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碧-aoi-  作者: いでっち51号
~服部碧~
11/20

~第1幕~

 服部碧の担任はフランス語を担当するアルトーというフランス人女性教師だ。年齢も鳥谷と同い年の女性だった。



「バスケ部志望だった」

「ハイ、タダ、問題ガアッテ……」

「問題?」

「部活ヲスルナカデ彼女ガ仲間ハズレニナッテイッタノデス」

「バスケ部の?」



 アルトーは首を横に振った。



「私ノクラスデモ彼女ハ孤立ヲシテマシタ。虐メハナカッタヨウニ思イマスガ、モシカシタラアッタノカモシレマセン」

「そう。アルトー先生、もし彼女が学校に戻ってくるようであれば、彼女を柔道部に入れてもいいですか?」

「エッ?」



 鳥谷は満面の笑みで願い出た。アルトーからしれてみれば、もはや諦めていた生徒であり、それを拒む事など当然なかったが……。



 それからその足で鳥谷は図書室に向かった。葛城渚に会いに。



 彼女は図書室で柔道の書籍を読んでいた。鳥谷と目が合うと、一瞬でその瞳を大きくさせた。



「鳥谷碧先生ですか! 葛城です!」

「あははは、初めまして。あなたが葛城さん?」

「はい! 先生のご活躍は映像でもみました!」

「恥ずかしいな。お母さんから教えて貰って?」

「はいっ! 母はこの学校を退学してしまった生徒でしたが、私に最後まで鳥谷先生のように頑張って欲しいとこの学校の入学を薦めてくれて。私にとって憧れの存在が先生になって、この学校にくるなんて……まるで運命です! 赤い糸で結ばれているようですね!」



 渚は鳥谷の手を両手で熱く掴んだ。



「えっと……話は聞いたけど柔道部を始めたいって?」

「はい! 先生のようにパイオニアになりたいです!」

「そう……嬉しいね……」



 渚は見るからに病弱故の華奢な体つきをしていた。確かに無理をしていけない女子なのだろう。柔道を本格的に始めるには無理があるとその場で思えた。



「先生、この学校には体育の授業でしか使われてない道場があります。柔道部の顧問になるのであれば、ぜひ私の願いを聞いて貰えないですか?」

「えっと、私が顧問になるのがもう決定事項なのかな?」

「室橋校長から私のことを聞いたのでしょ!」

「そ、そうだけど」

「私と乱取りをしてください!」

「えっ」

「先生と今すぐ組みたいです!」

「でも、あなたは無理をしちゃいけないってお医者さんから言われて……」

「先生と組んで死ぬなら本望です!」



 鳥谷は渚の情熱を拒むことが出来なかった。彼女たちはそのまま校内の道場に向かった。



「ジャパン!」



 鳥谷は念の為に持ってきていた道着に着替えた。強化選手時代に来ていた道着である。渚も持参していた道着に着替えて鳥谷の道着姿に目を輝かせた。



 そして乱取りを始めた。渚は思いのほか激しく当たってきた。これまで柔道をしていた経歴があるのか、帯は黒帯だ。本気で相手にすべきなのかどうなのか、葛藤をしているうちに鳥谷は払い投げられてしまった。



「はぁ……はぁ……先生、どうしたのですか……それがジャパンの刺繍が入った柔道家の力ですか……はぁ……はぁ……ぜぇ……はぁ……」



 違う。本気で相手をしてしまっては致命傷を与えかねないのだ。そうなのだが、そうだとすぐに答えられなかった。



「渚……私は……」



 鳥谷がゆっくり立ち上がって話をしようとした時に扉がバタン! と開いた。同時に室橋の「何している!?」という大声が道場に響く。渚はフラフラしだし、そのまま倒れてしまった――



 渚は病院に搬送されたが命に別状はなかった。病院のロビーで彼女を待つと、何十年振りかの再会があった。



「鳥谷さん!? いや鳥谷先生ですね……」

「葛城先輩……申し訳ございません、娘さんの要望を受けてしまったが為に」

「とんでもない! 私が先生の事を娘に変に教えてしまったがばかりに……」

「ええ、娘さんから伺いましたよ。何て言うか、恥ずかしかったけど嬉しかった」

「先生のご活躍は離れていた所からみていました。私は失敗ばかりの人生だったけど、先生のご活躍にずっと励まして貰っていたから……」

「光栄です。でも娘さんにしてしまった事は責任を持ちます。本当にすいません」

「渚は大丈夫ですよ! 先生と好きな柔道ができた事、きっと嬉しかったと思いますから。あの、宜しければ娘の傍にいてくれませんか?」

「えっ? 私がですか?」



 渚が目を覚ます。そこにいたのは鳥谷碧だった。



「鳥谷先生」

「お母さんからお願いされたよ。室橋校長にも酷く怒られた」

「すいません……私のわがままを聞いて貰ったばかりに……」

「でも、あなたは上手かったよ。本当に柔道がしたいのね?」

「でも、でも、こんな体だから……でも、先生と組む事ができて私は嬉しかったです! 柔道が出来なくても、柔道部の一人になりたい!」



 渚の瞳は真っすぐだった。それに応えられない鳥谷でもなかった。



「じゃあ一緒に柔道をする仲間を作ろうか。私の近所に良さそうな子がいてね」



 鳥谷は渚に服部の話をした――




 鳥谷はその春から1年の担任を任された。保険体育の教員としても働くことに。その傍らで葛城渚をマネージャーに迎えて、一心高校柔道部の旗揚げをしようと取り組むのであった。



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