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ギター女子?

 ウクレレレッスンを初めて半年ほどたった頃、冬夜は学校で女子数人から声をかけられた。


「ねえ冬夜くん、冬夜くん何か楽器の練習してるってほんと?」


「ほんと」


 めんどくさいなあ、と思いながら冬夜は答えた。

 女と話してると他のヤツらにからかわれるし、何かよくわからないことでめちゃくちゃ言われるしでめんどくさい事このうえない。大体今日はこのあと児童館でフットサルをする約束があるのだ。さっさと話を済ませて帰りたかった。


「なんの楽器?」


「ウクレレ」


「ウクレレってあれでしょ? ギターのちっちゃいやつ」


「違うよ」


「違うの?」


「全然違う」


「そうなんだ」


「あのさあ、話それだけ? 俺このあと約束してんだけど」


 女はめんどくさい。他人でその上めんどくさい女なんかと話をするのは嫌だった。


「それだけってわけじゃないんだけど」


「じゃあ何?」


「ちっちゃいギターだと思ってたから……ギターってどんな感じって聞きたかったの」


「何? ギターに興味あるの?」


「うん。テレビとかYouTubeとか、女の子が歌ってギター弾いてるでしょ。あれカッコいいなって」


「そうなんだ」


 なんだよ、結構いいヤツじゃん、と冬夜が思ったとき、それまでずっと黙っていた他の子たちも喋りだした。


「あたしはね、ゲームとかアニメとかで。ギターだけとかってわけじゃなくて、歌ったりとかのほうが好きなんだけど」


「あたしは親戚のお兄ちゃんが高校の部活でバンドやってるの。ドラムなんだけど、SNSとかでも色々やってる人っていて、いいなって思って」


「そっかあ」


 それだけでもう冬夜は嬉しくなった。この半年で冬夜もすっかり音楽の虜になってしまっている。

 最初はドレミで始まったウクレレだが、翔吾は冬夜が飽きてしまわないよう、楽譜で練習をするだけでなく色んなCDを聴かせてギターを弾いているところを教えてくれたり、実際にギターを目の前で弾いてくれたりする。

 新しい曲にチャレンジさせてくれたりもするので、子供向けの退屈な練習曲でもうんざりすることもない。


 父親も翔吾のところに来ているが、実際にはレッスンではなくて、翔吾はその分の月謝は受け取っていないようだった。


 一緒に曲の練習をしながらCDを聴いている事が多く、そんなときは父も翔吾もとても楽しそうで、冬夜も分からないながらに一緒にそばにいる。


 そうやって過ごしているうちに、冬夜も音楽オタクへの道を進み始めているのだが、本人は全く気にしていなかった。


「じゃあさ、今度一緒に先生んとこ行く? 今日はいきなりだから無理だけど」


「いいの?」


「うん。今日先生に話して、明日結果伝えるよ」


「ありがとう!」


 冬夜に女子グループの友達ができた。

 周囲からはモテているように見えるが、本人は音楽とギターの事しか頭にない。父親が見たら情けなさに涙を流すかもしれない風景だった。







「で、あの子達どうしたの? 翔ちゃん」


 夜、明果は翔吾の部屋でくつろいでいた。


 最近はこうして翔吾の部屋でCDを流して話をしたり、翔吾がギターを弾くのを何をするでもなく聴いていたりする事が多い。


「うーーん、楽器習いたいらしいんだよな」


「楽器ならなんでもいいの?」


「手軽なヤツがいいんだってさ。ピアノとかだと電子でも10万くらいするだろ? そんなに金かかんないヤツがいいんだって」


「しっかりしてるなあ」


 明果は苦笑した。


 子供が家のお金の事を気にする。悲しい事だが現実だ。

 最近の子は頭がいいので親の事を注意して見ていて、会話の内容を理解していたりする。

 うちにはお金がないと言われた事を覚えていたり、金銭的に負担をかけないよう遠慮していたりする事もあった。


「音楽ってさ、早いうちがほんとはいいんだよな。小さいうちから始めてさ、当たり前にいつもそばにあってさ、全然特別なんかじゃなくて、気軽に近くで遊びながらできるようになってるような。都会の方じゃなくても、田舎でも、金があるとかないとかそんなの全然関係なくて、普通に当たり前にそこにあるみたいなさ」


 明果は顔を上げて翔吾を見た。


 静かな表情がどこか泣きたいような様子で胸が痛い。


 翔吾の部屋には古いアコースティックギターが飾ってある。それは明果の兄の亮介から昔贈られたというもので、中学高校と翔吾はこのアコースティックギターでレッスンを受けていたそうだ。


「ウクレレはそんな高くないし、それで初めてみたらどうかなって思うんだけど、個人レッスン代ってやっぱりそれなりにするんだよな。高校に上がって部活が始まったら、バイト代でお金が稼げるようになったら、って言うんだよ。なんだかさあ。もっと気楽に始められるような感じにできないかなあ。グループで、とかさ」


「やればいいじゃん、グループで」


「どこでやるんだよ。いやできない事はないけど、そんな何人も生徒の管理とかできないって。俺、本業農家だしさ。週一とかで音楽教室に講師として雇われたとして、個人の生徒はあんまり入れたくないし、コマ数も多く取れないし。そんなん誰も雇わないよ。第一、教室がこの辺にないだろ」


「うーーん、それもそうね」


 翔吾が優しくギターを弾き始める。


 東京でバンドを組んでいたこともあるそうだが、翔吾は作詞や作曲よりもより上手く弾くこと、演奏することを好んで活動していたらしい。


 それでメジャーデビューの話が来たとき、ギターが上手いだけのヤツなら他にたくさんいるから、と切られてしまった事もあるとか。


 それを聞いたとき明果は、こいつバカなんだな、としみじみ思った。

 音楽バカ。

 音楽が好きで、ギターが好きで、自分の満足が1番で。

 今でもよく東京にいるギターの師匠とネットでセッションをしているのだが、それは本当にただの遊びで、発表する機会があるとかそういうことは一切関係ない。それでも真剣に何度も何度も繰り返して曲を弾いているのだ。

 バカだ。


 兄と2人で話しているときもそう思う。


 兄も、翔吾も、その師匠とやらも、みんなお人好しの音楽バカなのだ。


 音楽を愛していて、同じように他の人にも音楽を愛して経験してほしくて、こんなに素晴らしいものは他にないと考えている。


 なら、そんなバカ野郎を助けるバカがいてもいいじゃないか。


「じゃあさ……」







 1ヶ月後、翔吾は村の児童館で月に3回、ウクレレの同好会を開いて教える事になった。


 費用は、ウクレレ本体とチューナーなどのセットの購入と、楽譜の購入、あと会費。


 最初は5人くらいだった同好会だが、その年の終わりには20人も集まり、定員だと言って断るほどになった。














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