デートその三
その後、中学生のようにはしゃいでボウリングを楽しんでいた俺達だが……。
やはり……実年齢には勝てなかったようだ。
そう——我々はアラサーなのだ。
つまりは……。
「う、腕が……!」
「うぅー……」
調子に乗って、3ゲーム以上やってしまったのが痛かった……。
つい楽しいのと、麗奈さんが上手くなっていくので、熱が入ってしまった……。
ちなみに……隣のレーンでは、学生達が6ゲーム目に突入している……。
それも疲れなど見せずに……若さってこういうことか。
「歳を感じますね……」
「そうね……たった10年くらいなんだけど……」
「言いたいことはわかります……でも、やはり違いますね」
「でも……」
「ええ……」
俺と麗奈さんは、顔を見合わせて……。
「「楽しかったです」」
二人同時に言い、笑いあうのだった……。
その後、しっかりとストレッチをして終わりとする。
ここは、とても大事なことだ。
これをやるとやらないでは、翌日に大きな差がでる。
「じゃあ、私が……」
「いえ、俺に払わせてください」
「で、でも……カラオケだって払ってもらったのに……」
カラオケの時は、麗奈さんがトイレ行っている間に会計を済ませたからなぁ……。
うーん、どうすれば納得してもらえるだろうか?
……ここは、押してみるか。
ここは……場所が悪いな……それに会計待っている人に迷惑だ。
「麗奈さん、ちょっと……」
麗奈さんの手を取り、場所を変える。
「っ——!!」
ん?何か声が漏れたような……?
まあ、いいや。
迷惑にならない場所……あった。
人が少ない場所で、壁際のほうに麗奈さんを誘導する。
壁に手をつき、麗奈さんを力強く見つめる……。
「み、水戸君……?」
「麗奈さん……」
「ダ、ダメよ……!」
「いえ、ダメではありません」
必ず、俺が払ってみせる。
「あぅぅ……強引だわ……」
「ええ、そうでもしないと了承しなそうなので」
麗奈さんは歳上で上司ということもあって、奢られることがないからな。
「な、なんで、いきなり……」
「いえ、昨日から思っていたことです」
日頃からお世話になっているお礼に、今日は俺がお金を払おうと。
「ふえっ?そ、そうなの……?」
「ええ、実はそうなんです」
ここで押し切れば、この後の会計がスムーズに進む。
「え?え?で、でも……まだ、そんなアレじゃないのに……」
「水臭いこと言わないでください。俺と麗奈さんの仲じゃないですか」
一緒に仕事したり、お酒飲んだり……少しは仲が良いと思って良いよな?
「み、水戸君……は、はぃ……わかりました……」
よし!押し切った!
「言質は取りましたよ?……麗奈さん?」
「ふえ?」
「ほら、行きますよ……なんで目を瞑っているんですか?」
「え、えっと……?」
「俺が払うって事で解決しましたよね?もう、決まりですからね?」
「あっ——はぅぅ〜!!」
両手で顔を押さえて、しゃがみこんでしまった……。
何故だ?……耳まで真っ赤になってるし……。
「あの……麗奈さん?」
「水戸君の——バカァ〜!!」
「ちょっと——!?何処に行くんです!?」
「お花摘んでくるのよぉ〜!」
おっと、そうだったのか。
やれやれ、デリカシーがない……こんなんだからモテないんだよなぁ。
今がチャンスだと思い、俺は手早く会計を済ませる。
よし、これで目的を達成したぞ。
疲れたので、入り口の自動販売機の前でジュースを選んでいると……。
「み、水戸君!」
「あっ、麗奈さん」
「か、会計は……?」
「終わりましたよ」
「も、もぅ……あ、ありがとうございます……」
「いえいえ、これくらいはさせてください」
そう言いながら、俺は紅茶とコーヒーを選ぶ。
「二個も飲むの?」
「いえいえ、どっちが良いですか?」
「わ、私に……?」
「ええ、もちろんです」
「……じゃ、じゃあ、紅茶で……」
「はい、どうぞ」
「ありがとぅ……」
何故、紅茶一つで畏まっているのだろう?
きちんと礼も言うし、律儀な方だな。
その後、車に乗りこみ……。
「さて……夕方になりますね」
「五時だもんね……早いなぁ……」
「買い物は、前会った場所に行きましょう」
「懐かしい……って言うほどじゃないね」
「いや、気持ちはわかりますよ」
あの日はびっくりしたからなぁ……。
その後、気まずくない沈黙の中、車は走っていく……。
スーパーに到着し、カートの中に食材を入れていく。
「何がいるかな?」
「卵はありますか?」
「うーん……少しだけあるかも……」
「ん?確認はしていないんですか?」
「ご、こめんなさぃ……作ったりしないから……」
「いえいえ、気にしないでください。最近では珍しいことじゃありませんから」
「そ、そうよねっ!私が働けばいいもんねっ!」
「はい?」
「あっ——な、なんでもなぃ……」
「はぁ……」
何故、頬を染めるのだろう?
やはり、女性というのは謎が多い……。
というか……これって——新婚みたいだな……。
……いやいや!失礼だから!
先ほどのやり取りがあったので、スムーズに会計を済ませる。
「本当にいいの……?」
「ええ、もちろんです」
「でも、飲み物とかデザートもあるし……」
「俺が飲みたいし食べたいから良いんですよ。余ったら、食べてくださいね?」
「水戸君……うんっ!」
よかった……女性だから、きっと好きなはずだし。
きっと、普段は我慢をしているのだろう。
これくらいで喜んでくれるなら安いものだ。
買い物を済ませ、麗奈さんの家に到着する。
「車で5分くらいか……前、歩いてきましたよね?」
「うん、45分くらいかかったかなぁ……」
「偉いですね……俺も運動しないとな」
「デスクワークって身体固くなるもんねー」
「そうなんですよ、肩凝りとかもあるし……」
「私も肩凝りが酷くて……」
……そりゃ……立派ですもんね……。
「……………」
俺は視線が行きそうになるのを必死で堪える……!
「水戸君……?あっ——そ、そういうアレじゃないからね!?」
「俺は何も言ってないです」
「むぅ……」
ただでさえ、今から色々大変なのに、そんなこと考えてる場合じゃない。
女性の部屋に入るって……何年振りだ?
階段を上って、麗奈さんが鍵を開ける。
「ど、どうぞ……狭いところですが……」
「お、お邪魔します……へぇ……」
この間も思ったけど、狭さの割には綺麗にしてるな。
「あ、あんまりジロジロ見ないで……」
「す、すみません……」
いかんいかん、相変わらずデリカシーがないな。
冷蔵庫に物を入れて、居間にて一息つく。
「1DKですか?」
「うん、トイレと風呂は別だし……広くなくて良かったから」
「確かに……何も置いてないですね……」
テレビとパソコンくらいで、本棚とかタンスなんかもない。
「お金がもったいなくて……」
「そうですか……」
これは聞いて良いことじゃないよなぁ……。
何より……さっきから部屋中から良い香りがして……。
頭がどうにかなりそうだ……。
「え、えっと!どうしようかな!?」
「そ、そうですね!」
時計を見ると……六時を過ぎていた。
「つ、作りましょう。時間もアレですから」
「そ、そうね!」
……俺はすぐに後悔した。
何故、この部屋で作ることを了承した?
キッチンは通路にあるので……狭い。
つまりは……密着せざるを得ない……!
「み、水戸君……こう?」
心頭滅却、南無阿弥陀、ニヨーレンキョー……違う気がする。
「ええ、包丁は真っ直ぐにトントントンです」
「トントントン……」
「あっ、そうじゃなくて……失礼します」
後ろから抱きしめるように、麗奈さんの手を取る。
……嗅ぐなよ?俺。
息をするなよ?俺。
我慢してくれよ?……息子よ。
「あっ——は、はぃ……」
「トントントンです……」
「トントントン……えへへ……」
一通り食材を切り終わると、麗奈さんが……。
「どうしましたか?」
「楽しいなって……」
麗奈さんはそう言って振り向く……。
俺は、その笑顔に吸い込まれそうになる……。
「み、水戸君……?」
「麗奈さん……」
「麗奈ー!?いないのー!?」
「おわっ!?」
「ひゃあ!?」
……あっぶね——!!
今、何をしようとした!?
……いや、その前に……。
「今の声は……?」
「お、お母さん!?」
「なんだ、いるのね。開けるわよー」
「ま、待って!」
その声も届かず、ドアが開く。
「麗奈、部屋は綺麗に……してるわね。一体……あら?」
「こ、こんばんは……」
「あぅぅ……」
「…………誰?」
……そりゃ、そうなりますよね。
俺は何か言おうとして……関係性がわからなくなった。
上司と部下?友達?知り合い?……恋人ではない。
三人で顔を見合わせたまま、時が止まるのだった……。




