接吻
「シアン! 大丈夫?」
イグニから【ファイアボール】を受けたシアンは気を失ってしまっていた。
「どうしよう……大丈夫かな?」
見たところ傷は負っていなさそうだが、万一のことがある。
彼女はただでさえ病弱なのだ。
冒険者から魔法攻撃を受けて無事で済むかどうか……。
ぼくは助けを求めるため、周りを見渡した。
イグニがどこかへ逃げてしまったことぐらいしかわからなかった。
「誰かー助けてください!」
ぼくが叫ぶと、屋敷からセバスが飛び出してきた。
「どうされましたか! ルカ様、それに……お嬢様!」
セバスは、気を失ったシアンを見て動揺した。
「すみません、ぼくが不甲斐ないばかりに。シアンさんを守れませんでした」
「そんなことはありません! 私めがもっとしっかりしていれば……」
とりあえずぼく達は、シアンをお屋敷の中へ運びベッドに寝かせることにした。
気を失ったシアンは、うんうんとうなされてなかなか目が覚めることはなかった。
そんな時であった。
「ゴホッゴホッゴホ……」
シアンの発作が始まってました。
(なんてことだ。気絶している時に、【施術】みたいな強い刺激は危険だ……)
だからといって、このまま彼女が目覚めるまで放っておくと命が危ない。
(そうだ……! ここはあれをするしかない)
ぼくは、彼女の顔を持ち上げてなるべく気道を確保した。
そして、思い切り息を吸い込んで、彼女のまだ侵入を許していないであろう小さく純粋な口を塞いだ。
ぼくは吸い込んだ息を彼女に、吹き込む人工呼吸を試みる。
(ぼくなんかがシアンの初めての相手でいいのかな……? 後で謝っておこう)
一度人工呼吸を試みただけでは、彼女の発作は治まらなかった。
そのため、ぼくは何度も何度も彼女の唇を奪った。
(ごめんなさい、シアンさん。けど君を助けるにはこれしかないんです)
ぼくが十回ほど彼女の純粋だった唇を汚した時、彼女の発作はようやく治まってきた。
「フゥ……フゥ……」
(よかった、大事にはいたらなくて)
発作が治まると、彼女は目覚めた。
「ん……うん……」
「シアン!」
ぼくは、目覚めた喜びから彼女に抱きついた。
「ルカ……助けてくれたのね」
「当たり前だよ! シアンはぼくの大切な人だから」
「そんな大切な人だなんて……」
「え、いや! そんな意味じゃなくて」
ぼくが大切な人だと言うと、彼女は顔を赤らめた。
もしかしたら、まだ熱があるのかもしれない。大事にしてもらわないと。
それと彼女には伝えないといけないことがある。
「あの、シアン。実は謝らないといけないことがあるんだ」
「なあに?」
「実はさっき気を失っていた時、発作が起きてその時にその……人工呼吸しちゃった」
「え!」
ぼくはそのことを告げると、彼女の顔は更に赤くなってしまった。
「え、ちょっとシアン大丈夫? 顔が真っ赤だよ!」
「だ、大丈夫。そっか、私の初めての人はルカかあ」
「いや、ほんとごめん。でも助けるにはそれしかなくてさ!」
「ううん、大丈夫だよ」
彼女は、ニコヤカな笑顔を浮かべてぼくの過ちを許してくれた。
やっぱり彼女はとても優しい。
「それよりイグニから受けた【ファイアボール】は大丈夫? 傷とかできてない?」
「ああ、それなら大丈夫! 私、あらゆる魔法を跳ね返しちゃう体質らしいから」
そう言えばそうだった。
彼女との出会いも、治癒魔法が効かない彼女に【施術】というスキルで治療したのがきっかけだ。
そのときは、治療魔法が効かないなんて不便だと思っていた。
だけれども、魔法が効かないというのは戦闘面では案外有効かもしれない。
──いや、彼女を危険な目にあわせるのは駄目だ。
またいつか勇者が襲ってくるかもしれない。
危険な芽は摘み取っておくべきだ。
そんなことを考えているとセバスがやって来た。
「ルカ様、慌ただしい中すみません。国王陛下との謁見の時間です」
「あ!」
色々あってすっかり忘れてしまっていた。
「それと、その謁見の席に【勇者】もやってくるそうです」
「え!」
ぼくは勇者と聞いてその場で立ち尽くした。
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