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会社にて

 色々あったり、考えたりした休日が終わった。


 月曜日になり、今日から会社だ。


 ……麗奈さん、いや……松浦係長と会うとき、どういう顔してしてればいいのか……。


「ハァ——俺はどうしたいんだ?」


 昨日は関わらなきゃいいと思ったが、そういうわけにもいかないし……。


 冷たくしたら、仕事にも影響するかもしれないし……。


「しかし……会社は会社だ。恋愛をすることが悪いとは言わないけど……」


 自分に降り掛かるとは思ってなかったし……。

 こんなに気になってしまうとは……。

 係長が可愛すぎるから……。


「……ええい!もういい!なるようになれ!」


 半ばヤケクソ気味に、俺は会社へ向かったのだった……。




「あっ——松浦係長、おはようございます」


「ええ、おはよう。水戸君、今日もよろしくね?」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


「ええ、では失礼するわね」


 ……普通だ……良かった……。

 そりゃ、そうだよな。

 プライベートと仕事は別だよな。

 よし!俺も見習って仕事するか!




 カタカタカタとキーボードの音だけが聞こえる……。

 よし……良いぞ……雑音が入ってくることなく、集中出来てる。


「さて……そろそろ昼休みか……」


 思ったより集中出来たな……。

 もっと、こう……ドギマギするかと思ったが……。

 もしや……あの食事会が楽しかったからか?

 だから、リフレッシュできたりして……。


「朝の挨拶も普通に出来たしな……」


「よう!何やら調子良さそうだな?」


「昇、お前は……残業コースか?」


「うっ……いや、いけるはずさ。今日は会社の飲み会もあるしな」


「ん?平日なのに大変だな……」


「まあ、皆の予定が合う人が今日だったからな。一応聞くが……くるか?」


「いや、悪いな。今日もパスだ」


「あいよー。まあ、無理して来るもんでもないしな」


「すまん……俺がいっても、空気を壊すだけだし……」


「いや……相変わらずだな……そんなことないと思うけどな?お前と話したいってやつもいるし……」


「……そうなのか?」


「ああ。お前の人となりを知る機会がないから、仕事でもどう接していいかわからないそうだ」


 ……そうか……そういう面もあるか……。

 少し考える必要はあるかもしれない……。




 その後、お昼休みを終えてデスクに戻ると……。


「水戸君、少しいいかしら?」


「松浦係長に……田村課長まで……どうしたのですか?」


「なに、少しお話でもどうかと思ってね」


「さあ、行きましょう?」


「は、はい……」


 なんだ?なにが起きている?





 以前昼寝をしてしまった、課長の私室に連れていかれると……。


「えぇ!?俺がですか!?」


「ああ、そうだよ。君が適任かと思ってね」


「……まあ、出来なくはないですが……」


「私も、そう思ったのよ」


 新開発する冷凍食品のアドバイザーとして、企画開発に参加してくれか……。

 洋食の冷凍食品なら、多少はアドバイスできるが……。

 課長には、俺の相談に乗ってくれた際に、ある程度の事情は話してあったからなぁ。


「ですが……俺なんかに務まるでしょうか?専門家を雇った方が良いのでは?」


 プロになることから逃げ出した俺なんかに……。


「もちろん、その案も出たんだよ。でも、今回は家で簡単に美味しくがテーマでね。趣味で料理を作る程度の方の意見が聞きたいそうだ。それに……雇うお金も、バカにならないしね」


「なるほど……それは確かに」


「それに洋食屋の息子である君なら、本物の味は知っているだろう?」


「……ええ、いやというほどに」


「もちろん、断ってくれても構わない。まだ、あちらには話していないしね。あちらの方から、私の部署にそういう人材がいないかと聞かれただけたからね」


 ……課長には、入社当初から世話になっている……。


「その場合、普段の仕事は……?」


「私が調整するわ。後、その仕事はゴールデンウィーク明けに始まるのよ。だから、ゴールデンウィークまでに、新人君に仕事を仕込んで欲しいと思っているの。そろそろ、水戸君にもそういうことをしてもらいたいわ」


「後輩育成ですか……俺なんかに……」


 確かに、本来なら主任になってもおかしくない年代だからなぁ……。


「それ、禁止します。貴方は、自分を自己肯定してあげなさい」


「え?」


「貴方は、自分が思うより優秀な人材です。真面目に誠実に仕事する、貴重な人材です。貴方に足りないのは、自信と人との関わりです」


「おや?それは麗奈ちゃんにも言えることだよね?」


「うっ……それは……」


「まあ、今はいいか。さっきも言ったしね。それで……どうだい?」


 ……特に断る理由もないか……。

 何より、俺を認めてくれた方々の期待に応えたい。

 認められることのなかった人生だったから……。

 やっぱり、嬉しいもんな。


「俺で良ければ、お受けしたいと思います。もしかしたら、期待を裏切ってしまうかもしれませんが……」


「なに、安心したまえ。良い意味で、そこまでの期待はしてないからね。もしそうなら専門家を雇うだけだし、君の他にも何人かいるしね。肩の力を抜いて、適当にやると良いよ」


「……ありがとうございます。では、そのようにお伝えください」


「うん、わかったよ。では、私はこれで。麗奈ちゃん、あとはよろしくね」


「はい、課長」


 そう言い、課長は部屋から出ていった……。


「えっと……?まだ、なにか?」


「ご、ごめんなさい!」


「え!?あ、頭をあげてください!」


「私が課長に、水戸君が良いかもって言っちゃって……」


「……昨日のことを?」


「う、ううん、そこまでは……ただ、そういう話を聞いたことあるって……」


「そうですか……課長は、俺の事情知ってますよ?」


「え……?」


「やはり、中々食えない人ですね……」


「か、課長〜!もぅ……」


「そういえば……さっきから口調が変わってますよ?」


「……良いのよ……だって——水戸君しかいないもん……」


 ……ゴハッ!

 血を吐くかと思った……。

 なんつーセリフを……!


「そ、そうですか……も、戻りましょうか!」


 でないと、会社の中なのに変な気分になってしまう……!


「ま、待って……!」


 松浦係長は、部屋から出ようとする俺の手を掴む。


「な、何ですか?」


「あ、あのね……えっとね……」


 強烈な上目遣いが、俺の脳内を刺激する……。

 ダメだ……意識が持ってかれる……。


「……大丈夫ですよ。土曜日のことは誰にも言いませんから」


 気がつけば、俺は耳元で囁いていた……。


「ひゃん!?」


「可愛い人ですね、麗奈さんは。では、失礼します」


「ふえっ?え、えぇ——!?」


 驚く声を尻目に、俺は廊下を早歩きする……!


 馬鹿か!俺は!なにをした!?


 なにを言った!?可愛いだと!?


 会社でなんつーセリフを……!


 考えるより先に、セリフと行動が出てしまった……。


 ハァ——自分で自分がわからなくなる……。


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