牧維墨Ⅲ
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十一時半。叶織さんに挨拶してから会場に行こうと思い、霧哉と化学室を訪れたら、他のメンバー三人もいたという笑い話。
眞緒は観下さんと。御唯綺さんは理智佳さん・よもぎさんと行動していたそうだ。
「ここは控え室じゃないんだけど」叶織さんは後輩たちの実験披露を見ながら言う。白衣がよく似合っていた。
「そう固いコト言わずに、ささ、もう一本」よもぎさんがマシュマロを勧める。理智佳さんが共通商品券をゲットしたと言っていた。机の上には、焼きマシュマロの山。叶織さんは苺味のМサイズを選んで頬張る。
「というか夏姐様、引退したんじゃなかったの?」御唯綺さんが言うと、
「化学部、三年がいないと四人しかいないから。手伝ってほしいって」
「流石叶織、ささ、もう一本」
「観下ちゃん……元気だね」
「元気だよ!」観下さんは隣に座っているよもぎさんの肩に腕を回す。よもぎさんはそれに応じてゆらゆら揺れた。「おい観下。マシュマロ気をつけろよ」チョコ味のLサイズを食べている霧哉が注意した。「分かってるよ、ささ、もう一本」「いらねえよ」
「むう、もおもおむっまもももっみみ?」
「眞緒、一言たりとも聞き取れないから」
「なあ、そろそろ行った方がよくない?」眞緒が口の中のものを飲み込んで言う。時計を見ると、四十五分。
「わーっ!?」御唯綺さんは驚いて立ち上がる。「ちょ、行くよ、全員!」
「叶織の周りは時間の流れが遅いからねー」観下さんが叶織さんの後ろに回って両肩を掴み、ぐるぐる回しながら言う。「分かるー」よもぎさんは叶織さんの膝の上にいつの間にか座っていた。叶織さんは、回されながらマシュマロをもぐもぐしていたが、嚥下すると、
「私も行くよ。よもぎちゃん、マシュマロ片づけて」
そう言って白衣を脱いだ。
「ルナちゃんに渡してくればいいよね?」「実験の邪魔はしないであげてね」
「あれ、叶織、来ていいの?」眞緒が尋ねた。
「最初から許可は取ってある。鈴に代わりに来るよう頼んだし」
彼女は言い、よもぎさんの後をついていく。
「い、いいから行くよ!」御唯綺さんは焦っている様子。ギター部が、万が一、時間通りに終わったら、急いで準備しなければならないからだ。「霧哉! 食べなくていいから!」
「だって観下が」「だってじゃない!」「おい、お前が言うな」
「霧哉! 観下!」
そうやって騒がしく、ぼくたちは体育館へ向かう。
ギター部が、時間を守る訳もなく。
結局十分前に着いたが、ギター部が10分押したため結局待機時間は20分あり、その間に観下さんが完璧に仕上がっていた。
今までの笑顔がフッと消え、目を閉じ静かに椅子に座っている。首には、誕生日にあげた首飾り。これは――いいものが、見られる予感。
改めてメンバーを確認すると。
MIO Vo. & Gt.
MAO Gt. & Cho.
BAKI Ba.
NAO Key.
MAKI Dr.
観下さんは、ギターを弾いたり弾かなかったり。眞緒は、歌ったり歌わなかったり。
さて、ようやく出番である。舞台が暗転している間に、ぼくたちは楽器をステージに出す。緊張は――まあ、していない。いつも通り。いつも通りやるだけだ。ぼくはドラムスティックを握る。
「がんばろう」
ぼくはメンバーに聞こえるくらいの小声で言った。皆は頷く。
スポットライトが、ぼくたち――『√5』を照らす。
歓声。
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「だーッ! 終わったーッ!」
観下さんが首にタオルを巻いて叫ぶ。
舞台袖に楽器を置いていき、体育館から出る。ドアはしっかり閉まるから、この声は体育館の中にはほぼ聞こえない。
「あーあ、終わっちまった」霧哉が言う。「これで来週からは、じゅけ……」
「霧哉!」「藤場!」
彼の言葉の先は、二人に遮られた。
現実を見たくないらしい。まあ、お祭りの日くらいはそれでもいいと思うが。
「あ、マオ! 私どうだった?」
観下さんがその場でくるっと一回転してから、眞緒に言う。「どうだったって?」
「可愛かった?」
眞緒は驚いたような顔になる――が、考えるような仕草をして、
「ああ、可愛かったよ」
そう答えた。
観下さんは、「やったー、ナオ聞いた? 可愛いってー」と御唯綺さんに報告する。御唯綺さんは、「よかったじゃん、ただし眞緒、迂闊に言うとセクハラ」
「ご機嫌だからいいじゃん」
「迂闊に口にするなって言ってんの」
「何でもいいけど昼喰おうぜ」霧哉が言った。
引退コンサートを終え、文化祭を再び楽しむ――が、この文化祭も、高校生としては、最後であり。
最後となるものが、たくさんある。最後の高総体。最後の合唱祭。最後の文化祭。最後の体育祭。
だから残りの時間を大切に、大切に過ごしていきたいし、悔いが残らないよう、やれることを片っ端からやる。それが目下のスタンスだ。




