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ご招待

 何を言いだすかと思えば……。


 ほら、松浦係長だって固まっているじゃないか。


「姉貴、何を言っている?松浦係長に迷惑かけないでくれよ。松浦係長にだって予定というものが……」


「い、いくわ!」


「はい?」


「ダ、ダメかしら……?」


「い、いや……ダメというか……」


 頼むから上目遣いをしないでくれ!

 俺の心が揺らいでしまう……!


「帰っても1人だし……ご飯も作れないし……み、水戸君の料理食べてみたいし……」


 そんな捨てられた子犬のような目で……。

 ハァ——仕方ないか……栄養バランスは気になっていたし。

 姉貴もいるから、変な空気にはならないだろうし。


「……わかりました、良いですよ」


「ほ、ホント……?わぁ〜!嬉しい!」


 やばい……可愛い。

 花が咲いたように笑う松浦係長に、俺の目は釘付けになる……。


「よし!決まりね!じゃあ、買い物して早く行きましょう。じゃないと、作る時間もないしね」


「いや、作るのは俺なんだが?」


「えへへー、楽しみだなぁ〜」


 ……まあ、良いか。

 こんなに喜んでくれるなら、悪い気はしないし。



 その後、手早く会計を済ませ、車に乗り込んだのだが……。


「おい?何故後ろに乗る?」


「荷物多く買ったから、押さえかないとねー」


「わ、悪いです!私が押さえときますから!」


「いいの、いいのー。さあ、助手席に乗っちゃってください」


「ハァ……松浦係長、乗ってください」


「むぅ……それ……イヤです」


「はい?」


「プ、プライベートでしょう?えっと……この間みたいに呼んで欲しいの……」


 ……モジモジしないでくれぇぇ——!

 ああ!もう!どうにでもなれ!!


「れ、麗奈さん……?」


「はい!」


 めっちゃ嬉しそう……!

 ダメだ……この間から色々ありすぎる。

 思考放棄したい……キャパオーバーだよ。




 その後、ご機嫌?な様子の麗奈さんを乗せ、俺の家に向かう。


「み、水戸君は、運転も上手ね」


「そうですか?よくわからないですけど」


 なんで、さっきから横顔を見られているのだろう?

 何か、顔についてるのか?

 ……よくわからない。


「そうなんですよー。この子ったら、自覚がないだけで出来る子なんですけど、自己評価が低いんですよねー」


「それ、わかります。会社でも有能なのに、自分を普通だと思っているみたいで……」


「普通ですよ、俺は。決められたことしかできない……いえ、なんでもありません」


「ふふ、覚えていてくれたのね。そうよ、つまらない人間なんかじゃないわ。貴方がそんなこと思ったら、そう思ってない私がバカみたいじゃない」


「麗奈さん、ありがとうございます」


「ほほぅ、これはこれは……楽しそう」




 その後安全運転を心掛けつつ、自宅に到着する。


「へぇ〜、ここが水戸君の……私とは違って、立派なマンションね」


「え?侑馬の上司さんですよね?なら、もっとお給料も良いし……高級マンションとかじゃないんですか?」


 ……それは、俺も気になっていた。

 多分、手取りで35万くらいはあるはず。

 なのに、どう見ても家賃が安そうなアパートに住んでいた。

 俺のマンションだって、1LDKで家賃は8万だ。

 都内から外れているとはいえ、安いほうだろう。

 だが、あれは3万とか4万なんじゃないか?


「い、いえ……少々事情がありまして、自分にお金を使えないのです」


「そうなんですね……ごめんなさい、無神経なこと言いましたね」


「いえ、良いんです。当然の疑問でしょうし」


 ふむ……じゃあ、食堂での出来事は……。

 ダイエットとかのためではなく、お金がなかったから?

 しかも……そんな中、俺にお酒を奢ってくれたのか?

 これは、恩返しをしなくてはいけない。

 でないと、俺の気が済まない。


「ほら、行きましょう。麗奈さん、今日は沢山食べていってください。日頃からお世話になっていますので、是非お礼をさせてください」


「み、水戸君……はぃ……」


「……お母さんに連絡しなきゃ……」




 5階建てマンションの、5階の角部屋に向かう。


「最上階の角部屋……これって、高いんじゃないかしら?」


「ええ、まあ多少は……ですが、静かだし良いんですよね。周りに遊ぶ場所や、観光名所もないので。だから、人気がないので8万で借りれましたし。きちんと、収入の三分の一以内に収まっていますしね」


「す、凄い……それでも8万……」


「……ハハ……変な会話ですね」


 お給料は倍ぐらい違うはずなんだけど……。

 まあ、あまり深入りしない方がお互いのためか。


「ほら!いいから、中に入ろうよー」


「はいはい、わかったよ」


 鍵を開けて中に入る。


「さあ、どうぞ」


「お、お邪魔します……お、男の人の家……」


「麗奈さん、スリッパをどうぞ」


「は、はい、ありがとぅ……」


 そのまま、リビングに案内する。


「わぁ……!綺麗でお洒落な部屋……!」


「そうですかね?普通ですよ」


 窓側にテレビとソファー、入り口側にテーブルと椅子とくらいしかないけど……。


「ううん!物が少なくて、ごちゃごちゃしてない感じで素敵だと思う」


「……ありがとうございます。まあ、この部屋にはこだわりもないですからね」


「あっ——食器棚可愛い……アンティークな雰囲気で……」


「それは母親が送ってきたものですね。まあ、とりあえずはソファーでゆっくりしててください」


 なんだが、さっきから係長の口調が子供っぽいのだが。

 テンションも高いし……何が楽しいのだろうか?


「は、はい……失礼します……」


「じゃあ、私とお喋りしましょー?」


 ……まあ、いいか。


 とりあえず、料理を作るとしよう。


 そういや、他人に食べさせるのは久しぶりだな……。

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