約束してくれ”……」
【恋】
「うん……イイよ? ナニかな? 約束って……?」
【燈馬】
「……ふぅ――“瞑には絶対に手を出さない事”」
【恋】
「ふふっ……イイよ? “元からそのツモリだし”」
――スッ……ピッ――。
【恋】
「はい……“指切りしましょ”?」
【瞑】
「ちょっと待って――? なんで、勝手にそんな約束してるのよ……?」
【恋】
「ふふっ……とりあえず、月夜さんも指切りしよっか? 大丈夫――“今日は違うけど”、“次回からアナタには絶対に手を出さない”から……」
【燈馬】
「瞑……とりあえず約束しとけ。きっと大丈夫だ」
【瞑】
「は……はぁ、ソレじゃあ――まぁ……はい――」
クイッ――キュッ……パッ――。
【恋】
「はい、コレでちゃんと約束したよ? 次は、燈馬くんと指切りしよっか――?」
【燈馬】
「あぁ……是非頼む――」
スッ――ぎゅ……ぎゅっ!!
【恋】
「アッハハッ――強いって〜〜燈馬くん……ふふっ、でも――大丈夫……“絶対に約束は破らないから”……」
……パッ――。
【燈馬】
「マジでソレだけは頼む……瞑だけは本当に、手を出すな――」
【恋】
「うん……“信じて”? “私のコトを”……」
【燈馬】
「……あぁ――“信じる”」
こうして俺は、“二度目の約束を恋と交わした”。
俺はどうなってもイイ……。
でも――瞑だけは手を出させたくは無かった。
もし……恋が本気を出したらどうなるか……。
野郎共に瞑は――。
あまり、想像したくないバッドエンドが、脳裏を掠りまくって、火が出そうだった。
……ぐぅうぅ〜〜っ――。
【恋】
「あ……ごめん――朝ご飯食べてないから、お腹が鳴っちゃったよ……あははっ?」
【燈馬】
「ハァ……とりあえず、朝飯にするか――」
【瞑】
「ふぅ……そうね――ご飯でも食べましょうか」
重苦しい空気は少しだけ、軽くなった気がした。
俺も瞑も……恋のお腹が鳴ったコトで、なんだか気が抜けて、急にお腹が空き始めていた。
この先の展開は分からない――。
“本当に未知のルート”に進んでいるのだから……。
未完のWEB小説は一体、ドコに向かうのか――。
ソレは誰にも分からなかった。




