保科 輔久
〇
「あの二人が最近仲いいのはなんで?」そう言って輔久は、前を歩く焔華と良空を顎で示す。
眞緒は答える。「さあ……間を取り持ったのはオレなんだろうけど、これは正解の形なのか?」
前の二人は、楽しげに会話している。
「まあ、らーが……これでいいってんならいいけどさ。ほのか先輩の方は知らんけど」
「少なくとも話せる相手が増えただけで、プラス点だよ……これからのことは分からないけど」眞緒は肩を大仰に竦めてみせる。「それより……お前は、いいのかよ。何もしなくて」
眞緒はもう、そちらの事情も把握している。
「今更何言っても、迷惑に決まってんじゃん……」輔久は、俯きながら答える。
「まだ、再開できないのか?」
「医者は治りが早いって言ってるけど、来年まではかかると思う」
「ふーん」眞緒は、コーラのキャップを開け、一口飲む。「ほら、飲みな」
「……僕コカコーラ嫌いなんだけど」
「はあ? 選り好みすんなよ」そうは言いつつ、ボトルをリュックにしまった。「で? 何かするつもりなの?」
「だから何も……」
「あの二人の方。さっき心配してたじゃん」
輔久はポケットに手を突っ込む。「……それも、何もしないって言った。てか、心配じゃないし」
「……はあ。こいつはこいつで嫉妬深ェな」
眞緒のその言葉に、
「は、いやっ……それ、どういうことだよ!」
「そのままのだよ。あ、じゃあここで。そいじゃなー」
眞緒は手を振り、焔華と合流して地下鉄のホームへと下っていった。
輔久は、地上で良空と合流する。
「……あんまり突っ込み過ぎるなよ」輔久は前を向きながら言う。
「分かってるよ。うん」良空はそう言って、ばしばし輔久のリュックを叩く。「心配するなってー! 優しい弟だなーったくー」
「弟って呼ぶなっつってんだろ」そう言いながら、輔久は二年前の出来事を想起する。
……眞緒は知らないから――そんな軽口を叩けるんだ。
そう心の中で毒突くが、彼に対してという訳でもなく。
自戒のため──次回のために。
良空を護るために──輔久は。
「心配するに、決まってんだろ」
双子の片割れに、パンチする。
〇
「おお、輔久」
「ういっす」
数日後、輔久は遥樹に会いに行った。
共に帰路につく二人。先に沈黙を破ったのは、輔久だった。
「遥樹先輩、推薦で行くんだから、大学でも、陸上、続けるんすよね?」
「まあ、そうなるよ。条件的に」
輔久は次の言葉を躊躇した。言ってしまったら、崩れ去ってしまいそうな言葉。傷つき打ち負かされ、立ち直れなくなるかも知れない不安。しかし彼は、それを発しなければならない。
「……僕も、同じ大学行きます」輔久は立ち止まって、そう言った。
「ん?」遥樹も立ち止まる。
「推薦とかは無理かも知れないけど、リハビリテーションがんばって、すぐにでも陸上に復帰して……先輩と一緒に走りたいっす」
「……そっか」遥樹は空を仰ぐ。「いいぜ。一緒に走ろう。華園出身のコンビとして名を馳せよう。だから──二年間、がんばれよ」
彼は輔久の髪を大きな右手でわしわしと撫でる。
輔久は、そんな遥樹の姿に憧れたのだった。
高身長。自信過剰。自意識過剰。それでいて、紳士な態度と真摯な姿勢、優しい言葉と鋭い行動で以て周りを鼓舞し底上げし、包んでくれる存在。
だから僕は。
遥樹先輩が。