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華の子  作者: 烏合衆国
第一部 カルミア
1/150

序章




      ○




遥樹(ハルキ )、食堂行こーぜ」

 昼休み。眞緒(マオ)はC組の教室のドアからひょこっと顔を出し、友人の名を呼ぶ。

「おう」

 気づいた遥樹は、机の上の筆入れを机の中に、教科書を鞄の中に片づけて立ち上がった。学ランの上着を掴んで眞緒の元へ向かう。「よし、行こ――ああ、そうだ、俺職員室行かなきゃ」

「ん、そうなの? じゃあオレもついてく」

「なんで」

「オレも部活関係。活動スペースの融通を、さ」

 なら行くか、と二人は歩き出す。遥樹は上着のボタンを上から順に留めていった。

「あ、聴いた? 昨日発表の」

「聴いた。超よかった」




     ○




「ほのちゃん、帰ろ」

 放課後。家や図書室で勉強する者、部活動に励む者、教師と面談する者などさまざまいる中、華江(ハナエ )焔華(ホノカ )の元にやって来る。

「あ! うん」

 焔華は進学祝いにもらったお気に入りの黒いリュックを背負い、彼女の待つドアまで行く。今日は二人共、部活の定休日なのだ。

 階段を降り、靴を履き替え、校門を出る。二人は自然と、手を絡め合わせた。

「合唱コンクールの歌、決まった?」華江は尋ねた。

「まだ。指揮者が決まらなくて」

「ほのちゃんは指揮できないの」

「わたしは、その、できないというか」焔華は立ち止まって、つっかえながら言う。「目立つのは、あんまり」

「うん、ほのちゃん歌、上手だもんね」華江は焔華の顔を覗き込む。「あたし、ほのちゃんの歌声好き。……もちろん、それだけじゃ、ないよ?」

「え、えっと」

 顔を紅潮させる焔華。華江は優しく笑んだ。

「行こっか」

「……うん」




     ○




「たっくん、鹿山(カ ヤマ)先輩のコト、好きなんでしょ」

 夕食後。父親の長風呂を待っていた良空(ラスク)は、輔久(タスク)の部屋に来ていた。椅子でくるくる回る姿には幼さが漂うが、その声は至って真面目である。

「…………」

 彼は何も言わず、ベッドに寝転びながら目だけを双子のきょうだいに向ける。

「笑わないでよ。私も――好き、なんだよね」

「笑わないよ」輔久は起き上がる。「()()こそ、僕のこと笑えよ」

「……何かするつもりなの? 運動できなくても、マネージャーとか」

 良空は彼の言葉には応えずに、そう訊いた。

「突っ立ってるだけっていうのはな」輔久は痛めている右膝を少し揉む。「らーはいいよな、()()()()で」

「え?」

「え?」

 その言葉に。二人は、それまでの会話の齟齬に気づく。

「僕は――」

「私は――」

「鹿山――」

「鹿山――」



「――遥樹先輩が」

「――華江先輩が」



 輔久はベッドから降りる。代わりに、良空が枕に飛び込んだ。

「……驚いたあ」

「僕の台詞だよ」


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