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老練

 相手がどんな行動を取ってくるのかはわからない。


 しかし、ぼくに出来ることはただ一つ。


 目の前にいる敵目掛けて突っ込んでいく、ただそれだけだ。


 熟練の老兵相手に小細工のような立ち回りをしかけても上手く掻い潜られるだけだ。


 ならばいっそのこと無謀に突っ込んでいくことこそが案外有効なのだ。


 そしてただ突っ込んでいくのではない、思い切り防御を捨てて突っ込んでいくのだ。


 これが正直最重要事項と言って問題ない。


 下手に踏み込みが甘いとそれが逆に命取りになりかねない。


 敵を怯ます勢いの決死の特攻を行ってようやく、五分といったところだ。


 その点においてぼくは見誤らなかった。


 右足に神経を全集中させ、思い切り敵の懐へと入っていった。


 それを見て教官は一言こぼす。


「ほう。なかなかやるな小僧。だが」

「なに!」


 ぼくの攻撃は、奴の喉元手前まで届いてはいた。


 しかし、それ以上間合いを詰めることができなかった。


 足が動かないのだ。それは決してぼくが恐れているからではない。


 そう本当に物理的に足が凍りついてしまって動かないのだ。


「なんなんだ! クソッ」

「なんだあの速度は、教練では一度も見たことがないぞ!」


 ブラックは、目の前にいる教官の恐るべき魔術に驚いていた。


「ひよっこのお前達には見せるまでもなかった【魔術】だ。この小僧は、それを私に使わせてた。称賛に値する、だがそこまでだ。

この氷は一度凍らせたものはもう二度と溶けない。私が解除するまではな」

「クソッ! ならば私が……!」


 そう言ってブラックが、【魔術】を展開しぼく達のほうへと駆け寄ってきた。


「待って! こいつの相手はぼく一人でいい。ブラック達は他の兵士達を相手していてくれ」

「け、けれど」

「いいから! これはリーダーの命令だ。命令には絶対服従だ」

「ハッ!」


 ブラックの返答は、軍隊式の敬意を込めた挨拶であった。


 それはまるでブラックは、ぼくが帰ってこない人のように扱っているようであった。


 だがぼくは決して死ぬつもりはない。あくまでこいつを倒すつもりでいる。


(よし、これでいい。これでこいつをぼく一人にひきつけることができた)


 目的の第一段階として、こいつと仲間達の分離をはかることには成功した。


 あとは、こいつを倒すだけなのだが。


(強かってみたはいいものの、どうしよう。どうやってこいつを倒そうか)


 これから氷から脱出する方法をどうしたものかと考えた。


 当然ながら、【魔術】の完成度はやつのほうが上だろう。ぼくの攻撃が通用するとは思えない。


(クソッ……! 【魔術】はおそらくダメだろう。そうだ! ならば)


 ぼくは必死に考えた末、とある悪あがきのような策を思いついた。


「ファイアボール!」


 そうぼくは最下級の【魔法】を唱えた。


 するとどうだろう。ぼくの体からやつの【魔術】が解除され氷が溶け始めた。


「なんだ! それは」

「……! 驚いたよ。【魔術】には【魔法】がこんなにも有効だなんて」

「クソッ! 私の【ブリザードコート】がこんなにもやすやすと、さては相当な魔法の使い手だな!」


 その言葉を聞いてぼくは、プッと吹き出しそうになった。


 ぼくは攻撃魔法に関しては、最下級の【ファイアボール】しか唱えることができない。


 それなのに、この教官はぼくの【魔法】を最上級魔法だと勘違いしたようだ。


 ぼくは面白半分にこう言い返してやった。


「そうだ! 今ぼくが使った【魔法】は、ぼくがいた世界の中でも使えるものが一握りしかいないものだ」


 本当は、魔力があるものならば三歳児でも扱える【魔法】なのだが、からかってやるのも面白い。


 そしてそれを聞いた老練の教官は、驚きの表情を徐々に強張らせて言った。


「そうか、ならば私の本気をどうやらお前に見せられそうだな」

「なに!」


 そんな不気味な言葉をボソリとつぶやいた。

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