表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

 さて、それからしばらくたったある日のことです。とある国の王さまが、またぞろ旅に出かけようとしておりました。そこへ、ひとりの旅の僧が現れました。王さまは、その僧侶に見覚えがありましたので、馬を止めさせて話しかけました。


「おお、これはいつぞやの行者どのではないか。あれからどうなったかな? もう元気になったのかな?」


 すると、旅の僧はいいました。


「はい、おかげさまで、あのときのことは、もう忘れておりました。ところで、ひとつお願いがあるのですが、よろしいですかな?」

「よいとも。なんでもいってみるがよい」


 すると、僧はにこりと笑って言いました。


「じつは、私は諸国を遍歴して歩いているのですが、この前のようなことがあっては困りますゆえ、ぜひとも護衛を一人つけていただきたいのです」


 それを聞いて、王さまは笑い出しました。


「はっはっはっ……いや失礼。そなたもおかしなことを言うものだな。あれほど強いお供がついていながら、まだ不安なのか?」

「いえ、そういうことではございません。実は、私がいつも連れているのは、私の式神なのです。ですから、ふだんは私の命令にしたがって動きますが、いざというときには役に立たないのです」

「ほう、そうかね? まあ、それならいいだろう。では、さっそく用意させよう」


 そう言って、王さまは家来を呼びつけ、ひとりの武者をつれてくるように言いつけました。まもなく、立派な鎧兜に身を固めた武将がやってきました。それを見たとき、僧の顔が一瞬くもりましたが、すぐに笑顔に戻りました。


「うむ、よかろう。そちの名はなんというのだ?」

「はい、拙僧は蘆屋道満と申します」


 そう答えて、法師は頭を下げました。


「なるほど、変わった名だな。まあいいだろう。それでは早速出発するとしよう」


 そういうわけで、一行はそろって出かけることとなりました。ところが、出立する直前になって、法師がこんなことを言い出したのです。


「恐れながら申し上げますが、私めが供まわりとしてついてゆくことをお許し願えませぬでしょうか?」


 それを聞いて、王様は少し腹を立てたようでした。なにしろ、これまでさんざん苦労して集めたお供たちをすべて置いていかなければならないのですから無理もありません。ですが、法師のほうは平気なものでした。


「なにぶん、あの者たちとは長いつきあいでございます。せめて別れの言葉だけでもかけてやりたいのでございます」

「ふむ、わかった。好きにするがいい」

「かたじけのうございます」


 そういって、法師は家臣たちのもとへ向かいました。そして、一人一人に声をかけていきました。


「お前たち、達者で暮らすんだぞ」

「お世話になりました」

「どうかお元気で」

「さよなら……」


 そんな調子でした。やがて、全員への挨拶が終わると、法師は戻ってきました。その顔には笑みが浮かんでいましたが、なぜか少し寂しそうでした。


「お待たせいたしました。では参りましょう」

「うむ、出発だ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ