セーブ&ロード!転生先でボケ倒すだけ
閲覧ありがとうございます。
ギャグの練習の短編です。かなり大変でした。
ぼくの夢はお笑い芸人。
真面目な学生生活、その願望をひた隠し、親の期待に応えて耐えてきた。
しかし仔猫に見えたビニール袋を助けようと、トラックに轢かれかけて、そのさいバナナの皮を踏んでしまう。おかげでトラックを幸いにもよけることができた。
が、そのせいで、対向車線のトラックに見事に吹き飛ばされた。
そして、集中治療室。
そこには心電図の規則正しい音。そして女神らしき、声が響く……野太く。
「生きてますか、大丈夫ですかー……おい、はやく延命装置を起動してくれ」
あ、これじゃない。
女神様、女神様……
「またですか」
女神はスマホから目を離すと、呆れたように言った。
「そういうのもうたくさんです。あんたのなんて、タイトル見ました?都合良すぎでしょ、全く」
「えー、でもー」
「はいはい、やればいいんでしょ全く。夢はお笑い芸人ね。まあ、素質はいまいちだけど、セーブ&ロードさえできればあんたならがんばれるのよね?じゃあがんばってね」
「はい!」
若干不安だけど、女神様っぽい人から能力をもらったらしい僕は、セーブ&ロード用のアイテムとして渡されたデンモクを胸に抱いてうなずいた。
なんでデンモク?
「じゃ、転生はあの井戸から落ちたら始まるから」
なんで井戸?疑問を抱きつつも、僕はおとなしく入った。
うっすら聞こえていた心電図の音が遠のく……。
物心つく前から、私はよくこけていた。
例えば王宮で王様の御前でずっこけてマントを引っ張り、それを踏んだ大臣たちが次々と転んでしまう。その中に王様を殺そうとしていた間者が見つかって大騒ぎになったらしい。
さらにある日には、牛乳が3リットルは入った入れ物を持ったメイドさんのまえでころんで牛乳まみれになり、私は痛みでのたうち回る。その牛乳が古かったらしく、パーティに混ざっていた魔女だけがお腹を壊して退場するにとどまったらしい。
さらにさらにある日には、転んだ拍子に外国のいかにも悪役令嬢なお姫様のドレスをつかんで引っ張り、後頭部からケーキに突っ込ませたこともあったらしい。それでいじめられていた我が国の姫はそれきりいじめられなくなったとか。
違う。そうじゃない。
私がこけていたのは、精一杯笑いが取りたかっただけなんだ。
みんな笑顔で、楽しく過ごす……それがわたしの願い、なのかな。
しかしわたしが転ぶと、みんな難しい顔をして話し合う。すこしすると祭りになるが、わたしはその場で笑ってほしかった。
そんな、気がする……。
しかし、それも幼い頃の話。
わたしはこの国、パンダ王国の3番めの姫として、両親の期待に応えて猛勉強中だった。
「違う!」
「わ、なんですか」
メイドがびっくりしてのけぞる。よろけて手をついた棚から猫がじゃれつく。うらやましい。
「わたしはこんなことがしたいんじゃない……わたしは……わたしは……」
頭を抱える。いったいわたしは、なにがしたかったのだろう。昔から、何か願っていた気がする。のに。
「姫、ジュリエッタ姫」
「私は振り切った姫じゃありません!ぜんぜん振り切れない煮詰まり姫です……」
「ブリギッテ姫様は遠征中です。イル・マリー姫様はカレー屋さんで、修行中です。あなたはジュリエッタ姫ですよ、お気を確かに」
「あはは、ジュリエッタって、まるでお姫様みたいな名前、あはあはは」
「お姫様なんですけど……」
「なんでですか!私はセーブ&ロードでボケ倒すだけです!タイトルにもそう書いてあるでしょ!?」
「なんですかタイトルって!セーブ&ロード?あなたは一体何を言って……ますます心配ですね」
「はっ……わたしは一体……そうか……僕は……!」
「姫?」
「僕、お笑い芸人になるやで!関西関西〜!」
「あ、姫が壊れた。」
僕はお城を飛び出した。セーブ&ロードはあらゆる危険を避けるのに役立った。野盗をいなし、町を抜け、魔法使いの塔を制覇。
ここまでで20日を切るまで、4500回以上のチャレンジを経た。
そして様々なお使いイベントを経てレベルを上げ、ついに伝説のおもしろ装備をコンプリートした。周りはなにか『それは鎧じゃない、魚の干物だ』とか『それは杖じゃない、鍋を引っ掛けとくときのやつだ』とか言ってたが、気にしない。
そして魔女と手を組んでいた隣国の王様がこっそり集めていた奴隷たちを開放した。魚の格好で。
そして彼らを故郷に返す約束を取り付け、かわりに道中、一緒にファイヤーダンスしながら歩いてもらった。途中でもらった大カエルのかぶり物は、非常に気に入った。
テンションの高い彼らは見知らぬ故郷に帰る前に旅先に居付く者たちもいた。
ファイヤーダンスがあちこちの町や村に根付くきっかけとなり、わたしたちは団結した。
凱旋した私を待っていたのは金髪碧眼の王家と臣下たちだった。
「ジュリエッタや、略してジュ、よくぞ戻って……なんだその格好は!」
「お父様、わたくし人生の目標に目覚めましたの」
「まさか……仕方ない、では縁談の相手を変えよう」
「縁談?いつの間に?」
「キリン王国の王子だ。彼は笑いに厳しい」
「まさか!」
「彼を笑わせてみせよ。お前なら、きっと気に入られるはずだ」
「……がんばります!」
キリン王国のジャクソンスマイル・楓王子。
ハーフでもないのにウケ狙いっぽいネーミングからして、命をかけたお笑い大国の気配に戦慄しますわ。ちなみにほんとの大国は普通に隣のエル・カサブランカ王国があるけど、非常に普通の国なので無視。さらに、奴隷がいたのはその反対側のプリン・カブトムシ王国なのですわ。全く関係ないけど。
婚姻の儀。それはわたしの晴れ舞台。別の意味で。
わたしは王家直伝の秘術をうけつぎ、ついにそれをお披露目するときが来ましたわ。ですわのよ。
「ジュリエッタ姫、あなたはジャクソンスマイル・楓王子を婿とし、一生愛すことを誓いますか?」
「もちろんですわ。ですが……」
わたしはドレスを脱ぎ捨てた。男性専用の伝説の鎧を着込んでいる。
「わたくしは男ですわ!オホホホーホホ!」
「なんだと!!」
すると、ジャクソンスマイル・楓王子は、激高したように眼の前の机を叩いた。無理もない。こんなに姫がボケているのだから。まあ、ほんとに男だけど。
「先を越された!僕はパンダだ!レッツ換毛期!」
ドレススーツを脱ぎ捨てた彼は、なぜかエルフの民族衣装を着ていた。美少女の着るやつ。で、パンダだった。
「僕は先代パンダ国王のペットの孫だ!かわいいだろう!もふりたまえ!」
「もふもふ」
わたしは素直にもふった。あたたかい。
こうして私ことジュリエッタ(男)とジャクソンスマイル・楓王子 (パンダ)は無事婚姻を済ませた。めでたし。
「ぬるい!」
すると、天から女神の声が響いた。
「ボケ倒すっていうか、なんかもう、違う!もっとこう、あのね……うわーん!」
女神は怒っているようだ。泣き叫ぶ声とともに降ってくる隕石たくさん。
「ジュリエッタ姫!?」
「ジャクソンスマイル・楓王子、わたくし行ってきますわ」
「姫、あなたの目的は……」
「ええ」
私はうなずいた。幸いにもジュリエッタ姫のイメージにふさわしい美女に育っていた私は、笑うとかなり美しかった。さっきからスーパーマッスルパワーアーマー・オーロラエディションを着込んではいたが。さらにその下は全裸だったが。
私は魔法使いの塔で習得した魔法を駆使し、飛行した。隕石が激突しそうになるも、なんとか避ける。いまではセーブ&ロードを駆使しすぎて、私はいつしか無意識にそれを使いこなしていた。デンモク?なんでしたっけそれ?知りませんわ。
「あ、藤崎田原本町くん、じゃなくて、ジュリエッタ・もちもちまつ毛・ド・モフモフ・パンダ姫……いまはあんたの敵として、あんたにくれてやった力は奪っといたから」
「女神様!?そんな……最後までチート無双させてくださいよ!」
「ずるーい」
「いまさら!?これでセーブ&ロードは使えないのか……」
魔法で隕石の間を飛びぬけ、光の先へ。
そこで見たのは……
「このデンモクってカラオケできないんですか?チートだけ?」
「そうよ。セーブ&ロードだけ。魂に持たせておくから、無意識につかえるようになるわ」
「わーい、ありがとう女神様」
「え?」
「え?」
私はその光景を見て固まった。そこにいたのはわたしの前世……のはず?
「あの、あなたは……」
「あら?あなたはジュリエッタ姫。また天界に来てどうしたの?」
「わたしは……あなたは?」
「え?僕は蒟蒻屋横丁英夫だけど……」
「こんにゃくやよこちょーひでお?だれそれ?」
「あんたこそ、あんたの前世はハナハナ岬・プリンカブトムシ姫でしょ?なに?もう転生したいの?」
「えー……」
だまされた。女神よ。わたしは一体誰なんだい……
「うそだよ」
え?眼の前の女神はふざけたポーズで固まってみせている。
「あんたの前世は藤崎田原本町拉麺貞夫。ちゃんと合ってるよ。冗談冗談〜」
そっか……ってラーメンサダオ?なんでそんなふざけた名前なの?まあいいか。
「いやー、あんたがここまでくるとは思わなかったわ。仕方ないから許してあげる。じゃ、まだ死ぬ気がないなら帰りなさい。」
「な、なんですのそれ!」
わたしは激高した。暴れようとしたがなにもできず、女神をひと睨みして踵をかえした。
スーパーマッスルパワーアーマーが揺れる。
数カ月後。
「パンダ王子!」
わたしは伴侶となったキリン王国のジャクソンスマイル・楓王子改め、もふもふパンダ王子に抱きついた。もふもふ。もふもふ。もふもふ。すると毛並みの中から中くらいのバネが出てきた。なんだそれ。
隕石は止み、奇跡的に全ての隕石が各地の元奴隷たちのファイヤーダンスにて安全に打ち返されたと知ると、わたしは深く安堵した。
「ジュリエッタ、スーパーマッスルアーマー・オーロラエディションがいたいよ……それはそうと、れいのおおしごとは じゅんちょう?」
18年間、完全無欠マイナス20%くらいのイケメンの王子として人気を誇り、いまは換毛期を経てパンダ(性別未公開)と化したジャクソンスマイル・楓王子。かたやあれからスーパーマッスルアーマー・オーロラエディションが脱げなくなった姫(男)である私。二人は仲の良い夫婦だった。どっちが夫かはわからないが。
そんななか、わたしはちょくちょく本国へ戻り、ある大仕事に取り掛かっていた。
「あれがかんせいしたら、きっととってもすごいよね。わくわく。ぼく、たのしみだなあ」
あれから王子は日ごとにつれ、だんだんお喋りまでかわいいパンダのよう。かわいいなあ、もふもふ、もふもふ。
「あはは、くすぐったいよ」
ぬいぐるみのような王子の口にサーモンを押し込み、キョトンとした顔に背を向ける。
「ジュリエッタ?」
「そしたらね、プリンカブトムシ王国の王子が振り返ったら、顔がダンゴムシになってて!」
姉であるブリギッテ・ふにふにかんづめ・ド・パンダ姫が帰省している。そこはカブトムシじゃないのね。きっと姉にもいろいろあったのだろう。
「うちなんか、カレーの修行してたら悪役令嬢扱いされて、むかついたからカレールーを全部ワサビにしてやったわさー」
第2王女のイル・マリー姫もお帰りだった。いや、そんなことしてたんかい。
「姉上様がた、ジュリエッタも戻りました」
「え!?なにその鎧?」
「じつは脱げなくなりまして……」
「てか男だったのねー、ワサビ食べる?」
「いただきます」
ふと受け取る盛り盛りワサビ。口にする。
「では、っふーーーーーん、お話を始めますね。〜〜〜〜〜〜っっぐぐあああ!」
「ええ、はじめてちょうだい」
「よろしくね」
わたしは計画を話した。なぜがツーンとしたものがめちゃくちゃ鼻にきていたけど、耐えた。
「ぐあああ!ですのでこの城の構造上……くっ、うぐっーーーー!ふぅ、ふぅ!」
「ジュリエッタ、大丈夫?ワサビ食べる?」
「あ、いただきます」
もぐもぐ……!っぐあああ!
「大丈夫?ジュリエッタ」
「ぐわああ!大丈夫です!」
そしてなんとか会議は終わった。ものすごく辛かったけど、もう大丈夫だ。
そして、ついに、お披露目の日が来た。
パンダ王子も、キリン王国の城から観ていてくれる約束だ。わくわく。
「ジュリエッター!」
イル・マリー姉さんは計画通りにしていてくれた。裏路地で応援。大きな黄色い旗。
「ジュリエッター!」
ブリギッテ姉さんも計画通りにしてくれている。こちらは大通りのカフェテラスで応援。大きな黄色い旗がまた美しくたなびいている。
そして、私。
「わたしー!」
わたしはプリン・カブトムシ王国の片隅の森のなかで、応援していた。大きな黄色い旗を振り回す。なかなか力仕事かもしれない。マッスルアーマーがきつい。
そんな三人によるお披露目の成果は……なにもなかった。
「なんかしなさいよ!」
天上から女神がつっこんだ。
すると、うちのパンダ王国が誇る王城・パンダミケラッソ城が、火をあげてついに……打ちあがった。
「なんだこれは?ジュリエッタか?まってくれ、ああ〜……」
王様はパンダミケラッソ城ごと飛んでいく。準備に取り掛かっていた他のものを全員残して。なにも悪くないのに。なぜ、なぜなの。うらやましい。
パンダミケラッソ城はしばらく火をあげて飛ぶと、隣国の、とにかくまじめで非常に普通なエル・カサブランカ王国の湖に落ちた。
あ、これ怒られるやつだ。来年には滅ぼされる気がする。まあわたしはキリン王国に嫁いだからいいけど。
それにセーブデータあるし。
さて、セーブ地点までロードっと。
……あれ?
ロードできない……
私は急いでパンダミケラッソ城が落ちたキサラヅウミウシ湖に潜った。そこにはタタミ1畳分くらいの大きな表があった。表にはたくさんの時刻とわたしの名前が入った四角い枠がある。やっぱりこれはもしかして……。
ロードできるデータはわずかで、もう以前にエル・カサブランカ王国の大臣たちのまえでいきなり裸踊りした途中のデータしか復元できなかった。
遊びすぎたのかな。でも、悔いはない。
だって私の、いや僕の夢は、お笑い芸人なのだから。
更に続けて無事なセーブデータを確認しつづけたわたしは、湖の底で酸欠になっていつしか死んでいた。
うわ、私の人生、こんなん?
どこからか流れる音楽……
〜スタッフロール〜
プロデューサー
女神様
デザイナー
ネコネコ大陸の文化
ネコネコ大陸の自然
アクター
ネコネコ大陸の皆さん
プレイヤー
藤崎田原本町拉麺貞夫
スペシャルサンクス
田中斜男 (はすお)
Thank You for playing!!
End B
rank C
総評 カレー
規則正しい音。
目を覚ますと、父母の顔があった。
「あ、生き返ったわね」
「お、まだ死んでないぞ(笑)」
なんだよそれ。
まさかの完読感謝です。作者は数カ月ぶりにひさびさに読み返したら、やばすぎてびびりました。
練習は大切ですね。