5人の妹達の為に生きたレティーナはやっと恋を楽しむ。
レティーナ・アルミルディス公爵令嬢は今、怒りまくっていた。
彼女は由緒あるアルミルディス公爵家の一人娘だったのだが、
母がかねてから好きだと言う別の男と駆け落ちをしてしまい、
(それだけでも頭が痛い話なのに)
父は幸いとばかり、隠し子がいるので引き取りたいとレティーナに言ってきたのだ。
父の子ならば仕方がない。反対する訳にもいかない。承知したレティーナであったが。
「リリアです。」
「ミリディーナです。」
「マリアージュです。」
「カレッチナです。」
「ステリアです。」
はぁ???隠し子5人???多すぎでしょう。
それも、皆、わたくしと一つ年下の女の子ばかり。
一体全体、何人と浮気なさっていたのでしょう。
お父様は…
父であるアルミルディス公爵は、
「お前が生まれたのが嬉しくて嬉しくて羽目を外した結果がこれなのだ。」
「羽目を外して浮気ですか?えええええっ?お父様。」
「すまん。しっかりと面倒を見てくれ。お前はこの家の長女なのだからな。」
「わたくしがですか?」
「よろしく頼むぞ。」
レティーナは眩暈がした。
レティーナは銀の髪で青い瞳の美しき令嬢なのだが、
5人の妹達は赤毛やら金髪やら色々な髪色でカラフルである。
「お姉様っ。ミリディーナが私の洋服を着てっ。」
「お姉様っ。マリアージュが私をいじめるのですわ。」
「お姉様、お姉様の髪飾り私も欲しいっ。」
「お姉様。私、この部屋よりあっちの部屋の方がいいですわ。」
「お姉様。お腹がすきました。ご飯まだかしら。」
わいわいと騒がしく色々と訴えて来る。
皆、育ちが良くなかったらしく、平民の中で育ってきたと言う事。
「ミリディーナとマリアージュ。仲良くしなさい。髪飾りはわたくしのお気に入りですから、お父様からお小遣いをもらってその範囲であなた自身が買いなさい。部屋は贅沢をいうものではありません。ご飯はあと1時間我慢して。」
レティーナはともかく、この家の長女として5人を何とか一人前の公爵令嬢にしないとと、
決意を固めるのであった。
5人は王立学園へ通う事になったが、そこでも騒ぎを起こした。
「きゃぁ皇太子殿下、素敵だわ。」
「私、ミリディーナと申します。」
「ミリディーナっ。ずるいわ。私、マリアージュですわ。」
「私を見て私を見て。」
「サイン下さいっ。皇太子殿下っ。」
この国のアレク皇太子殿下はレティーナの婚約者である。
アレク皇太子は困ったように、
「君の妹達は凄いな。」
「ええ。本当に無作法。申し訳なく思いますわ。」
そして、レティーナは宣言する。
「皇太子殿下はわたくしの婚約者ですわ。むやみに親しくしないように。」
「「「「「お姉様。ずるいですわーー。」」」」」
口を揃えて文句を言う、妹達。
5人もいると、もう…負けそうですわ。
それでもレティーナは5人を一人前のレディにするために奮闘した。
貴族令嬢としてのマナーを教え、常識を教え、ともかく手取り足取り教えたのだ。
レティーナの苦労が実って来たのか、学園に通ううちに、5人の妹達は常識を身につけ、それと同時に磨かれて公爵令嬢にふさわしい令嬢になっていった。
母が平民であろうとも、アルミルディス公爵家の令嬢達なのだ。
学園の男性貴族達が、5人の妹達に近づいて、誘惑してきたのだ。
マリアージュが頬を染めて、
「今日、キリウス様からデートに誘われましたわー。」
「「「「ずるいですわ。あんな素敵なキリウス様とデートなんて。」」」」
他の4人が口を揃えて羨ましがる。
レスティーナはマリアージュに、
「キリウス様はやめておきなさい。彼は女癖が悪いわ。絶対に不幸になるから。」
「そうですの?」
妹に近づく輩の事はしっかりと公爵家の隠密部隊に調べさせる。
ろくでもない男に引っ掛かって捨てられでもしたら。
姉としては心配で心配でたまらなかった。
妹達に群がる害虫(男)達を蹴散らして、ふさわしい相手を探したり紹介したりして婚約を結ばせたり妹達を面倒見る事に気を使う事に忙しい。
だが、アレク皇太子殿下の事も愛しく感じていて、忙しい中、気を使い大切にお付き合いをしていたのだが…
いつの間にやら、アレク皇太子の気持ちが他の令嬢に移っている事にレティーナは気が付かなかった。
妹達の事で忙しかったのだ。
妹達それぞれによい婚約者が決まり、レティーナ自身はほっとして、
王立学園を卒業する事になったのだが、その卒業パーティで、アレク皇太子に、
「レティーナ。君と婚約破棄をする。私はユリーナ・イルギス公爵令嬢と婚約したいのだ。ユリーナは私の事を愛してくれている。家族よりも何よりも私の事を大事にしてくれるのだ。いかに政略とはいえ、私は愛のある結婚をしたい。だからレティーナ。私との婚約破棄は当然だろう。」
アレク皇太子の隣にはユリーナ・イルギス公爵令嬢がべったりくっついていた。
レティーナは悲しかった。
レティーナ自身、アレク皇太子の事を精一杯愛していたのだ。
ただ…
妹達の事で頭が一杯で、アレク皇太子をおろそかにしていた事があったのかもしれない。
でも、後悔はしない。
自分は妹達の幸せの為に頑張ったのだから。
「了承しましたわ。」
アレク皇太子からの婚約破棄を了承したレティーナ。
卒業パーティが終わり、その事を聞いた妹達5人は泣きながら、
「お姉様ごめんなさい。」
「お姉様、私達の為に、精一杯働いてくれて。」
「お姉様っ、本当にごめんなさい。」
「お姉様ぁ…」
「お姉様っ…」
5人が一斉に抱き着いてくる。
一人一人の頭を優しく撫でながら、レティーナは、
「貴方達のせいではないわ。わたくしの努力が足りなかったの。」
そして、声を一人一人かけていく。
「リリア。貴方はとても慈悲深い優しい子。神官様はとても良い方だわ。
貴方の生き方を理解してくれている。仲良く過ごすのよ。」
「はい。お姉様。神官様と仲良くして、共に人々の為に尽くしますわ。」
リリアは涙を流しながら頷く。
「ミリディーナ。騎士様は貴方の気の強い性格を良く解っていらっしゃるわ。
そして、寂しがりやな所も。とても紳士的でよい方。あの人を逃がしては駄目よ。」
ミリディーナも頷いて、
「有難うございます。お姉様のお陰で良い方と縁を結べましたわ。」
「マリアージュ。貴方の刺繍の才能を、美術的な才能を見てくれるのは、商会長様しかいないわ。若いのにやり手な方。貴方の夢をあの人なら叶えてくれる。幸せになってね。」
「ええ。お姉様。わたくし、頑張りますわ。」
「カレッチナ。貴方は来年卒業したら、竜神の国へ行ってしまうのね。
身体に気を付けて。とても良い竜神様だから幸せになれるわ。どうか…元気で…」
「お姉様。有難う。わたくし幸せになりますわ。」
「ステリア。貴方…ええと、何だったかしら?」
「酷いですわ。お姉様っ…わたくしは、世界にお笑いを届けようと、彼と共に旅をするつもりなんです。」
「そうでしたわ。ええと…気を付けて行って頂戴。」
頑張った割にはちょっと変わったのに引っ掛かった妹もいるが…
お笑いの彼はとてもいい彼なので、ステリアは幸せになれるでしょう。
レティーナは荷物を纏めて準備する。
隣国へ行こうと思っていたのだ。
すると、この家の執事がやって来て、
「お嬢様。お供致します。」
「テリュース。わたくしの事はほっておいていいのよ。」
「旦那様の命令ですから。」
そして、テリュースは背後からレティーナを抱き締めて来て、
「私はかねてから、お嬢様をお慕いしておりました。ですから、どうかお供をお許し下さい。」
「え???そうでしたの?」
いつも傍にいて、相談に乗ってくれていたテリュース。
妹達の事で悩んでいた時も、彼はいいアドバイスをしてくれた。
美味しいお茶を用意してくれて…話を聞いてくれる、時には良いアドバイスをしてくれる。レティーナはとても癒されたのだ。
彼が自分の事を想っていただなんて。
何だか嬉しかった。
「ええ…一緒に隣国へ参りましょう。」
「「「「「お姉様っーー。気を付けてっ」」」」」
5人の妹達は泣きながら見送ってくれた。
そして…隣国の叔母の元へ身を寄せて、
そこで、事業を手伝いながら、これからどうしようかと考えていた所、
アレク皇太子がある日、いきなり尋ねて来た。
「悪かったっーーー。レティーナ。どうか私と再び婚約してくれ。」
「ええ?今更、困りますわっ。」
「こっちも困っているのだ。神殿からも騎士団からも、私より、弟の方が皇太子にふさわしいと皇帝に言ってきている。皇都商会も、私に物を売るのは嫌だと…
この間は我が庭で竜神達が暴れまくっていた。
街の芸人達が私の悪口を広めているそうだ。
どういう事だ?????」
「まぁ…それは…わたくし、知りませんわ。」
「知らないはないだろうっ。お前の妹達がっ。」
「さぁ…それにわたくし…今、お付き合いしている人がいるので。」
背後に控えるテリュースの傍に立って、
「わたくしの婚約者テリュースですわ。ですから…わたくし、国には帰りません。」
「そんなっ…それならせめて嫌がらせをやめさせてくれっ。」
「さぁ…わたくし、知りません事よ。」
がっくりと膝をつくアレク皇太子。
妹達はわたくしの為に…なんていい子達なのでしょう。
アレク皇太子に出て行って貰い、
愛しいテリュースと共に、テラスでお茶を楽しむレティーナ。
子育てが終わり、やっと恋を楽しむそんな気分で、ちょっと寂しいような…
でも…テリュースと共に見上げる青空は秋の木の葉が舞い散って、
とても幸せを感じるレティーナであった。