麗奈視点
私の名前は松浦麗奈。
このHWAコーポレーション(通称ハワ)という会社で係長をしているわ。
皆には、そこそこの出世頭と呼ばれたりもする。
あと……不名誉なことに、氷の女王とも……。
べ、別に、私は普通のことしか言っていないのだけれど……。
みんな怖がって近づかないから、社内でも孤立しているし……。
私だって、お昼休みくらいは誰かと話したりしたいのに……。
寄ってくるのはセクハラ上司と、自分なら落とせると思ってる勘違い男だけ……。
正直言って、もう転職を考えるレベルなのだけど……。
このご時世にこれだけお給料貰えて、やりがいのある仕事もないと思うし……。
何より……最近、気になる男性もいるし……。
そんな彼の名前は、水戸侑馬君。
二つ下の男性の方で、地味な感じだけどそんなに容姿も悪くないと思う。
何より、彼は仕事をきちんとこなす。
地味な作業や人が嫌がる仕事も、文句ひとつ言わずにこなしている。
ミスも少ないし、私も上司として助かってるわ。
さらには、女性社員を見下さない。
お茶汲みだろうが、係長だろうが同じように接してくれる。
みんなが怖がる私にも、怖がらずに接してくれる。
実は人気があるんだけど……彼は気づいているのかしら?
いつも定時で帰るし、飲み会にも参加しないから知らないかもね。
……そういう私も、飲み会とかに参加しないというか……呼ばれないけど。
……まあ、私だってそれくらいで気になるようなちょろい女ではないのよ。
あくまでも人柄が良くて、頼りになる部下くらいだったのだけど……。
あれは二ヶ月くらい前かしらね……とある日の休憩室前の出来事だったわ。
……もう!なによ!みんなして私の悪口言って……!聞こえてるのよ!
私は、その日も荒ぶっていた。
聞こえてないと思って、皆が私の悪口を言っていたからだ。
私は生まれつき耳がよいし、昔からそういう声には敏感だった。
やれ色気で上司に迫って昇進したとか、同期を陰険な手段で蹴落としたとか……。
そんな暇があったら自分を磨くわよ!全く……。
そして休憩室前で、再びそのような声が聞こえてきた。
「なあ、松浦係長ってさー。ウザいよなー、偉そうでさー」
「あぁーわかるわー。自分の力じゃなくて色仕掛けで昇進したクセにな」
「わかる〜!私もさ〜少しスマホいじってただけなのに、すんごい怒られた。そんな暇あるなら仕事しなさいって!」
「うわー、言いそうだわー」
「多分友達いないんだろ?だから連絡取る相手がいて羨ましいんだよ」
「アハハ!ウケる〜!それっぽい!」
……ムカつくわね。
貴方達がきちんと仕事をするなら……。
私はスマホをいじろうがなにしようが文句は言わないわよ!
でも、貴方達は定時で終わらせられないし、それでいて残業が〜とか言うくせに……!
しかも、そのしわ寄せは真面目に仕事をしている人に行くのよ!
……これは、一度しめる必要があるわね。
ほんとはこんなことしたくないんだけど……私だって……。
私が覚悟を決めて、部屋の扉に手をかけた時……ある単語が耳に入ってきた。
「なあ、水戸。お前もそう思うよな?」
……み、水戸君?彼もいるのね……。
私は彼のことを気に入っている……。
もしも、彼にもそんなこと言われたら……うぅー……立ち直れるかしら?
「なにが?」
「なにがって……松浦係長がムカつくって話」
「ね〜!水戸さんもそう思うよね!」
あの声は……社内でアイドルと呼ばれてる森島恵さんね……。
背が小さくて可愛いらしいタイプで、みんなに人気の……。
水戸君も、ああいう子が好きなのかしら……?
な、なんて答えるのかしら……?
「いや、全然。俺は好きだけど?」
……ふえっ?す、好き——!?わ、私を……?
「はあ!?どこが!?」
「きちんと仕事をしてくれるし、無茶な要求もしない。部下の仕事は評価してくれるし、理不尽なことはしない。なあ?知ってるか?」
な、なんだ、そういうことね……何を残念に思ってるのよ!私!
「な、なにをだ?」
「あの人、誰よりも早く来て仕事してるんだぜ?」
「そ、そんなの私達に関係なくない?」
「いや、あるよ。その日の部下に振り分ける仕事内容や、こうした方がいいってアドバイスみたいのを考えてるんだよ」
「そ、そういえば……俺、言われたことあるな」
「わ、私も……」
「俺もだ……でも、なんで知ってるんだ?」
「メモが落ちてるのを拾ったことがあってね……まあ、返せなかったけど」
あっ——!あ、アレを見られたの!?は、恥ずかしぃ……。
「俺は、あんなに良い上司そうはいないと思うけどね。俺みたいな地味な仕事しかできない社員にも、きちんと評価してくれるし」
「いや、お前が地味とか……」
「俺らとかどうなる?」
「ふ、ふ〜ん、水戸さんはあの女の方がいいんだー」
「ハァ……そういうのじゃない。まあ、綺麗で魅力的だとは思うけどね。ただ、俺は職場にそういう気分で来てないから。おっ……しまった、俺としたことが。仕事しないと定時に帰れない……別に悪口言うなとは言わないけどさ、係長の言い方がきついところもあるだろうし。でも、あの人も何も好きで言ってるわけじゃないと思うんだ。自分の仕事さえすれば文句は言われないはずだし。というわけで、休憩もほどほどにした方が良いと思いますよ」
そう言った後、足音が……く、くる!?
私は、急いでその場を離れました。
……でも、そっかぁ。
水戸君は、そんな風に思ってくれてたんだ……。
私からトゲトゲしたものが抜かれていく……。
私は、元々きつい言い方だったわけじゃない。
仕事しているうちに、こうなってしまっただけ……。
嬉しいなぁ……ああいう時、流されずに言ってくれて……。
きっと勇気がいることだと思う……。
そ、それに……綺麗で魅力的って……。
で、でも、職場恋愛は……わ、私ったら……何言ってるの〜!?
「そうなのよね……あの日から気になっちゃたのよね……で、でもどうしたらいいかわからないし……」
女子校育ちで、仕事人間の私は……だ、男性とお付き合いしたことがないのです……。
「ご、ご飯とか誘っても良いのかな?パ、パワハラとか思われちゃうかしら……?」
よ、よーし!勇気を出して誘ってみるわ!
わ、私だって……れ、恋愛とかしてみたいもの……。