表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

和風な役所

 翌朝、シェリアスはまだ黎明(れいめい)の日が昇りきっていない時刻に目覚めた。昨日は輪廻転生して初日だというのに色々な事があった。また日本で一から赤ちゃん生活かと思っていたのだが、まさかの以前のシェリアスと同じ体、同じ顔で異世界で生活していくとは。

そしてサクヤとの出会い、猫耳の少女のテトラとの出会い。初日にしては十分過ぎる人と接点が持てた。

「だがこれからの生活、どうしたものか」

 そう。ずっと彼女、基、サクヤに世話になる訳にはいかない。今も無理を強いって同じ宿屋に泊めてもらっているのだ。

 サクヤの寝顔を見る。やはり綺麗な薄い黄緑色の髪とパッチリとした目が映える。昨日のテトラもそうであったが、やはり異世界というものは可愛い子が多いのだろうか。シェリアスは気付かぬうちにニマニマした目でサクヤを見つめていた。

「なに変な目で見てんのよ。通報するわよ」

 しまった。妄想に意識を走らせていた為、彼女が起きたことに気づかなかった。サクヤは寝起きだというのに透き通った声で『通報するわよ』と言ってきた。切実にやめて欲しいと思う。

「ごめんごめん! ちょっと人を観察するのが好きで! 別に変な事考えてた訳じゃないし?」

 シェリアスは慌てふためいた声音でそう弁明した。せっかく出会えた人だ。変なレッテルを貼られるのはごめんなのである。

「変な人。私、午前中にはここ出て仕事探そうと思うの。いつまでもここにいる訳にもいかないし。あなたはどうするの?」

 彼女は布団の上に座り直し、そう言った。彼女の言う通りである。いつまでも宿屋に寝泊まりさせてもらう訳にもいかない。かといって、今すぐに仕事がある訳でもないのだ。

「どうしたものか。サクヤは仕事決まってるのか?」

 シェリアスは少しでも、自身の仕事探しの参考になればと思い聞いた。

「そうね。私はモンスター狩りをして収入を得ようと思うの。ここらにその、受付をしてる場所があると思って実家から出てきたのだけれど……」

『モンスター狩り』それは異世界では有りきな収入源だ。この世界でも恐らく同様であろう。そしてサクヤはそれを収入源にしようとしているのだ。だが、少し困った顔をしている。やはり場所が分からないのだろうか。

「それって儲かるのか?」

「ええ。まぁある程度わね」

 どうやら儲かるらしい。サクヤの隣に腰を下ろしているシェリアスは、少し明るい顔をした。

「俺でもできるかな?」

「は?」

 やはり嫌がられることは分かっていた。だが、こんなにも小柄で華奢な彼女を一人にさせるのは少し心配なのだ。

「モンスター狩りがどんなんかは知らないけど、俺も一緒にその仕事をするのはダメか?」

「いや、別にダメってわけじゃないけど。あなたなんの加護もスキルも持ってないでしょ?」

 加護とスキルとはなんの事だろうか。この世界に来て初めて聞いた単語だ。その二つが無ければモンスター狩りをするのは厳しいということだろうか。

「いや、わかんねえ。その加護とかスキルってのは生まれた時からみんな持ってるのか?」

「みんなって訳じゃないわよ。特殊な家柄の人、貴族、王族にしか授けられないの。他にもかなり前に神族という世界最強にして最悪の種族もいたらしいけど、もうこの世界にはいないわよ」

 なるほど。やはりこの世界にもそういった位の人がいるのだ。シェリアスは突然この街に転生してきたのだ。恐らくどの家柄にも入っていないであろう。

「俺はどの種族にも当てはまらない」

 シェリアスは少し俯き、暗い顔でそう言った。

「サクヤはどの種族なんだ?」

「私? 私は少し変なの。加護は何も無いの。スキルは他者の間接攻撃無効化、少し先の行動が見れる。それくらいなの」

 サクヤらシェリアスをおちょくっているのだろうか。間接攻撃無効化と先読み? 最強のスキルではないか。それともこの世界にはもっと凄い加護の持ち主やスキルの持ち主がいると言うのだろうか。

「十分強いじゃないかよ。足でまといになるのはわかってる。だけど君と一緒に行動を共にしたいんだ。お願いできないだろうか?」

 シェリアスはサクヤの瞳を見つめながらそう問うた。しばらくの間の後サクヤが口を開いた。

「私があなたを守れる保証は無い。もしかしたら命を落としちゃうかもしれない。それでも良いのだったら、良いわよ」

「もちろんだ! 自分の身は自分で守る」

 シェリアスは自身の胸を拳で叩き、そう断言した。自分の身くらい自分で守れなくて、人の心配など出来るわけがない。シェリアスはやってみせると心に誓った。

「そう」

 すると、サクヤはとても眩しく微笑みそう言った。シェリアスへ向けての笑顔はこれが初めてであった。



「それじゃあ行くわよ」

 荷物をまとめ、宿屋を出るとサクヤがそう言った。日はまだ昇りきってはいなく、ほんのり涼しい街を出る。


 

「なあ、そこってこっから遠いのか?」

 シェリアスが宿屋から離れ、大変賑わっている市場の辺りでそう問うた。

「いいえ。このまま真っ直ぐ行って左に曲がった所に役所があるはずよ」

 サクヤがそう言った。この世界にもどうやら役所といった、ここらを統括する行政機関といったものがあるらしい。シェリアスは生まれて一度もそういった機関には行ったことがなく、どんなものかと少しばかり興味と緊張がある。

 そして、行き当の角を左に曲がると両端に桜の様な木が大変美しく咲き誇り、役所の前には立派な噴水までもあった。そして、当の役所であるが。

「うっわ! 何これめっちゃ和風じゃん」

 シェリアスがそう声に漏らした。その役所は、とても和風の外見をしており、日本の温泉旅館を匂わせた。

 そして、役所の中に入ると……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ