~第3幕~
女子一心高校の体育館裏にて多数の女子生徒が集められていた。彼女達は皆、袋越しに臭い匂いがする菓子パンを持たされていた。
「おらぁ! 金だせぇ!」
「え……どのくらいですか……」
「財布の中にある金、全部だよぉ。おら! 貸せよ!」
鳥谷は体育館裏に集められた女子を相手に恐喝をしていた。すぐ後ろには葛城はじめ、この悪行に手を染めている面々がいる。お金を渡した女子には賞味期限切れのパンが手渡され、躊躇した女子へは竹刀で暴力が振るわれた。
「そこで何をしているの!! やめなさい!!」
そこへ突然、八木が現れた。
「なんだ!? 柔道ババァか!? おい! 鳥谷! 野間! 今回はしごけよ! 倒せなかったら、ウチの組から破門だからな!!」
葛城はそう言い残すと、彼女の取り巻き2人とそそくさ逃げていった。
野間が竹刀を八木めがけて全身全霊で振るう。しかしそれは片手で止められ、「調子にのるなよぉ!!」という怒号も受けて「す、すいません」と委縮した。そして彼女は呆気なくも葛城が逃げた方向へ走り去った。この攻防の中で八木は「逃げなさい!」と虐めを受けていた女子達へ呼びかけてもいた。
まるで正義のヒーロー。鳥谷は茫然としていた。
そして気が付けば八木から頬をぶたれた。
「道場へ来なさい。今ならまだ遅くはない」
「…………」
「明日からでもいい。一緒に柔道をしましょう。貴女を待っているわ」
「うるせぇよ。ババァ」
鳥谷もそこからいなくなった。しかし彼女が向かったのは葛城達と違う方向であった。八木はただそれをじっと見つめていた――
市川女子一心高校柔道部は八木が道場に現れたその日の翌日から、通常稽古を開始するようになった…………と言っても参加している部員は2名、そしてその稽古に付き添う室橋入れて3名の超小所帯だ。
「おお! 八木先生! 来てくれたか!」
「すいません、遅れました」
「お前ら、今日からウチの顧問になってくれる八木真弓先生だぞ!」
「月村香澄です! 宜しくお願いします!」
「安藤晶子です! 宜しくお願いします!」
「よろしく、月村さん、安藤さん。私たちのする競技はきちんとした練習あってこそ上達するものです。1つ1つ丁寧に覚えていきましょう」
「はい!!」
純粋な柔道部員の姿に八木は何だかホッとした。
これから半年間、あの鳥谷碧という女子と縁がなかったとしても、純粋に柔道というスポーツに励みたい月村と安藤の2人に何か与えられるだけでも大金星だ。そう思えてきた矢先だった――
扉が開く。そして弱弱しくも「お願いします」と声を発した女子が現れた。
高身長の彼女は道着を纏い、凛とした目で八木達をまっすぐ見つめる。
鳥谷碧だ。
「いらっしゃい! 待っていたわよ!」
鳥谷の登場に、室橋ら青ざめる面子をよそに八木は最高潮の笑顔をみせた――