~第9幕~
千葉高校総体が行われた。この日、鳥谷は娘が吹奏楽のコンクールに出場すると聞いており、普段から構ってあげてない娘の為にそちらを優先する事にした。勿論悩んでもいた。しかし教員仲間からは勿論、柔道部部員もその背中を押してくれた。
引率は普段は卓球部とサッカー部の顧問を兼任している月村が担当した。
「月村先生、宜しくお願いします!!」
柔道部一同が声を揃えて頭を下げた。一心高校の生徒にしては出来過ぎだ。
「はは、気持ちがいいね。宜しく。海老原さんと与那城さんはすっかり柔道部の子になった感じね?」
「今は柔道が私の道です!」
「私も!」
「私はアニメと柔道で二足の草鞋です!」
「そんなん誰も聞いてないよ(笑)」
わはは! と部員一同が笑う。なんて雰囲気の良い部活なのだろう。
「あなたがエースの服部さんね、それと安齋さん」
「私達は全員がエースですよ。月村先生」
「そっか、失礼したわね。じゃあ、荒しに行きますか! 高校総体!」
部員一同が「おー!」とグーの手をあげる。「全員がエースですよ」と微笑んで言い放った碧の瞳はどこの誰よりも輝いているように見えた。だが月村はまさか思いもしなかった。この面々が後に「伝説」と呼ばれる面々になることなど――
鳥谷は大会後の娘、紅乃と会話を交わし柔道部の会場へと向かった。もともと向かう予定はなかった。しかし紅乃がその背中を押してくれた。
「見に来てくれて、ありがとう! でもママの柔道部も頑張っているのでしょ? そっちの応援にも行ってあげて。私は残念だったけど、彼女達が勝っていたら、私の方からも祝福しているよって祝福してあげて! ママが監督頑張っている事、パパからよく聞いているから! 鳥谷監督、がんばって!」
涙腺が緩んだ鳥谷だったが、それを堪えて「ありがとう!」と会場を出た。
鳥谷が試合会場に行くと全試合がもう終わっていた。そしてそこで見た光景は想像を超えるものであった――
「あ! 先生! 私達やったよ!!」
女子48キロ以下級 与那城愛琉納 優勝
女子57キロ以下級 海老原妙子 準優勝
女子63キロ以下級 服部碧 優勝
女子70キロ以下級 野崎真琴 準優勝
女子78キロ超級 安齋嘉子 優勝
全員が準優勝以上で入賞した。全員が入賞を果たした。鳥谷は暫く開いた口を開けたままで唖然としていた。
「ほらほら! 先生も記念撮影しようよ!」
鳥谷は表情そのままで柔道部の面々と写真に写った。
この翌日、鳥谷も同行して団体戦に臨み、優勝候補であった木更津総合高校を決勝で破って全国大会への切符を手にすることに成功した。
その躍進はセンセーショナルで高校スポーツ界の話題に瞬く間にあがった。
数カ後に行われた関東予選でも碧と嘉子は圧倒的な力をみせつけて、優勝。愛琉納は決勝で敗れたものの、団体戦も各々が無敗の強さをみせて優勝を果たす。
ここまでくるとテレビの取材を受けるようにまでなった。特に碧への注目は人何倍もある。黒人ハーフである彼女は質問によって態度を明らかに悪くする事もあったが、彼女の特殊なキャラクターはこれまた話題を呼んだ。
全国大会までの数カ月間で愛琉納と渚が趣味でしていたSNSのフォロワーが何百倍もの数値に膨らんだ。その流れで碧と嘉子も始めたが、彼女たちのそれはもっと凄い値のフォロワーがついてきた。
全国大会への出場を機に校内大広間で祝賀会が行われた。そこへは一心高校の関係者だけでなく船橋育心道場の藤平、柔道部で交流のある市川高校柔道部全員、総勢40人余りにも及ぶ大きなパーティーとなった。やたら藤平にひっつこうとする愛琉納を戒めつつも、鳥谷は碧の母親と話した。
「すいません、本当にお忙しいなかでお越し頂いて……」
「いえいえ! 娘が本当お世話になっておりますから!」
「娘さん、私も驚くぐらいの柔道選手ですよ。お母さんも誇らしいですね」
「あの子はずっと旦那を慕っていました。その肌の色からか、旦那が心の拠り所だったのだと思います。でも、最近は私にも部活のことを話すようにもなって。嬉しいです。先生のお陰です。感謝ばかりです」
鳥谷は手をとり「子供は母の手あってこそ立派になりますよ」と返した。
『さてさて! そろそろ夜遅くなりました! お開きにしようと思いますけど、最後の一言は鳥谷監督から頂きましょうか?』
室橋校長がマイクをとって鳥谷に渡そうとした。
『え? 私? いや、そこは碧でいいですよ!』
『先生が碧でしょ?』
『アンタが今注目の碧でしょ! 遠慮するな!』
『先生が遠慮しないで下さい! 先生こそ今注目の碧でしょ!』
誰かが「もう2人の碧で締めましょうよー(笑)」と言って拍手が湧く。拍手を受けているのが鳥谷碧なのか服部碧なのか全く分からない。お酒は誰にも入ってないのに、まるでみんなが何かに酔っているかのような祝賀会だった――
翌日から一心女子高校柔道部は練習を再開した。量も質も濃いと評される彼女たちの練習はこれより一層濃くするためなのか、一切非公開とされた。それまでやっていた出稽古の受け入れも出稽古に出掛けることもなくなった。
しかし嘉子のSNSでお菓子作りが定期的に上がるのが謎を呼んでいた――




