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わたしを、たべて  作者: ハナモモ(宇佐見レー)
2/3

九時投稿分が最後です。

 言葉が羅列するパソコン、狭いネカフェの中で背凭れに寄りかかり、僕は子供の頃を思い出していた。

 それは小心者の僕が初めて声を荒げた日。同時に、彼女を最初で最後に助けた日の事だ。


「こんなもの読むんじゃねぇよ!」

 放課後、委員会の仕事から教室に戻ってきた僕が見聞きしたのは、泣きじゃくる鈴蘭から文庫本を取り上げた同じクラスメイトの男子の、終始イライラした声だ。

 当時の僕としては教科書の入ったカバンを持って、さっさと帰りたいのに、教室の中がそんな状況であったから引き戸の前で座り込んで、二の足を踏んでいたのを覚えている。

 僕に、幼馴染とは言え彼女を助けるだけの度胸はなかったんだ、静かに聞いているだけだった。当然だ、中学生という中途半端さは体格だけで格が決まるもの、そしてまさにそのクラスメイトの男子は、体格がよく運動部に所属しており、なのに僕は文化部。勝てる見込みなんか無い。

――だけど、力が無くても鈴蘭だったから、ずっと好きな人だったから、僕は一歩歩き出した。

 なんでもないたった一言、勇気を出したんだ。

「な、なにやってるんだっ……!」

 ガラッ、教室の引き戸をわざと乱暴に開け放ち、間抜けにもうわずる声、そしてぴたりと合う幾つかの視線。中に目を向けて初めて知ったが、声も気配も聞こえなかったのに、どうやら他に二人、取り巻きがいたらしい。

 一人は机に座り、一人は腕組みをしながら眺めている。

 だけど流石にいじめていた男子も取り巻きも、最初こそ年相応に悪事のバレた中学生のような反応をするが、教師がいない事を確認し、暫しの沈黙、いつまでも僕一人だと分かると、

「ぷっ、華林一人じゃん! なんか用?」

 直接いじめていた男子の取り巻きの一人が、冷や汗を拭い、中学生ながらも年季の入ったニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、言う。

……僕なんか、教師がいなければ何も出来ない、そう踏んだんだ。

 実際そうだった。あの時三人を正面から相手すれば、丸め込まれて何も出来なかった。だから僕は咄嗟に、

「すずらんっ! 嫌なら嫌って言えよ! やめてほしいならやめろって言えよ! 泣いてばかりじゃ現実にならない!」

 校舎内に響くほどの大声で叫んだ。僕だって痛い目になんか遭いたくない。いじめられたくもない、一人で三人を相手に喧嘩ができるわけもない……だから、助けてほしくて叫んだ。

 大声を出せば、そう遠くない職員室にだって届くだろうし、不意もつける。

 だけどその行動が、予想外の出来事へ繋がった。


「もうっ、やめてっ!」


――――僕の声と比べても小さい、ささやかと言う言葉がぴったりの彼女の声、でもはっきりしていて、耳に残る声。

 涙の痕が真新しい頬を夕日に赤く、明らかな怒りを目に宿し、

「私が好き、なものを、馬鹿にするの、やめて」

 再度はっきりと鈴蘭は言った。


 それから数年後。

「私はあなたがいたから変われたんだよ」

 半裸で僕の腕の中で幸せそうに蹲る鈴蘭が、良くそんな事を言っていた。

「どういうこと?」

 きっとあの事だ、でも僕は不思議で、問いかけていた。答えはいつも同じなのに。

「そのまんまだって。あの頃の私に、自分の意志なんかなかったの。きっと誰かが助けてくれる、他人にばかり頼ってた」そう言った彼女の憧憬の眼差し、でも僕はいつも逸らしてしまう。

「遺志を持たなきゃダメなんだって、あなたに言われた時に気づいた。私も頑張るからさ、二人の夢、叶えようね」

 僕の頬に触れた彼女の手、すべすべで柔らかい、細くて優しい手。

「もちろん」

 逸らしていた目を鈴蘭に向け、僕は頷いた。例え僕の意図した言葉以上のものを鈴蘭が受け取っていても、夢は夢だ。本気でそれを僕達は願ったのだ。

 だが――――現実は願っただけで夢が叶う甘さじゃない。

 鈴蘭はすぐに新人賞の大賞を手にし小説家になれた。だと言うのに僕は、何年も何年も、ただ時間を無為にし続け、一向になれなかった。


スライム戦記というのを書いていまして、修正中のただの息抜きで書きました。

なので適当です。

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