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食事会

 姉貴を起こし、三人でテーブルを囲む。


「わぁ〜!今日も美味しそう!頂きます!」


「い、頂きます……」


「どうぞ、お召し上がりください。2人共、まずはサラダから食べてください。そうすれば、身体にも良いですから」


 まずは手をつけずに、2人の様子を見る。


「ん〜!相変わらず、このドレッシング美味しい!」


「ホントですね!ニンニクが効いてて美味しい!」


「良かったです……どれどれ……うん、上出来かな」


「このポタージュも、あんなに早く作ってたのに……お店の味みたい……」


「ハハ……大袈裟ですよ」


「この鳥だって……美味しい……ソースが爽やかで、酸味があって……凄く食べやすい……」


「これ、美味しいですよねー。私もお気に入りなんですよー」


「たしかに、これは病みつきになりますね……」


「それ、結構便利なんですよ。アンチョビとか入れて、パンに塗っても良いですし。パスタなんかにも使えますから」


「わぁ……!美味しそうね……!」


「……よければ、お持ち帰りしますか?明日、明後日くらいまでなら保ちますが……」


「え?いいの……?」


「ええ、押し付けになっていなければ……」


「ううん!嬉しい……」


「そ、そうですか……」


 あれー?こんな素直で可愛い人だったっけ……?

 この間は、お酒入ってたからアレだったけど……。

 もしや……こっちが素の状態なのか……?




 その後も、楽しく食事を進めていると……。


「それで、侑馬は会社でどうですかー?」


「先ほども少し言いましたが、真面目で誠実な対応をする方だと思います。お客様からのクレームの電話や、上司からの問いかけにもしっかりと対応してくれますし……なんというか……怖がったり、ビビったりしない感じですかね……?」


「あぁ——そういうことですかー。うちは父親が厳しくてですねー……それで耐性がついたんでしょうねー」


「そうなんですね、お父さんは何をされている方なのですか?」


「うちの父はですね……」


「おい、喋ってないで早く食べろ」


 ……ついイライラして、強い口調になってしまうな……。


「むぅ……ハイハイ」


「ご、ごめんなさい……な、何か悪いこと聞いちゃった……?」


 ……係長は何も悪くない……。

 これは完全に俺が悪い……。


「いえ、こちらこそ申し訳ないです。父親は……というか、俺の実家は小さな料理店を経営しているのです」


「なるほど……だから、料理が上手なのね……」


「まあ……ただ、俺は親父とは考えが合わずに家を出た身なので……あまり、仲も良くないですしね」


「そうなのね……弟がいるんだけど、男親と息子って難しいわよね……」


「わかりますー。あら、うちと一緒なんですねー」


「ええ、そうなんです。10歳も離れているので、何を考えているのかもよくわからないですけどね」


「さあ、弟君の意見は?お姉ちゃんをどう思っていますかー?」


「口うるさいと思っている……」


「そ、そうなのね……」


 い、いかん……さっきから落ち込んでしまっている……。

 元気付けたいのに……ハァ……仕方ない……。


「……ですが、とても有難い存在ではあります。今日も、こうして心配してきてくれましたしね……」


「お姉ちゃんは感激です!」


「抱きつくな!食事中だっての!」


「ふふ……私も、弟にそう思ってもらえてるかな……?」


「……仲が良くないのですか?」


「うーん……難しいわね……悪くはないんだけど、あっちが気を使ってくるというか……色々お世話をしてきたから……」


「まあ、10歳も違ったらそうなりますよねー。オムツとかも変えますもんねー」


「……それもありますね」


 少し変な空気が流れだが……そこは皆大人だ。

 軽く聞き流し、再び食事をする。




「フゥ……ご馳走さまでした。とっても美味しかったわ」


 へぇ……綺麗に食べるなぁ。

 きちんとソースまでなくなっている……。

 しかも 汚い食べ方ではなく、綺麗な食べ方で……。

 さらには、フォークやナイフも食べ終わりという形に置いてある。

 ……まあ、会食とかあるだろうから当然といえば当然か……。


「ありがとうございます。では、片付けをしますね」


「あっ——私にやらせてもらえないかしら?」


「しかし、お客様に……」


「だって、してもらってばかりでは悪いもの。ねっ?」


「じゃあ、私は泊まる準備してるねー」


「ハァ!?泊まるのかよ!?」


「そりゃーそうよー。明日休みだもん」


「俺の休日が……」


「安心しなさい、午前中には帰るから」


「……なら、許す」




 その後、並んで洗い物をすることになったが……。

 とてつもなくいい匂いが、俺の鼻を刺激する……。

 しかも……。


「ふふ〜ん、ふふふ〜ん」


 めちゃくちゃご機嫌に鼻歌を……。

 しかも、洗い物するから……髪を束ねて後ろで縛っている……。

 エロい……うなじが……その後ろ姿が……。

 姉貴がいてよかった……理性が働いてくれる……。


「そんなに美味しかったですか?」


「え?」


「いや……随分ご機嫌に見えたので……」


「そ、そうかしら……?」


「鼻歌を歌ってましたよ?」


「へ……?えっ——」


「……気づいてなかったんですか?」


「は、はぃ……あぅぅ……」


「す、すみません……」


「ううん……もちろん、美味しかったわよ……?それだけじゃないけどね……」


「はい?」


「さあ!さっさとおわらせるわよ!」


「はぁ……まあ、時間も遅いですからね」




 洗い物を終えると、9時近くになっていた。


「じゃあ……そろそろ帰ります。今日は、とても楽しかったです。ありがとうございました」


「侑馬」


「わかってるよ。車借りるな」


「ふふん、流石は我が弟。わかってるわね!」


「いちいち背中を叩くなよ……」


「え……?」


「麗奈さん、送っていきますね。歩きといっていたので……」


「そ——そんな!悪いわ!」


「いえ、送らせてください。麗奈さんみたいな女性を、こんな夜道を一人歩かせるわけにはいきません」


 何かあったら、俺の責任になる。

 その場合、仕事が滞るし……説明もしなくてはいけなくなる。

 ……もちろん、心配だからっていうのもあるけど……。


「み、水戸君……あ、あの……お願いしてもいいですか……?」


「ええ、もちろんです」




 手早く準備を済ませて、車に乗り込む。


「えっと……ここからなら、こっちのが近いか……」


 一度行ったことがあるから道はなんとなくわかる……。

 何故なら……走って帰ったからな……1時間くらいかかったけど……。

 まあ、もちろんナビは使うけどな。


「…………」


「ん?どうかしましたか?黙り込んでますが……」


「う、ううん!な、なんでもないわ!行きましょう!」


「……わかりました。では、出発しますね」




 その後、会話もなく車は進んでいく……。

 係長は、何故かガチガチに緊張しているように見える……。

 あっ——これは、俺が無神経だった……。

 こんな時間に男と車なんて、こんな美人が警戒しないわけがないじゃないか……。


「麗奈さん……」


「ひゃい!?」


 やっぱり……。

 よし、安心してもらわないと。


「ご安心ください。必ず、家まで送り届けますから」


「は、はぃ……」


 うーん……ダメか……。

 うん……黙っていた方が良さそうだな……。




 そして安全運転にて、15分ほどで到着する。


「麗奈さん、着きましたよ」


「あ、ありがとぅ……」


 一度おり、ドアを開ける。


「どうぞ」


「…………」


 何故か車から降りずに、俺を見つめている。

 俺は、吸い込まれそうになるのを必死に堪える……。


「あの?麗奈さん?」


「み、水戸君!」


「は、はい?」


「ス、スマホの電話番号……き、聞いてもいい……?」


「へ?」


「やっ、やっぱりダメよね!プライベートなことだもんね!ごめんなさい!忘れてください!そ、それじゃ——!!」


「え!?ちょっと——!?」


 返事も聞かずに、そのまま走り去ってしまった……。


「まいったな……まあ、とりあえず帰るか」


 助かったと思う自分と……少し残念に思っている自分がいることに気づいた……。


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