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地味な平社員の俺が、何故か美人上司と社内のアイドルに迫られている件  作者: おとら@9シリーズ商業化


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変わる生活?

 次の日から、俺の生活は変わら……なかった。


「おはよう、水戸君」


「おはようございます、松浦係長」


「ええ。今日も、よろしくね」


「はい、こちらこそ」


 ……ホッ……良かった。

 普通の態度だ。

 これなら、俺も問題はない。

 ただ……可愛いらしいあの姿を知ってるからか……。

 これはこれでギャップがあって良い……。

 ……って何を言ってる!?



 ……少し、変わったことがあるとすれば……。


「あっ——おはようございます!」


「ああ、おはよう。小野君」


「おはようございます」


「ええ、おはようございます」


 皆から、気軽に挨拶されるようになったようだ。

 ……どんだけ、気を使われていたんだ……。

 これは反省すべきことだな……。

 もちろん、今までも社会人の基本として挨拶はしていたが……。

 こう……みんなのトーンが違う……。


「さて……今日も頑張るとしますか」


 不思議と気分も良い。

 関わり過ぎないことも考えものだな……。





 前言撤回……。

 俺の生活は変わったようだ……。


「水戸君、良いかしら?」


「はい、なんでしょうか?」


「今日から、私とお昼を食べましょう」


「はい?」


 周りがざわざわする……。


「え?どういうこと?」


「そういう関係?」


「えー、ショック……」


 だが、麗奈さんの顔つきが——凍る。


「静かに——」


 決して大きい声ではないのに……皆が黙る。

 そうだ……これが、よく知っている松浦係長だ。


「そういうことではありません。詳しくは言えませんが、水戸君には新商品開発のアドバイザーをしてもらいます。なので、ここの仕事から少し離れる時間が増えます。その仕事が始まる前に、新入社員や2年目の方を指導をしてもらいます。その打ち合わせの時間がないので、お昼を食べながらということです」


「そういうことね……」


「うわー、可哀想……」


「お昼ご飯くらい、ゆっくりしたいよなー」


「……何か——?」


「「「……………」」」


 ハハ……上司っていうのも大変だなぁ……。

 俺は、係長のことを知っているからアレだけど……。

 無理しているんだろうなぁ……何か、手助けできれば良いけど……。





 あれ?俺は——なんでここにいるんだ?


「ご、ごめんなさい!お昼ご飯の邪魔しちゃって……そんなつもりはなかったんだけど……うぅー……迷惑だったよね……私だって、あんな言い方したいわけじゃないのに……」


「い、いえ……それは大丈夫ですよ。係長が、ホントは優しい方なのは知っていますから。それで……何故、この部屋に?良いのですか?」


「えへへ……コホン……課長が使いなさいって……人に聞かれたら困る内容もあるだろうからって……新開発の情報は、なるべく知られない方が良いしね」


「確かに……他社の営業の方に聞かれたり、営業に行く社員などが喋ってしまう事がありますからね……」


 特に営業の人は危ない……。

 飲みに誘われて、他社に情報を漏らしてしまった人もいるし。


「ここなら、管理職しかいないから万が一聞かれても安心だわ。それで、明日から早速指導をしてほしいんだけど……」


「待ってください」


「え?な、何?どうして怖い顔してるの……?」


 これはまずい……由々しき事態だ。

 顔色も良くないし……ストレスなどでお疲れの様子……。


「係長……いや、麗奈さん」


「は、はぃ……」


「サラダとうどんだけではダメです。俺の家に来た時は、ご飯もおかわりしていましたね?つまり、小食ではないということ……アパートといい……詳しいことは聞きませんが、お金がないのですね?」


 聞こうか聞くまいか相当迷ったが……知ってしまったからには心配だ。

 これからも、一緒に仕事をするわけだし。


「うぅー……バレちゃった……みんなに聞かれたら、体型維持のためとか言って誤魔化してたのに……そうなの……お金がなくてね……」


「俺もそう思ってましたよ。スタイルが良いですからね。お弁当とかは作らないのですか?」


「ほ、褒められた……えへへ〜」


「あの……?」


「ご、ごめんなさい……作れないの……あの買い物カゴ見たでしょ?」


「……そういや、そうでしたね。惣菜や弁当ばかりでしたね……」


「はぅぅ……恥ずかしぃ……い、一応、挑戦はしたのよ?ただ、若い頃にそういうことをしてる暇がなかったから……この年から始めるとなると、時間も中々ないし……」


 まあ、誰よりも早く会社に来てるしな……。

 激務だし、責任のある立場だし……。

 うーん……やってみるか。

 この間、久々に人に食べてもらったら嬉しかったし……。


「麗奈さん……もしよろしければ——2日に1回、お弁当を作ってきても良いですか?」


「え……?えぇ——!?」


「声が大きいですよ」


「で、でも……!どうして……?」


「身体が心配だからです。これからの時期、ますます忙しくなります。それに夏に向けて体力をつけないと、仕事にも支障が出ますよ?」


「うぅー……わかってはいるのよ?」


「ですが、お金も時間もないと」


「す、すみません……」


「謝ることはありませんよ。で、良いですかね?」


「で、でも、迷惑じゃない……?嬉しいけど……」


「大した手間ではありませんよ。見てたでしょ?」


「確かに……パパっと作っていたわね……で、でも、お金が……」


「そのうどんとサラダでいくらですか?」


「……400円です」


「俺が作れば、栄養がついて200円程度ですね。では、200円頂きましょう」


「そ、そんなに安く……?で、でも、水戸君が損するだけじゃ……?」


「自分の分も作れるので、俺にも利点はあります。本当なら作りたいんですけど、1人分って結構大変なんですよ。材料も中途半端だし、作る量とかも……」


「だ、誰かに作ってたの……?」


「ええ。俺は大学生の時、姉貴と暮らしていましたからね。当時、住まわせてもらっているお礼として、社会人の姉貴にご飯を作ってましたね」


「あっ——そういうことかぁ……ホッ」


「では、決まりで。明日から作ってきますので」


「ご、強引だわ……むぅ……お礼は何をしたら良いの……?私にできることなら、なんでも言って……?」


 ……俺は自分を殴りたい。

 今、何を考えた?

 バカなのか?俺は。


「……いえ、今まで通り仕事をなさってください。それが、1番のお礼となります。部下の仕事を評価し、話を聞いてくれる上司は貴重ですから。麗奈さんが元気じゃないと、俺が困ります」


「水戸君……ありがとうございます。ですが、きちんとお礼は考えておきます」


「それはお任せします。俺は、あくまでも自己満足なので」




 その後仕事の打ち合わせをし、昼食を食べ終える。


「さて……戻りましょうか」


「あのっ!」


「はい?」


「……昨日のメール……登録消さなくても良いってこと……?」


「……はい、そのままで。ただ……」


「わかってる!そんなにメールしたりしないから——!」


「ちょっと——!?」


 松浦係長は足早に去っていった……。


 ……いや、俺は……。


 リクエスト聞きたいから、メールくれって言おうとしたんだけど……?


 とりあえず……俺の生活は変わるようだ……。


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