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碧-aoi-  作者: いでっち51号
~鳥谷碧~
2/20

~第1幕~

 八木は三ツ橋海上火災保険会社が有する柔道部にて指導員を任せられていた。その傍らでスカウト活動もおこなっていた。この年は実質この活動が主体となり、関東地方の柔道部がある高校や大学を視察しに日々奔走していた。



「一心高校?」



 千葉県の教育委員会本部。その接待室にて、彼女は一心高校柔道部の室橋から話を受けていた。



「はい、先生はご存知でないかもしれませんが、我が校に柔道部がございます!」

「聞いたことがないですね……大会での実績はあるのですか?」

「いえ、それが実はまだなくて……でも、だからこそ未知の可能性があると私は思っているのです! 金の卵が眠っているかもしれない! そう思うのです!」

「室橋さん、お話はありがたいですが、私たちは世界を相手に戦う選手を育てる道場ですよ? 白帯を何とか付けられる程度の愛好会を見物するほど暇でありません……そのようなお話を頂くのであれば、せめて何か正式な大会で成果を残してからにしてくれませんか?」



 八木は目を潤ませて交渉に臨む室橋の顏をみて、目のやりどころに困った。



 彼女は出されたお茶を啜り「では、部のご健闘を祈ります」と言い残して立ち去ろうとした。



 しかしその手前にサッと室橋が出てきた。



「お願いします! 先生! 一度でいい! 一度でいいのです!」



 室橋はとうとう土下座をしてきた。



 八木は溜息をつく。ここまでの熱意を見せられたら、断わり切れないのも彼女の性分だった――




 彼女はそれから「市川一心女子高校」の事を軽く調べた。近年設立した高校で、どうも最近は荒れている女子高だとすぐに判明した。



 道場の総監督である青木に事を相談すると「行かなくていいだろう?」「今すぐ断りなさい」とあっさり斬り捨てられた。



 彼女はそれから悩みに悩んだ。気乗りなんてとてもしない。しかし彼女なりに興味を持っていることもあった。それはここ近年で荒れてく青年の心に対してだ。彼女の甥が暴走族に入り、暴力団からの誘いを受けて悪事に手を染めだしていると親族から相談を受けていたのだ。彼女は「出来損ないなんて見捨てなさい」とその場で彼の両親を諭したが「なんと酷いことを言うのか!」と反発をくらったのだ。あわや絶縁にもなりかけたその場は、謝ることで何とか鎮まったが……




 自分に何か出来る事があるのかもしれない。そう思うことで彼女の心はどこか自然と奮い立った。そしていつもどおり道着を着て道場に向かったのである。



 しかし現場に入って見たモノは想像以上の地獄だった――



 ただそんな地獄の中にも思わぬ出会いがあった。



 鳥谷碧、八木よりも背が高く図体の大きい女子だ。粗削りではあったが、そのハングリー精神なるものは彼女がこれまでに出会ってきたどの柔道選手の中でもピカイチのものだった――




 碧は八木と一言交わすと「ふん」と言って道場を出て行った。最後まで不愛想だった彼女だが、それは若い時の八木を彷彿とさせていた。



「先生、大変に御見苦しいものを見せてしまって、本当にすいません……だけど、先生が正しい柔道をみせてくれることで、我が部は生まれる変われる気がした。否、変わりますよ! 私は今日希望がみえた気がした! 先生! 感謝です!」



 校門前の並木道を室橋とゆっくりと歩いていたところ、彼が急に立ち止まって礼をしてきた。



「いえ、室橋先生、私は何もたいした事はしていません。それより一つ気になること……いや……気になる子がいましてね」

「え!? 誰でしょう!?」



 イチイチ言わないと分からないのか? そう思って溜息をつきながら、彼女は鳥谷碧の名前をだした。しかし室橋はその表情を頗る青ざめたものにした――

∀・)スポ魂なろうフェスの期間に合わせて連載していきます。毎週金曜日20時~が更新の基本軸になると思いますが、連日で20字投稿をおこなったりもします。宜しくお願いします。

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