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華の子  作者: 烏合衆国
軽音楽部編
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97/151

牧維墨Ⅲ




     ⬠




 十一時半。叶織(ハオリ)さんに挨拶してから会場に行こうと思い、霧哉(キリヤ)と化学室を訪れたら、他のメンバー三人もいたという笑い話。

 眞緒(マオ)観下(ミオ)さんと。御唯綺(ミユキ)さんは理智佳(リチカ)さん・よもぎさんと行動していたそうだ。

「ここは控え室じゃないんだけど」叶織さんは後輩たちの実験披露を見ながら言う。白衣がよく似合っていた。

「そう固いコト言わずに、ささ、もう一本」よもぎさんがマシュマロを勧める。理智佳さんが共通商品券をゲットしたと言っていた。机の上には、焼きマシュマロの山。叶織さんは苺味のМサイズを選んで頬張る。

「というか(ナツ)姐様(ねえさま)、引退したんじゃなかったの?」御唯綺さんが言うと、

「化学部、三年がいないと四人しかいないから。手伝ってほしいって」

「流石叶織、ささ、もう一本」

「観下ちゃん……元気だね」

「元気だよ!」観下さんは隣に座っているよもぎさんの肩に腕を回す。よもぎさんはそれに応じてゆらゆら揺れた。「おい観下。マシュマロ気をつけろよ」チョコ味のLサイズを食べている霧哉が注意した。「分かってるよ、ささ、もう一本」「いらねえよ」

「むう、もおもおむっまもももっみみ?」

「眞緒、一言たりとも聞き取れないから」

「なあ、そろそろ行った方がよくない?」眞緒が口の中のものを飲み込んで言う。時計を見ると、四十五分。

「わーっ!?」御唯綺さんは驚いて立ち上がる。「ちょ、行くよ、全員!」

「叶織の周りは時間の流れが遅いからねー」観下さんが叶織さんの後ろに回って両肩を掴み、ぐるぐる回しながら言う。「分かるー」よもぎさんは叶織さんの膝の上にいつの間にか座っていた。叶織さんは、回されながらマシュマロをもぐもぐしていたが、嚥下すると、

「私も行くよ。よもぎちゃん、マシュマロ片づけて」

 そう言って白衣を脱いだ。

「ルナちゃんに渡してくればいいよね?」「実験の邪魔はしないであげてね」

「あれ、叶織、来ていいの?」眞緒が尋ねた。

「最初から許可は取ってある。(スズ)に代わりに来るよう頼んだし」

 彼女は言い、よもぎさんの後をついていく。

「い、いいから行くよ!」御唯綺さんは焦っている様子。ギター部が、万が一、時間通りに終わったら、急いで準備しなければならないからだ。「霧哉! 食べなくていいから!」

「だって観下が」「だってじゃない!」「おい、お前が言うな」

「霧哉! 観下!」

 そうやって騒がしく、ぼくたちは体育館へ向かう。



 ギター部が、時間を守る訳もなく。

 結局十分前に着いたが、ギター部が10分押したため結局待機時間は20分あり、その間に観下さんが完璧に仕上がっていた。

 今までの笑顔がフッと消え、目を閉じ静かに椅子に座っている。首には、誕生日にあげた首飾り(チェーン)。これは――いいものが、見られる予感。

 改めてメンバーを確認すると。


 MIO  Vo.(ボーカル)Gt.(ギター)

 MAO  Gt.(ギター)Cho.(コーラス)

 BAKI Ba.(ベース)

 NAO  Key.(キーボード)

 MAKI Dr.(ドラム)


 観下さんは、ギターを弾いたり弾かなかったり。眞緒は、歌ったり歌わなかったり。

 さて、ようやく出番である。舞台が暗転している間に、ぼくたちは楽器をステージに出す。緊張は――まあ、していない。いつも通り。いつも通りやるだけだ。ぼくはドラムスティックを握る。

「がんばろう」

 ぼくはメンバーに聞こえるくらいの小声で言った。皆は頷く。



 スポットライトが、ぼくたち――『√5』を照らす。



 歓声。




     ⬠




「だーッ! 終わったーッ!」

 観下さんが首にタオルを巻いて叫ぶ。

 舞台袖に楽器を置いていき、体育館から出る。ドアはしっかり閉まるから、この声は体育館の中にはほぼ聞こえない。

「あーあ、終わっちまった」霧哉が言う。「これで来週からは、じゅけ……」

「霧哉!」「藤場(フジバ)!」

 彼の言葉の先は、二人に遮られた。

 現実を見たくないらしい。まあ、お祭りの日くらいはそれでもいいと思うが。

「あ、マオ! 私どうだった?」

 観下さんがその場でくるっと一回転してから、眞緒に言う。「どうだったって?」

「可愛かった?」

 眞緒は驚いたような顔になる――が、考えるような仕草をして、

「ああ、可愛かったよ」

 そう答えた。

 観下さんは、「やったー、ナオ聞いた? 可愛いってー」と御唯綺さんに報告する。御唯綺さんは、「よかったじゃん、ただし眞緒、迂闊に言うとセクハラ」

「ご機嫌だからいいじゃん」

「迂闊に口にするなって言ってんの」

「何でもいいけど昼喰おうぜ」霧哉が言った。



 引退コンサートを終え、文化祭を再び楽しむ――が、この文化祭も、高校生としては、最後であり。

 最後となるものが、たくさんある。最後の高総体。最後の合唱祭。最後の文化祭。最後の体育祭。

 だから残りの時間を大切に、大切に過ごしていきたいし、悔いが残らないよう、やれることを片っ端からやる。それが目下のスタンスだ。


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