復讐
「シアン、今重要な話をしている最中だ。あっちに行っていないさい」
「待ってください! シアンさんにも話し合いに加わってもらいましょう」
「そうそう、仲間外れは寂しいのよ!」
シアンがたまたまここには来たのは幸運だった。
彼女の呪いをぼくが治癒したと証言してもらえれば、勇者の負けだ。
しかし流石はぼくを追放した勇者だ意地汚い。
「待ってください! ここはお嬢様に出てきてもらうまでもありません」
「えーでも私ルカの側になるべくいたいし」
カインは往生際が悪く、必死にシアンを追い出そうとする。
だけれどシアンがどうしても、ここに居たいと言って聞かない。
これにはさっきまで優勢だった勇者達も、冷や汗をかき始めた。
「どうしたんですか? カインさん、ぼくが【回復術師】として失格だという話の続きをしてくださいよ」
「え! ルカは【回復術師】として失格なんかじゃないわ! 私の呪いを解いてくれたのはルカよ」
「シアンよ、それは確かなのか? 今勇者達が、それは嘘だと言いに来たのじゃが」
「間違いないわ! ルカがいなかったら私あのまま死んでいたわ」
「ふーむ」
シアンの言い分を聞いて、考え込む旦那様。
勇者達は、こんなことするんじゃなかったと後悔する顔を浮かべるが、もう遅い。
「わからんな。まさかかの勇者が、嘘をついているとは思えんし。それに我が娘の勘違いだったという可能性もある」
優柔不断な旦那様は、どうもまだ勇者のことを信じているらしい。
それにつけこむように後がなくなった勇者は、必死に嘘をついた。
「嘘をついているのはルカの方です! きっと今もお嬢様を脅して無理矢理ありもしないことを言わせているんです。はやくお嬢様をこの部屋から退出させてください」
「ちょっと、嘘なんてついていないわよ! 滅茶苦茶言わないでくれるかしら?」
これには普段は大人しいシアンも怒った。
旦那様の部屋はすっかり修羅場と化した。
「はぁ……、もう訳がわからん! ワシは一体どちらを信じればいいんじゃ」
お人好しな旦那様は、結局どちらを信じればよいのかわからず困り果ててしまった。
そんな時だった。
「ゴホッゴホッ」
「どうした! シアン」
シアンの発作が始まった。
(まずい、すぐに治さないと。でもここはシアンには悪いんだけれど──)
「マゼンタさん、そんなに言うならぼくの代わりに彼女のことを治してもらえませんか?」
「おい、チャンスだぞ」
「ええ、そうね」
事情を知らない勇者達は、治せるとタカをくくっていた。
「【回復】」
マゼンタが魔法を唱えるが、シアンは回復魔法を弾いてしまった。
「え、嘘! なんで治らないの?」
「ゴホッゴホッ」
シアンは発作がとまらずに苦しそうだ。
「どうしたんですか? 回復量の少ないぼくでは治せそうではありません。早く治してください」
「えい! 【回復】、【回復】、【回復】」
「ゴホッゴホッゴホ……、ルカ……早く治して──」
マゼンタは、【回復】を連発するがシアンの症状は悪化するばかりだ。
「ルカ君! さっきは疑って悪かった。頼む娘を治してやってくれ」
「わかりました。マゼンタさんでは治せなそうなのでぼくが治します」
ぼくは、今度はシアンの肘あたりに魔力の滞りがあるのを見つけた。
「えーい」
ぼくが彼女の悪いところに触れると、みるみる咳が治まっていった。
「キャーッ、すごい、すぐに治った! やっぱりルカって凄い!」
そう言って彼女はぼくに抱きついてきた。
「そんな馬鹿な! なんでルカが呪いを治せたんだ」
「これでどちらが嘘をついているのか、わかりましたね」
「よくも嘘をついてくれたな! 出ていけ!」
「チギジョォォォーーー! 覚えてろよ!」
カインは、顔を真っ赤にして屋敷から飛び出していった。
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