戦闘
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「それにな【施術師】には、【回復術師】にではできないことができるのじゃ。それは戦闘じゃ」
「え!? そんなことができるの!」
「ああ、【施術師】は魔力の通り道を見ることができる。そしてその通り道には小さな穴がある。そこを押せば相手にダメージを与えられる」
「ダメージを与えるって魔物を殺すことも……?」
「できる! お前には才能があるからのぉ」
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ぼくは、現場へと向かう間【神の手】と呼ばれる爺ちゃんとの会話を思い出していた。
まさか実戦で、それを試すことになるとは思わなかったけれど。
ぼくは、シアンを治癒したときのことを思い出しながら敵の姿を見た。
「な、お前は! イグニ!」
「ノコノコと現れたわね、ルカ。立派な屋敷に可愛い彼女を侍らせていい暮らししてるわね」
なんとセバスの言っていた敵とは、勇者パーティで【メイジ】を務めていたイグニであった。
勇者パーティは、あの事件以降名声を失い露頭に迷ったと聞く。
だが、そんなことは自業自得の話だ。元を辿れば勇者達が悪いはずだ。
「なにしに来たんだ! 悪いことは言わないさっさと立ち去ってくれ」
「は? そんなことするわけないでしょ。今からこの屋敷を燃やし尽くすから」
「なんだって!」
このお屋敷は、旦那様からいただいた大切なものだ。
それに短い間とはいえ、シアンと過ごした大切な場所でもある。
ここは、手荒な真似になるがイグニを排除するしかない。
ぼくは、イグニと戦うことを決めた。
(見えるぞ……! イグニの体に流れる魔力の通り道が!)
【施術師】は、相手の体に触れることで魔力の滞りを解消することができる。
しかし、それを応用すれば逆に魔力の滞りを逆に作ることも可能だ。
ぼくは、なんとかイグニに近づいて【施術】で懲らしめてやろうと考えた。
「覚悟しろ! イグニ」
「はぁ? たかかが追放された【回復術師】ごときがなにかできるとでも?」
(よし、イグニはぼくが攻撃できる【施術師】だってことを知らない。これはチャンスだ!)
ぼくはすっかりと油断しきったイグニの懐へと駆け寄った。
「くらえ!【施術】」
「はぁ、馬鹿もここに極まりね。もういいここで焼け死んで?」
ぼくは魔力の流れが、イグニの右腕に集まっていくのが見えた。
ということはだ。ここで、ぼくの【施術】を彼女の右腕に浴びせれば──。
「ギャーーーーーーーーーッ!いったあああああああああああい」
(よし、うまくいった!)
彼女は魔法を使うため右腕に魔力を集中させていた。それを滞らせたおかげで魔力が逆流していくのが見えた。
ぼくは攻撃魔法が使えないけれど、彼女の火魔法は魔物を一瞬で焼き尽くす。
その力が自分に跳ね返ってくるのだから、相当な激痛だろう。
「アッツツツ! くっそおおおお! もう絶対許さねええ!」
イグニは悲鳴のような叫び声をあげる。
そこで不運なことが起きた。叫び声を聞きつけた、シアンが現れたのだ。
「ちょっとルカ! どうしたの?」
「しめた! そこのクソアマだけでもやってやる! 【ファイアボール】」
「逃げて! シアン」
しかし、ぼくの声に反応できずにイグニの攻撃がシアンにあたってしまった。
「シアン!」
砂煙があって、シアンの姿が見えない。
「もう絶対に許さない……」
「ハハハ、いい気味! いい気味!」
シアンを傷つける奴は誰であっても許さない。
ぼくは、仕返しにイグニの急所という急所を【施術】した。
「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!」
あまりの激痛に身を捩らせるイグニ。
「クソォッ! やりやがったな許さねえ! 【ファイアボール】」
「無駄だよ? お前はもう死んでいる」
「へえ?」
イグニの魔力の流れ道をぼくはすべて滞らせた。
それにより、魔法を唱えるたびに彼女は魔力が体を逆流するようになった。
そのことに気がついてない彼女は──。
「ギャアアアアアアアアアアアアアッ! アツイアツイアツイ!」
彼女の服は焼け焦げ、火達磨となってしまった。
「シアン!」
仕返しを終えたぼくは、シアンが無事か確認するため近寄った。
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