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華の子  作者: 烏合衆国
第一部 カルミア
10/150

茅野 焔華③




     〇




「──ほの、か──おう、タスク」

 しばらくして、眞緒(マオ)が見舞いに来た。輔久(タスク)遥樹(ハルキ )が去った後の病室で、ここで起きたことの推理をしていた。

「マオ」

「あれ、ほのか、目ェ覚ましたって……また寝た?」

 輔久は頷く。

「そっか、まあいいや。お見舞いの品は、この机に置けばいいよな?」眞緒は息を切らしながら、努めて明るくそう言って、輔久の隣に椅子を持ってきて座った。

 気まずい沈黙。

「……僕、もう帰るから。らーって下にいた?」輔久がそう言って立ち上がる。

「ん? んー、いなかったと思うけど」

「そっか。それじゃあ」

 輔久は、病室を出ていった。

 部屋には、眠っている焔華(ホノカ )と、座っている眞緒。

「──すげえな、ほのか」眞緒は口を開く。「今までのほのかだったら考えられないよ……人を助けるなんて。別に馬鹿にしてる訳じゃないんだぜ、分かってると思うけど。でもやっぱり──変わったんだな。変われたんだな」彼は天井を仰いだ。「他人に興味がないというか、他人と距離を置きたがるというか。それが変わったのは鹿山(カ ヤマ)妹のお蔭なのか、ラスクが何かしたのか──それは知らないけど、確かに、ほのかは──」




「──まお、くん?」




 ぽそり、と声が聞こえた。

「──ほのかッ!」ばっと眞緒は顔を戻す。ベッドの上の焔華は、目を開いていた。「──おはよう」

「違うの、まおくん、違うんだよ」

 焔華は、伏し目でそう言って、震える手で眞緒の服の袖を掴む。「そんなつもりじゃ、なかったんだよ。わたしは、わたしはただッ……」

「? いや、ほのかは間違ってないよ、ラスクは助かった訳だし」眞緒は、てっきりそれが良空(ラスク)のことだと思って、不思議そうに首を傾げる。

 しかし、「違う違う違う。体が勝手に……どうしようまおくん、わたし、えっちゃんに」と、焔華は更に袖を掴む手を強める。

 眞緒は、その様子からようやく齟齬に気がついた。「──ほのか。何があった?」

 焔華は、潤んだ目で眞緒を見上げた。

 そして、焔華が目覚めてからの全てが話される。



「ああああぁあ、うううぃうぁあ」焔華は泣きじゃくる。「だからぁ……皆、優しくて。知り合う人、皆が――わたしは幸せで。絆されて。分からなくなって。……この間、えっちゃんのお兄さんに、相談に乗ってもらって。それで……うううぇあああええい、ああぁえぃうう」

「難しい問題だよ」眞緒はそう言って、焔華の頭をぽんぽんと叩く。優しくしてくれた相手に好意を抱く。こと人見知りの焔華の場合、その傾向が強いのかも知れない。「ほのかは悪くない。きっと誰も……だから、そんなに泣くなって」

「でもぉお」焔華は布団を握り締めた。「特別だと思ってたえっちゃんの他にも特別はいて。それを全部、自分のせいで失って……また、昔みたいにぃ、独りになって、えっ、ええ」

「独りじゃねえよ」眞緒は、力強い口調で言う。

「──まお、」

「鹿山妹は駄目かも知れない。遥樹も、難しい。だったら……俺がいるよ。俺は、今までいなくなったことあったか?」

 焔華はふるふると首を振る。「……ない」

「俺は、今まで裏切ったことあったか?」

 焔華はふるふると首を振る。「……ない」

「俺は、今まで」眞緒は、焔華の髪の毛をくしゃっとやり。「ほのかのこと、嫌いになったことあったか?」

 焔華はぶるぶると首を振る。「……ない、ないよう。まおくんはいつでも、わたしの味方でいてくれたもん~」焔華は、眞緒に縋るようにその手を握る。

「だから、大丈夫だよ。俺がいる」眞緒は、そんな焔華を支える。今、彼女に優しくすること。彼女の隣にいること。それが自分の使命だと確信した。「一緒に、がんばっていこうぜ」


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