色々と
「…えぇ…」
思わず声に出してしまった。
「えぇ〜…」
目の前には広い大地。見渡す限り青い空と、電線さえない野原。まるで昔ばなしのアニメを見ている様な、知らない世界に迷い込んでしまったこの状況は何故なのか。
混乱した気持ちを落ちつけようと、ゆっくり深呼吸をしてみる。
「あれは、そう…、ほんとに、ほんの数分前だったのに」
7月中旬、あと数日で夏休みが始まる為、嬉しさとソワソワした雰囲気の教室は、連日の部活疲れの私には居心地が悪かった。
「顔色わるいよー、大丈夫?」
ミチルが顔を覗き込む。私を心配しつつ、手には色んな種類のお菓子が入った大きな紙袋を大事そうに抱えている。
「ん〜。…元気でない…。ミチルがお菓子くれたら少しでるかも」
私のお願いを聞いて、ハハっと笑い、
「いいよ。けど、このお菓子達に1つずつメッセージカード付けるの手伝ってくれるならね!」
ミチルが入っているバスケ部はなかなか優秀で、男女共試合成績が良く、毎年県大会出場もしている。
数日後に大きな試合があるので、ゲン担ぎ&後押しの意味で後輩が駄菓子数個をラッピングし、応援のカードをつけて先輩達にプレゼントするのだ。
「一応数日前から部員の子たちと作ってたから、後は10個くらいで完成だよー!」
手のひら程の大きさの紙袋にはグミや塩飴、プロテイン入りのチョコバーなど体育会系の子たちが喜びそうなお菓子がギュウギュウ詰めに入っている。
「メッセージは後輩に書いてもらったから、この中から選んで紙袋の閉じ口の上にシールで貼っていってね」
適当にカードを選び、カラフルなシールで留めていく。
数分で出来てしまった。
「天音、ありがとうっ!さっそく部室に持って行ってくるね」
あと、これ!と、ミチルは少し大きな紙袋を差し出した。
「ご褒美のお菓子!今からあまねも部活行くでしょ?部員さん達と食べてね」
余りだけどねっ!と、ニカッと笑って教室の外へ出ていった。日焼けした健康的な肌のミチルは、笑うと真っ白い歯が目立つ。ショートカットの茶色の髪も、裏表がない性格も全体的に好印象だらけだ。
長い黒髪を面倒だからとお団子にしている童顔の私は身長の事もあり、高校生にあまり見えないらしい。
「…まぁ、行きましょうかね。部活」
お菓子、食べてくれるかな?あんまり部活動以外は知らない子たちばかりで、そんなに深入りできるタイプじゃない。
「へんな部活だしねぇ。さっさとお菓子配って今日のノルマを終わらせて家に帰ってゴロゴロしよっ!」
西棟のグラウンド裏には20件程の部活用の部室が並んでいるが、最近改築されてとても綺麗になっている。
私が入っている部活の部屋は一番奥で、森のような木々の前に建っていた。
夕方前で他の部活の子たちはグラウンドや体育館にいるので静かだ。肝心なウチの部員達はというと…。
「また今回もガセやった……」
「南側のプールの更衣室にいたって情報入ってすぐ行ったんだよ!結局野良猫だったみたい!もぉーいやっ」
プリプリと頬を膨らませた青は部室部屋のソファにダイブする。その横にある簡易椅子を開き、伊尾が腰掛けた。
「お疲れ様。今日も相変わらずの成果みたいだね。」
ソファの中央にあるテーブルに紙袋を置く。
青は目を光らせ紙袋を覗きこんだ。
「それ、なかみなに?たべもの?」
「うん。友達の手伝いしたらくれたの部活の皆で食べてねって。色んなお菓子入ってるよ」