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氷の女王は何処へ?

 混乱する頭を抑えつつ、俺は仕事に励む。


 すると、昇が声をかけてくる。


「なあ、一体なんだったんだ?」


 とりあえず、誘われたことは言わない方が良さそうだ。

 まだ、俺自身もよくわかってないし。


「よくわからん。なんか、褒められはしたけど」


「ああ、なるほど。お前は気に入られてるもんな」


「そうなのか?」


「だって、お前には全然怒んねえじゃん」


「……多分だが、俺は言われたことをきちんとやるからだと思うが?」


「まあ、それだわな。おっと、いけねぇ。睨まれてるから仕事しよっと」


 視線の先を確認すると、松浦係長と目線が合う。

 たが、すぐに逸らされてしまう。

 ……うーん、一体どうしたんだろうか?

 ここ二ヶ月くらいかな?

 なんか、俺に対して柔らかくなったなぁとかは思っていたけど……。


「おっといけない。俺も急がないと……」


 何を言われるのかわからないが、遅刻だけはまずいということは確かだ。



 そして……予定より少し遅くなったが、なんとか6時半に上がることができた。

 ちなみに、松浦係長は俺より少し早く退社している。

 つまり……急がないと!


「おっ、今日は定時で上がれなかったか?やっぱり、係長が原因だな」


 ……まあ、合ってなくもない。


「いや、たまたまだろう。少し褒められて舞い上がったのかもな。じゃあ、お疲れさん」


「おう、お疲れさん」


 カードを通し、階段にてビルから出る。


「えーっと……歩いてたら間に合わないな」


 運良くタクシーを掴まえたので、店まで連れてってもらう。




 なんとか、6時50分に到着した。

 目の前には、レトロな雰囲気の店があった。


「へぇ……こんな住宅街のはずれに、こんな店が。とりあえず入ってみよう」


 扉を開けて中に入ると、そこはレトロな空気漂うバーだった。

 狭い空間だが席もあり、凝ったインテリアなどが配置されている。

 そして、カウンターにはマスターらしき人と……。

 その場の雰囲気に合った松浦係長がいた。

 長い脚を優雅に組み、背筋はピンと伸び、少し物憂げな表情でグラスを持っている……。

 ……いかん、不覚にも見惚れてしまったな。

 部下としてあるまじき行為だ……よし、意識するな。


「おや?」


「あっ——水戸君、来てくれたのね」


「松浦係長、お待たせして申し訳ありません」


 どうやら貸し切りの状態のようだ。


「ここではやめてちょうだい。今はプライベートなのよ?」


「え?そ、そうなんですか?では、なんとお呼びすれば……?」


「れ、麗奈って呼んで良いわよ……」


「はい?いや、呼び捨ては……ていうか、既に顔赤いですね。どうやら、お待たせしまったようですね……で、では麗奈さんでいいですか?」


「むぅ……まあ、許してあげる」


 なんだ?膨れているのか?

 え?こんな人だったっけ?

 いや可愛いけど……って相手は上司だ!

 会社の上司になんて考えを……フゥ、冷静に冷静に。


「まあまあ、とりあえずは席についてくださいませ」


「あっ、はい。えっと……」


「申し遅れました。当店のマスターである倉敷と申します。気軽にマスターとお呼びくださいませ」


 ダンディな人だな……白髪をオールバックにしてて。

 歳は60超えてそうだけど、姿勢も良いし所作も綺麗だ。

 うん……雰囲気といい、良い店だな。


「ご丁寧にありがとうございます。私の名前は、水戸侑馬と申します」


「ええ、よく知っております。麗奈さんから伺っておりますから」


「ちょっ!?ま、マスター!」


「ハハ……何を言われてるやら……」


「べ、別に大したことは……」


「貴方の仕事ぶりを褒められてましたね。堅実で自分の出来ることをきちんとやる方だと……」


「そうなんですね……まあ、つまらない人間ですよ。型にはまったことしか出来ませんから。でも、そう言って頂けると嬉しいです。れ、麗奈さん、ありがとうございます」


「水戸君!」


 な、なんだ?めちゃくちゃ怒ってるぞ!?


「は、はい!」


「貴方はつまらない人間なんかじゃありません!皆が嫌がる面倒な仕事も率先してやってくれます!私はいつも助かってます!」


 ……嬉しいこと言ってくれる。

 ただ、口調が変わってキャラが崩壊している気が……。


「ありがとうございます、とても嬉しいですね。こちらこそ、そういうところを評価してくれる麗奈さんに感謝しております」


「むぅ……口調が硬い……もっとフランクにして!」


「はい?いや、ですが………」


「上司命令よ〜!」


「いや、プライベートなのでは……?」


「……ダ、ダメ……?」


 えぇ——!?上目遣い……!

 こ、こんなに可愛らしい人だったのか!?

 誰だ!?氷の女王とか言ってたのは!?

 こんなの、ただの可愛らしい女性じゃんか……。


「わ、わかりました!なるべくそうしますね!」


「むぅ〜、まだ硬いけど……許します!」


「ホホ、では水戸さんもどうぞ」


「あっ——ですが……」


 こういうところの値段がわからないぞ?


「ここはお姉さんの奢りです!」


「いや、でもですね……」


「水戸君はいつも頑張ってくれてるから、私はお礼がしたいのです!」


「麗奈さん……では、お言葉に甘えてもいいですか?」


「もちろんです!ふふふ、楽しいなぁ〜。いつも仕事で疲れちゃうから……」


「ハハ……俺なんかが言うのもあれですが、いつもお仕事頑張ってますもんね」


「水戸君も頑張ってます!で、でも……嬉しいです……」


「ところで……今日は、何故呼ばれたのでしょうか?」


「そ、それは……用がなきゃ呼んじゃダメ……?」


「い、いや……そんなことは……」


「やっぱり……こんなおばさんじゃイヤだよね……アラサーの……」


 ……いや、それ自体は全然ストライクゾーンど真ん中なのですが?

 ……ただ、仕事とプライベートは別だからなぁ。

 あんまりそういう目で見ないようにしているんだよな……。

 だって社内でそういうのとか……どう考えても面倒事になるじゃんか。

 かといって……これはプライベートなのか?と言われると……。


「いえ、そこは問題ないかと。ただ、あまり職場の人とはプライベートで会わないようにしているので……」


「それはわかるかな……で、でも……た、たまになら誘ってもいいかな……?」


「うっ……ハァ……わかりました。たまになら良いですよ」


「ホント!?えへへー、嬉しいなぁ……」


 ……はて?俺は誰と会話しているんだろうか?

 そして、いつまで飲んでればいいんだ?

 ……まあ、いいか。

 いつも世話になってる人だし。

 そんなことを考えつつ、時間は過ぎていった……。








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