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拳闘

「くっ!なかなかやりますわね」


 魔術の世界の【聖女】は、口を漏らす。


 ぼくとブラックも顔を見合せ、彼女の能力の高さに驚いていた。


 最初彼女と出会った時は、負傷をしており性格的にも大人しめの彼女かはどこかか弱い印象を抱いていた。


 だから、今聖女相手に食らい付いていく彼女を見るとこういう反応になる。


 しかし、ぼくとブラックはとある疑念を抱き始めた。それは、彼女からなかなか攻撃をしかけていかないことに対してだ。


 ぼく達は彼女の弱点を疑い始めたのだ。つまり彼女は回避や防御は得意だが、攻撃を仕掛けるのが苦手なのではということだ。


 しかしその戦い方が攻撃一辺倒の【聖女】には、有効なようで彼女は攻めあぐねてしまった。


「ハァハァ……、いい加減そちらも攻めてきなさいな!」


 ただ攻撃を躱しているだけのルビーと、攻撃を仕掛け続けている側の【聖女】。


 当然疲弊していくのは【聖女】の方で、それに対してルビーはあまり疲れていないようだ。


「もしかしてこれが狙いなのか? でもそれだとしたらあまりに消極的な方法だ」


 ぼくは彼女の戦闘スタイルに疑問を投げかけた。


 しかしそれに対して、コバルトがきっぱりと否定をした。


「いやそれは違う。彼女は人の性格やスタイルに合わせて攻撃パターンを組み立てるのがうまい。実際それで彼女は今優位に立っているだろう?」

「……確かに。悪いぼくの考えが浅かった」


 ぼくは彼女に投げかけた疑問を撤回した。そうか、これが彼女の戦い方なのか。やはり安易に人の戦い方を否定するのはよくない。


 そしてなかなか勝負を決められない【聖女】側に、だんだんと焦りが見え始めた。


「【セイントドレス】!」


 そう言った彼女の声は震えており、早く決めなければ自分が不利になることを察していた。


 それに気がついたルビーはいよいよ攻勢に出た。


「えーい、【スチール】」


 そう言って彼女はスキル【スチール】を使って、【聖女】の持っていた魔道具を奪ってしまった。


「うまい!」


 これには思わずぼくは声をあげてしまった。


 基本的に魔術師は、魔道具がないと魔術を展開することができない。


 つまりは魔道具さえ奪ってしまえば、いくらスキルに強い魔術とはいえそもそも魔術が展開できないのだから怖くなどないのだ。


 これが彼女の考えていた対魔術師用の戦い方か。


 ぼくは素直に感心し、声をあげてしまった。


 そのぼくの声に対して、ルビーは思わずニコリと笑みを浮かべた。


 やはり彼女も人の子だ。人から褒められると素直に嬉しいし、貶されると悲しい。


 これで完全に形成は逆転した。後は彼女のスキルを叩き込めば、完全に制圧することができる。


「これでフィニッシュです! 喰らいなさい【ファイアパンチ】」


 そう言ってルビーは【聖女】に向かって、スキルの攻撃を放った。


 ──決まったか。そう身構えた時であった。


 なんと魔術の【聖女】にはスキルの攻撃が通らなかったのである。


「な! なんで? さっきはスキルが通用したのに」


(しまったつい見とれてしまっていて忘れていた。魔術の【聖女】には魔術しかきかないんだ。そしてさっき彼女にスキルがきいたのは彼女自身ではなく、魔道具にスキルを使ったからだ)


 その一瞬の混乱を魔術の【聖女】は見過ごさなかった。


「ハッ! 今なら奪われた魔道具を……!」


 そう呟いて、彼女は呆然としているルビーの手から魔道具を奪い取り魔術を展開した。


「くらいなさい! 【セイントドレス】」

「ギャアアアアッ!」


 ルビーは一瞬の隙をつかれて、【聖女】に逆転を許してしまった。


 逆転に次ぐ逆転劇にぼくは、唖然としてしまった。


 そして一瞬でも隙を見せれば、こうなってしまうという戦場の厳しさを見せつけられた。

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