ゴールデンウィーク前
翌朝、少し早く起きた俺は、2日に一回のお弁当を作っていた。
「さて……今日は洋風にしようかね」
昨日のビーフシチューを食べたせいか、帰ってからずっとそんな気分になっていた。
まずは、昨日から仕込んであるハンバーグのタネを焼く。
「その間に……ご飯はオムライスにしようかな。玉ねぎは仕込んであるし……」
俺は一度飴色に炒めたものを、冷凍庫にストックしてある。
それを、昨日の夜に冷蔵庫に移動させてある。
これがあると、料理がとっても楽になる。
「炒めたベーコンに、ご飯に玉ねぎを混ぜて……」
デミグラスソースも冷凍してあるし……。
ハンバーグには、そのソースでいいだろう。
「スープは……魔法瓶を使うか」
買ったは良いが、使ったことがないし……。
これに、コンソメスープを入れていこう。
「ケチャップを入れて……これでよし」
できたそれを弁当箱に詰めていく。
「次は、卵を溶いて……」
熱を入れて、バターを溶かしたフライパンに卵を投入。
こっからは勝負だ……10秒から15秒の間を……今!
フライパンの柄を軽く叩き、丸くしていく……。
「よし、完璧だな。これを乗せれば……」
オムライスの完成だ。
……麗奈さん、喜んでくれるかな……。
やっぱり、楽しいな。
誰かの喜ぶ顔を想像しながら料理をするのは……。
「トマトやレタスを付け合わせにして……作り置きのトマトペンネを入れて……あとは、ポテトサラダも入れて……」
麗奈さんには感謝しなきゃな……。
嫌いになりそうだった料理が、また好きになってきた。
来週からアドバイザーの仕事もあるし。
「何か、お礼がしたいところだが……」
お弁当箱に詰めながら、考えてみる……。
食事やお酒までも奢って貰ってるし……。
お金がないにもかかわらず……何か返したいよな。
何が良いだろうか……?
仕事を手伝ったり、足を引っ張らないことは当然として……。
「そういや、麗奈さんの趣味ってなんなんだ……?聞いたことないな……」
俺はゲームや小説、マンガやアニメも好きだし……。
お笑いやドラマも嫌いじゃない……。
「そういや……全然——知らないし、知ってもらってないな……」
いや……会社での付き合いなんだから、それで良いはずだ。
昨日だって、そうした方が良いと思ったじゃないか……。
「我ながら迷走しているな……いや、お礼をするのは変なことじゃない。あくまでも、世話になったりた上司にお礼をするだけだ……変じゃないよな……?」
そんなことを考えつつ、お弁当が完成した。
癖っていうのは恐ろしいな……。
他のことを考えながらでも、手元は勝手に動いている……。
それが……良いか悪いかは別として……。
その日の午前中は、指導の時間となる。
「ど、どうですかね……?」
「うん、良いんじゃないかな。手元を見ずに打っても、ミスがなくなってきたね」
「ありがとうございます!言われた通りに、この指はこのキーを押す専用って決めていったらできたんです!」
「結構、慣れると楽だろ?ピアノを弾くのと似たような感じだし」
小野君は、小さい頃にピアノを習っていたようだ。
なので、これが良いんじゃないかとアドバイスをしておいた。
「はいっ!これなら、なんとかなりそうです!」
「そっか、なら良かったよ。人それぞれやり方や、向き不向きがある。もし、小野君が教える立場になったら、そのことを考えるといい。決して、自分には出来たからといって——それを押し付けてはいけない……わかったかな?」
「はいっ!もちろんです!」
「よし……なら、この調子で仕上げちゃおうか」
後ろで見ながら一安心する。
もちろん、まだまだ言うべきことは沢山あるが……。
一度にいっぺんに言ってしまったら、相手はパンクしてしまうし、やる気も出なくなる。
俺が、そうだったように……。
だが、ひとまずゴールデンウィーク前に形にはなってきた。
これなら、とりあえずは平気そうだ。
「水戸君、どうかしら?」
「これは、松浦係長。大分、形になってきたかと」
「へぇ……?小野君、やってみてちょうだい」
「は、はぃ……!」
「緊張しなくて良い。松浦係長は、理不尽に怒る方じゃないから。さっきと同じようにやってみるんだ」
「水戸さん……よし、やってみます」
オフィス内が静かになる……。
皆が仕事の手を止めて、それを見守っている。
そんな中、カタカタカタっという音だけが響く……。
「……もう、いいわ」
相変わらず不器用というか……。
そんな冷たい言い方したら……。
「え?そ、そうですか……」
やっぱり……勘違いしてるな……。
えっと……フォローするには……。
「小野君、松浦係長は……もう十分に出来てるから良いよって言ったんだよ。ねっ?松浦係長?」
「え?」
「……そうよ。それなら、とりあえずは平気でしょう。引き続き、その調子で頑張りなさい……よく頑張ったわね」
「は……はい!ありがとうございます!」
周りから拍手が起こる。
「よくやったな!」
「いやー!緊張した!」
「ドキドキしたよな!」
「あなた達——人の心配をしてる場合なのかしら?」
拍手が一斉に止まり、皆が仕事に戻る。
……あらら……不器用な方だな。
その後、昼休みになり……麗奈さんとお弁当の時間となる。
「わぁ〜!美味しそう!」
うん、相変わらず可愛い方だ。
さっきまでとは、まるで別人のようだ。
「どうぞ、召し上がってください」
「頂きます!……うん!美味しい!このデミグラスソース……マスターのと違うけど、美味しい……甘い?」
「良かったです。ええ、俺は甘めのワインを使って作りましたからね。マスターのは渋みのあるやつを使っているのではないかと……」
「へぇ……そういうのもあるんだ……奥が深いんだね……」
「まあ……俺もプロではないですから、詳しくはないですけど……料理の世界は、一生勉強とも言いますからね」
「大変なのね……あっ——オムライスも美味しい……!」
「良かったです。ほんとは、出来立てを食べてもらいたかったですが……卵のふわふわ感やなどは、どうしても出来立ての方が美味しいですからね」
「え?……た、食べてみたいな……」
「はい?」
「その……出来立てを……」
なんで、出来立てを食べたいのに……モジモジしているのだろうか?
いや……まてよ。
お礼か……俺に出来るのは料理を作ることくらいだ。
「良いですよ。出来立てを食べますか?」
「え……?良いの……?」
「ええ、構いませんよ。麗奈さんには感謝していますから。お礼をしたいと思っていたとこきろです」
「私……何かしたかな……?」
「俺の料理を、美味しく食べてくれましたよ。おかげで、料理が好きなことを思い出しましたし、嫌いにならずに済みましたから……」
「そ、そうなんだ……えへへ……じゃあ、いつお邪魔したら良いかな……?」
「はい?」
「えっと……食べさせてくれるんでしょ?日にちとか……休みの日の方が良いかな?」
……あれ?
ちょっと待てよ……。
えっと……どういうことだ?
お礼に出来立てを作る……そのためには……部屋に呼ぶ必要がある?
……しまったぁぁ——!!
「いや、その、えっと……」
「明後日からゴールデンウィークだよね……私は、土曜か日曜なら……」
待て待て……なんか話が進んでしまっている……。
今更、断れる空気じゃないぞ……。
「えっと……日曜日の方が良いですかね……」
「じゃ、じゃあ、それで……時間とかは、後でいいよね……?」
「え、ええ……」
「ふふ……楽しみだなぁ〜」
……適切な距離を保つはずが……。
いや、俺が墓穴を掘ったのは理解しているが……。
それでも……どうして——こうなったのだろうか?




