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華の子  作者: 烏合衆国
第一部 カルミア
7/150

保科 輔久




     〇




「あの二人が最近仲いいのはなんで?」そう言って輔久(タスク)は、前を歩く焔華(ホノカ )良空(ラスク)を顎で示す。

 眞緒(マオ)は答える。「さあ……間を取り持ったのはオレなんだろうけど、これは正解の形なのか?」

 前の二人は、楽しげに会話している。

「まあ、らーが……これでいいってんならいいけどさ。ほのか先輩の方は知らんけど」

「少なくとも話せる相手が増えただけで、プラス点だよ……これからのことは分からないけど」眞緒は肩を大仰に竦めてみせる。「それより……お前は、いいのかよ。何もしなくて」

 眞緒はもう、そちらの事情も把握している。

「今更何言っても、迷惑に決まってんじゃん……」輔久は、俯きながら答える。

「まだ、再開できないのか?」

「医者は治りが早いって言ってるけど、来年まではかかると思う」

「ふーん」眞緒は、コーラのキャップを開け、一口飲む。「ほら、飲みな」

「……僕コカコーラ嫌いなんだけど」

「はあ? 選り好みすんなよ」そうは言いつつ、ボトルをリュックにしまった。「で? 何かするつもりなの?」

「だから何も……」

「あの二人の方。さっき心配してたじゃん」

 輔久はポケットに手を突っ込む。「……それも、何もしないって言った。てか、心配じゃないし」

「……はあ。こいつはこいつで嫉妬深ェな」

 眞緒のその言葉に、

「は、いやっ……それ、どういうことだよ!」

「そのままのだよ。あ、じゃあここで。そいじゃなー」

 眞緒は手を振り、焔華と合流して地下鉄のホームへと下っていった。

 輔久は、地上で良空と合流する。

「……あんまり突っ込み過ぎるなよ」輔久は前を向きながら言う。

「分かってるよ。うん」良空はそう言って、ばしばし輔久のリュックを叩く。「心配するなってー! 優しい弟だなーったくー」

「弟って呼ぶなっつってんだろ」そう言いながら、輔久は()()()の出来事を想起する。

 ……眞緒は知らないから――そんな軽口を叩けるんだ。

 そう心の中で毒突くが、彼に対してという訳でもなく。

 自戒のため──次回のために。

 良空を護るために──輔久は。

「心配するに、決まってんだろ」

 双子の片割れに、パンチする。




     〇




「おお、輔久」

「ういっす」

 数日後、輔久は遥樹(ハルキ)に会いに行った。

 共に帰路につく二人。先に沈黙を破ったのは、輔久だった。

「遥樹先輩、推薦で行くんだから、大学でも、陸上、続けるんすよね?」

「まあ、そうなるよ。条件的に」

 輔久は次の言葉を躊躇した。言ってしまったら、崩れ去ってしまいそうな言葉。傷つき打ち負かされ、立ち直れなくなるかも知れない不安。しかし彼は、それを発しなければならない。

「……僕も、同じ大学行きます」輔久は立ち止まって、そう言った。

「ん?」遥樹も立ち止まる。

「推薦とかは無理かも知れないけど、リハビリテーションがんばって、すぐにでも陸上に復帰して……先輩と一緒に走りたいっす」

「……そっか」遥樹は空を仰ぐ。「いいぜ。一緒に走ろう。華園(ハナゾノ)出身のコンビとして名を馳せよう。だから──二年間、がんばれよ」

 彼は輔久の髪を大きな右手でわしわしと撫でる。

 輔久は、そんな遥樹の姿に憧れたのだった。

 高身長。自信過剰。自意識過剰。それでいて、紳士な態度と真摯な姿勢、優しい言葉と鋭い行動で以て周りを鼓舞し底上げし、包んでくれる存在。

 だから僕は。

 遥樹先輩が。


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