覚醒
ぼくはギルドから飛び出して思いっきり泣いた。
外は大雨が降っていた。
ぼくはずぶ濡れになりながら街中をさまよった。
体が冷たくなってきたな。このまま死ねないかな――。
「うぐっ……ぐっ……くっ」
ぼくは泣きじゃくりながら町を歩いていたから、街行く人とすれ違う度に変な顔をされた。
(なんで……? なんで……?)
するとだ。
ぼくは道端に転がっていた物にぶつかって、転んでしまった。
「いって……」
ぼくはどうやら転んだ拍子に怪我をしてしまったようだ。
すかさずぼくは治癒魔法を唱えて、傷を治す。
「はぁ……この魔法が本当に誰かの役に立てたならな」
そんな愚痴をこぼしていると、何やらうめき声が聞こえてきた。
「うぅ……」
なんとぼくがぶつかった物とは、どうやら少女のようであった。
「あ! ごめんなさい。ぼくの不注意で」
「助けて……」
よく見ると少女の顔は、何かの呪いを受けたかのような青白さをしていた。
しかも彼女はなんと、あのぼくを追放したパーティのお気に入りマゼンタにそっくりだ!
「ひい……」
情けない声がぼくの喉から漏れ出す。
「お願いします。 助けてください」
よく見るとぼくとぶつかった少女は、青色の髪に、青い目の容姿をしている。
(似てるけど髪の色がちょっと違う。別人だ……)
ぼくは疑心暗鬼になっていたから、アイツがまたぼくを騙そうとしているのではないかと疑った。
(でも本当に死んだら可哀想だなあ……)
ぼくは騙されるのを覚悟して、治癒魔法を唱えた。
しかし、治癒魔法は彼女には届かずに弾き返されてしまった。
「ごめんなさい……私には治癒魔法が効かないんです。だからどのお医者さんもお手上げで……」
そう言って少女は、申し訳なさそうにぼくに謝ってくる。
「そんな! 魔法が効かないなんて」
ぼくは彼女が、本当に助けを求めている病人だということを知った。
(どうすれば彼女を救えるだろう?)
ぼくは必死になって方法を考えた。
すると、あることに気がついた。
彼女の呪いにかかっている部分に、魔力の滞りが見えた。
「そうか! 治癒魔法を唱えるから駄目なんだ。ぼくが直接手で触れて治せばもしかして」
そう考えてぼくは、彼女の手のひらに触れた。
するとどうだろう。
少女にかかっていた呪いが解けたのか、みるみると顔色がよくなっていく。
その様子を見てぼくはボソリと呟く。
「うわー! すっごい可愛い顔になった」
「え、私可愛いですか? そんなことはないと思いますけれど」
そういって美少女は顔を赤らめながら、ぼくの言葉を否定する。
その仕草を含めて可愛い!
この純粋な笑顔が見れただけでもう充分にぼくは報われた。
(よかった、困っていたこの子を助けられて)
そういえば、この子はなんていう名前なんだろう。
ぼくの頭の中に一つの疑問が浮かんだ。
「あの、すみません。あなたの名前を聞かせて貰えませんか?」
「私の名前ですか? シアンです! 先程は本当にありがとうございました。これからお礼をさせて貰いたいのですが」
「え、お礼なんてとんでもない! その笑顔が見れただけでぼくは十分に幸せです」
「いえ。あなたに何かお礼をしないと私の気がすみません」
シアンと名乗る美少女は、ぼくのことを無理矢理に引っ張って自分の家へと案内してきた。
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