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第五話 雪道

2020年12月22日・ルグドラクール共和国中部

 雪道を三台の軽装甲機動車がゆく。


「…………」


 その真ん中、前後を護衛されながら進む二台目の車内の雰囲気は重い。

 三台はいずれもザナの国旗を車体にペイントされたザナ国防軍のもの。キャンプ・ユニマに配備されたただ一種類の装甲車──小銃弾を防げる程度のものだが──の、貴重な三台だった。


「あんな骨董品で。……奴ら威嚇のつもりかよ」


 押し殺した声で吐き捨てるように言ったのは運転手の中年兵士だった。

 彼の視線は道の両脇を行ったり来たりしている。道の両脇には木々に隠れるように無数の戦車が等間隔で延々と続いている。田畑が延々に続く光景を田園風景と呼ぶのなら、今自分たちが見ているのは間違いなく戦車風景だった。

 並ぶ戦車たちはザナ国防陸軍では既に退役が完了しつつある第二世代主力戦車が殆どだが、一部には第三世代主力戦車も混ざっている。それらはかつてこの国がまだ国王の名の下に統一されていた頃に配備されていたもの。若しくは98年戦争、或いはその前後に各地で頻発していたテロの結果、基地や生産工場ごと奪われた戦車だった。


 大国が介入した内戦で勝利した民主派を支援するために、彼らがこの国に無計画に大量に建てた軍需工場が、今となっては武装勢力の手に渡り、彼らの武器を製造している。だが大国は奪われたそれらの工場をお得意の空爆で叩こうとはしない。彼らにとってこの極東のことなど、砂漠地帯や地球温暖化よりもどうでもいいことだった。

 後部座席に座るキャンプ・ユニマの副司令グラーク中佐は口を開く。


「だが、我々にはない戦車だ。いくら骨董品といえど我々の兵器であの装甲を破れるのは現状、少数あるだけの対戦車ロケットしかない。攻めてきたら対応は難しいだろう」

「でもその時には本土の味方がたくさん来てあんな奴ら倒してくれますよ」


 その時には、我々はこの島に骨を埋めた後だろうがな、と言う言葉をグラークは飲み込んだ。そもそもユニマが攻撃を受ける、或いは陥落したとして、上層部や国が本当に援軍を送るかどうかもわかったもんじゃない。

 最悪、我々は見捨てられるだろう、と自嘲気味に心の中で吐き捨てた。

 それがザナという国だ。外交を重視した事勿れ主義のあまり、自らの責任を責任を果たさない国。それこそがザナ共和国である。しかし、それ故にザナは今日まで繁栄してきたのもまた事実。

 そんなこと政治への口出しを禁止されている軍人の自分がおいそれと口にできるわけがない。


「とにかく、交渉の途中ではそんなことを言わないように気をつけるんだな。墜とされたヘリの仲間たちが奴らの気まぐれで殺される可能性も十分ある。まぁ、あまりに不本意なのはわかるが」


 と言ってグラークは窓の外でたなびく白旗を見た。

 白旗、敗北の証である。三台とも白旗を掲げている。そしてこの白旗を見て外にいる獣人たちはニヤニヤと笑っている。戦ってすらない、まして仲間のヘリを落とされてその安否も知れない兵士たちからすれば憤りを感じることは何もおかしいことではないだろう。


「中佐は……」


 運転手の男が不意に言った。


「中佐は生きていると思いますか?」


 あまりに重い質問。しかし、当然の質問。基地の誰もが気になっている疑問。


「さあな。ヘリが墜ちてから二日間、墜落現場周辺は吹雪いていて光学の偵察衛星は使えなかったし、レーダー衛星はそもそも軌道上にいなかったらしい。天候が回復した今、本省の方で急ぎ墜落現場周辺をスキャンする準備をしているらしいが……」


 車列はやがてある建物の前で止まった。周囲には武装勢力の兵士たちに囲まれている。一応、こちらも小銃を持った兵士たちが降りるがその数の差は明らかだ。

 獣人の兵士と人間の兵士はその体格からして違う。獣人たちがかなり大柄なのに対してザナの兵士たちはヒョロヒョロに見える。

 もちろん、いくら獣人と言ったってみんながみんなそんな大柄な訳では無い。グラークの経験上、半分ほどの獣人は人間とさほど変わらない体型だ。それでもこの場の兵士が屈強な獣人たちばかりなのは、やはり威嚇という事だろう。


 グラークは今回の会談場所となる眼前の建物を見た。

 ルグドラクールでは珍しい石造の建物。西洋のバロック建築と酷似した外観である。ふと、この建物はいったい何時ごろに建てられたものなのだろうか、とグラークは思った。


「こちらへ」


 案内の獣人の言うままに建物の中に入っていく。その一室に入ると、そこにはこちらに背を向け、窓の向こうを眺める一人の獣人がいた。彼はグラークたちが入室したのにやや遅れて振り向いた。


「ルグドラクール王国へようこそ、グラーク副司令。外務大臣のアルメニッヒだ」


 そう言って握手を求めてきたのはかなり歳をとった狼の獣人だった。

 もうヒョロヒョロで、背中は丸まっている老犬。しかしその長いまつ毛の下からは鋭い眼光がグラークを品評するように見つめている。


 ルグドラクール王国。北部の武装勢力の中でも一番の力を持つ武装勢力だ。議会制民主主義を採用しており、自前の軍隊の他、各種省庁を保有している、国家と遜色ない武装勢力。しかし我々が普段彼らを呼ぶ名は王党派。彼らを国と認めないための苦肉の策である。


「はて? 王族が見つかったのですかな? 恐れ多くも申し上げさせていただくのであれば、王族の皆様方はミルムの虐殺により全員がお亡くなりになったと聞いておりますが」


 軽い侮辱。牽制のつもりで言ったのだが、目の前の男はあくまで冷静だった。それはきっと老いたがための平静なのだろう。


「そんなことを言うためにわざわざ来たのか、若造よ。それに、我が国の王が死んだのは貴国にも原因があろう。かつて兄弟国と呼ばれながら我らが王の援軍要請を無情にも黙殺したこと、我らはまだ忘れておらぬぞ」

「申し訳ございませんが小官に政治について語ることは許されておりませんので。本日は撃墜されたヘリの乗員についての確認で訪れた次第です。しかし、これだけはハッキリと言わせていただけたい」


 グラーク中佐は今までどこか穏和な雰囲気のあった表情を一変させる。まるで凍りついたかのような冷酷な表情を浮かべる。


「我々は今回の事態に非常に強い憤りを感じている。一刻も早く撃墜されたヘリの乗員を返していただきたい。また、今回の事態について誠意のある説明を求めたい」


 その雰囲気にアルメニッヒはしばし押し黙った。それから気を取り直すように咳払いをする。


「ま、憎しみの応酬はこれぐらいにしておくとしよう。それで今回の件だが、我が方に全面的な非を認め、謝罪したく思う」


 予想だもしていなかった言葉にグラークは呆気に取られた。

 本当に謝罪と言ったのか?

 グラーク中佐がアルメニッヒと話すことは、キャンプ・ユニマの副司令官という立場上これが初めてではない。彼は王党派の中ではかなり穏健な部類に入るが、それでも敵対勢力の幹部の口から出たその言葉は意外すぎた。


「謝罪……? 謝罪とおっしゃいましたか?」

「そう申した。今回の件は王国陸軍内の過激派が現場の独断で実行したことを確認した。実行犯たちについては現在陸軍で身柄を拘束している。今回の一件はルグドラクール王国政府が望んだことではないということを、グラーク中佐には理解してもらいたい」

「それではヘリの乗員についてお教えいただきたい」


 と言うと、アルメニッヒはわかりやすく目を伏せた。

 その仕草が気になり、グラークはたたみかける。


「何か問題でも?」

「いや、それが……。墜落した時点では生存者はいたらしいのだが、現場の兵士たちが独断で殺害してしまったのだ。そして遺体は海に捨てたと供述しておる」

「……そうでしたか」


 煮えたぎるような感情を飲み込みながら言う。


「できれば、墜落現場近くを我が国の兵士で調査させていただきたいが」

「それについてはよしておいた方がいいと言っておく。恥ずかしい話だが、軍部にどれほど過激派がいるのか我々も把握しているとは言えない。調査となれば長時間留まることになるのであろうが、残念ながらあなた方の身の安全を保証できる状態にない」


 それから三十分ほど、事実確認及び双方にこれ以上の混乱の拡大を望まないことを確認して会談は終わった。


「裏があるな」

「は?」


 帰りの道のりでグラークは誰に言うでもなく呟いた。道の両脇には相変わらずポンコツ戦車どもが立ち並んでいる。


「わざわざ道の両脇にこれだけの戦車を並べて威嚇していくる連中が、あんなペコペコ謝ってくるのはおかしいとは思わないか?」

「それは、そうですが」

「奴らは何か隠している。乗員が殺されたという証拠も示されなかった。あんな山奥から海まで死体を持っていくなんてご苦労なことだ。奴らにはバレないように、ただ全力で情報を集める必要がある」


 今、キャンプ・ユニマが偵察に動かせるのは地上部隊とヘリ部隊、それから本省にお願いして使わせてもらう偵察衛星だ。地上部隊はバレるし墜落位置が敵勢力圏の深部だからそこまで入り込むのは難しいだろう。ヘリ部隊も気づかれるし、撃墜の危険がるから避けたい。となれば道は一つだ。


「…………」


 グラークは窓の外の空を仰ぎ見た。

 今もこの星の周回軌道のどこかに電子の眼は存在する。それがどうにか手がかりを見つけることを強く願った。


         ◇


 ルグドラクール王国北部の平野部に、いくつもの長大なる鉄の銃身が並んでいた。

 それらの大半はFH70とM198、M110といった榴弾砲。しかしよく見ればMLRS多連装ロケットシステムの姿もある。そしてその周囲には戦闘服に身を包んだ獣人の兵士たちが動き回っている。

 その中の、一つの天幕。


「大隊長、中央より指令が入りました。嵐は来たれり、です。現場近くの兵士からは二分後にはキルゾーンに突入すると」


 無線機に齧り付いていた眼鏡の獣人がそう述べると、大隊長と呼ばれた男は静かに頷いた。


「わかった。現場の兵士は急ぎ退避するように伝えろ」


 その男の歳は三十程。骨太を思わせる体でガタイがいい。それは彼が熊の獣人だからだった。

 彼の名前はヴォイテク。ルグドラクール王国陸軍第12砲兵大隊の大隊長である。

 訓練の名目でこの地に展開した大隊だったが、これから行われるのが訓練出ないことを彼は知っていた。


「しっかしこんな仕事、我々砲兵の仕事ですかね? 歩兵の仕事なんじゃ」


 そう述べるのは彼の副官である犬の獣人だ。


「プロパガンダだろうな。歩兵で殺したんじゃ迫力にかける。その点、俺ら砲兵は迫力満点だからな」

「雑用とはやるせませんな」


 まったくだ、とヴォイテクは返す。

 同時に彼は丁度いい、とも思っていた。ルグドラクール王国陸軍で比較的新しいFH70やM198、MLRSはいいが、M110はいくらなんでも旧式だし、弾薬や発射機そのものの保管、メンテナンス費用も馬鹿にならない。それらをこの作戦で全部消費してしまえという魂胆が彼にはあった。言うなればこれは在庫一掃セールである。M110は今夜に限りいくら使ってもタダだ。いくらでも届けてやることにしよう。


「だが、この一撃で全てが始まると思えば悪いものではない。先陣を切るというやつだ」

「そうですな。これで我らの力を示せます。ザナ人にも目にもの見せてやれるでしょう。我らが大隊の全力火力です。車数台如きに使うのなら、おそらく何も残らないでしょうな」


 だな、と彼は言って天幕から出た。そこにはものものしい数の火砲が並んでいる。これだけの数が射撃体制に入っているのを見るのは、彼自身初めての事だった。実際、この火力はあまりに過剰だろう。この火力を実践で使えば、一個師団ぐらいなら壊滅させることが出来るかもしれない。そう考えると随分無駄なことをしていると思われても仕方がない。

 しかしこれはプロパガンダだ。我々に逆らうもの、邪魔をするものがどうなるのかということを知らしめなければならない。それに上からは必ず始末しろとも言われている。

 火砲から兵士たちへと彼は視線を移した。実際に命令を下す前に部下たちの様子を見ておきたかったからだ。


「…………」


 多くの兵士たちはこれから何が起こるのか知らない。しかし一部の者は気づいているはずだろう。指定された座標に何があるのか。その近くで何が行われていたか。

 これから私が、また彼らが背負う名前は逆賊か、それとも英雄か。

 そう思いながらも彼は声をはりあげた。


「大隊射撃よぉーい」


 彼の言葉で兵士たちがより一層慌ただしくなる。それを見つつ、彼は横目で腕時計を見た。


「射撃40秒前!」


「5、4、3、2、1。ってェッ!」


 各砲の指揮官の号令のもと、砲は火を噴く。

 ロケットは持ち前の連射速度を活かして次々と射撃し、榴弾砲は重い一撃を十秒感覚で繰り出す。

 榴弾砲はその脚で地面に固定されているにも関わらず、砲撃の度に上下に揺れる。ロケットの斉射はまるで流れ星が空に昇っているようだった。

 辺りがたちまち土煙に巻かれるのを見ながら彼は安全な場所にある天幕へと戻った。

 それが破壊をもたらすものであることを、彼はもちろん知っていた。


         ◇


「軍部には困ったものだな」


 会談が終わり、SUV車内で首都まで揺られている途中にアルメニッヒは嘯いた。


「何がです?」


 そう言ったのは彼の部下である外務次官だ。次官にしては随分若いせいか、血気盛んで冷静に物事を判断しきれない部分がある、というのがアルメニッヒが彼に下した評価だ。しかしそれを本人の目の前で言うことは決してしなかった。

 武装勢力、ルグドラクール王国では血筋を何よりも重要視している。そのため政府役人の高官の多くはかつての貴族の家系のものが多い。一般出身のものもいないではないものの、そういったものは徒党を組んだ貴族出連中に睨まれて何も言えない犬になるか、精神を病んで辞めていくかの二択だ。次官もそんな貴族の一人だ。

 高貴な家の出というだけでプライドは高くなりがちだ。だから本人の人間性を否定するようなことは言わない。言ったら激高するだろうからだ。それはアルメニッヒ自信、身をもって知っていた。


「奴らが好き勝手するせいで私はいつも尻拭いせねばならん。それに、こんなことを続けていればいずれは破局するだろうに」

「私はそうは思いません。国力にて劣る我らがザナのような先進国と渡り合うためには我々の覚悟と力を見せつけることが必要です。彼らが誤った選択をしないためにも」

「外務次官ともあろう者が……。自爆テロぐらいならまだ良いだろう。あんなものいくらでも関与をはぐらかせる。だがヘリの撃墜となると話は別だ。一歩間違えれば宣戦布告と見なされてしまう」

「それならそれで良いではありませんか。そうなったら再び我々の力を見せればいいのです。PKFを退けた時のように」


 過去の栄光に縋る。これもルグドラクール貴族にありがちだ。何せそれしか縋れるものがないからだ。世界に除け者にされ、国土の半分に意味のわからない国家を作られたとあっては、自然に過去を懐古するしかなくなる。


「勝てるとは思えんがな。よくて引き分けだ。敵はザナ一国だけではない。今まで見逃されてたとはいえ、同盟国が攻撃されれば合衆国も出るだろう。合衆国が出ればお仲間共がわさわさと湧いてくるだろう」

「ならば外務大臣は外国にへこへこ頭を下げていろと言いたいのですか? 南の獣人たちを見てください。あんなのは酷すぎます。自分たちが餓死しているのに外国向けに食料を大量に輸出しているんですよ。それも格安で。近衛師団に所属していたともあろうお方が、随分と腑抜けたものです」


 ピクっ、とアルメニッヒの眉が動いた。

 しかし事実だった。王座に王がいるという、もはや過去となった()()なルグドラクール王国が存在した頃、彼は近衛師団の中隊長だった。王を守れなかったという後悔や、王の了承も得ずに王国を名乗るルグドラクール王国に師団の兵たちが見切りをつけて散り散りになっていく中、彼は政府に残り続け、現在の地位まで上り詰めた。

 彼自身、現在の政府に不満がないわけではない。他の近衛兵たちと同じように、本来は王のみに許されたはずの王国の名を無礼にも使い続けていることには一種の不快も感じてきた。しかしそれでも内部から王国を変えようとしてきて……結局のところ何も変えられなかった。

 かつてのメルザール陛下、そして更にその先代が目指したのは共存と平和だった。そのためにかつての王国は兵力を削り、ハーフや少数の獣人たちの権利を認めようとした。しかしその先にあったのが、強硬路線を解いて融和に走ったが故に出来た綻びに漬け込む外国勢力の決起だった。それを失敗と捉える現王国は強硬路線を頑なに崩そうとしない。

 アルメニッヒに出来ることといえば、せめて現状をより悪化させないように努めるくらいなものだった。


「そうは言っておらん。ただ、今の状態が一番良いのだ。なんとなく双方共に手を出せないこの関係がな。このバランスが崩れれば我々の立場は危うい──ん?」


 その時アルメニッヒは空で何かが煌めいた気がした。それはまるで流れ星のような。


──ドオォォォォン!


「なんだッ!」


 しかし次の瞬間に車列の先頭を走っていたはずの車がいきなりひしゃげて爆発した。その爆発の衝撃波は凄まじく、後ろを走っていたアルメニッヒの車の窓ガラスが粉々に割れるほどだった。

 そして爆発した車は炎と黒煙を上げながら道の脇の木に突っ込んで動かなくなった。


「わかりません! しかし攻撃を受けています!」

「とにかく避けろ! 道なんて走るな! 林につっこめ!」


 泣きそうな運転手にアルメニッヒは吠えた。このまま律儀に道路を走るよりはそちらの方がマシだと思ったからだ。

 アルメニッヒの言葉に運転手は従い、車高の高いSUV車は道を外れて雪の中を突っ切っていく。

 が、それもあっけなく終わる。


「ぶつかる!」


 運転手が叫んだ。目の前には木が迫っていた。

 運転手は急いでブレーキを踏んだ。雪が高く積もっていたこともあり、車はなんとか止まったものの、しかし次の瞬間には別の問題が起こっていた。


「なにをしている! 車をさっさと出せ!」

「ダメです! ハマって動けません!」


 外務次官の叫びに運転手が言葉を返せたのはもはや奇跡に近かっただろう。

 雪の上で停車してしまったことで、アクセルを踏んでもタイヤが空回りしてしまい、その場から動くことが出来なくなってしまったのである。

 運転手はパニックを起こしているのか、アクセルを全開にしているが、そんなことをしても脱出できるはずもなかった。


 呆然としてアルメニッヒは外を見た。

 その光景はまさしく砲弾の雨あられだった。

 着弾、爆音、爆煙、舞い上がる土煙。それが世界を支配した。

 一台のSUV車はやがてその煙に巻かれて姿を消した。

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