女形
「どうしたの? アベル、何かそんな驚くことでもあった?」
「いやさ、だってあんな可愛い子が男だなんて! 世界がどうかしてるよ」
「もしかしてアベルはあの子に一目惚れしちゃったの?」
「いや……その」
(爺ちゃんも言っていたな。恋の形は人それぞれだって……)
「アベル、恥ずかしがる必要はないよ。ちゃんと自分の気持ちに向き合って」
「いや、私はその……」
アベルは顔を赤らめながら、自分の気持ちを必死に否定する。
しかし、男の娘の少年は不思議そうな顔を浮かべてアベルの気持ちには気がついていない。
(これはちょっと後押ししてあげる必要があるかなあ……)
ぼくは、アベルだけに聞こえるような小声で囁いた。
「ねえアベル。今ならきっとぼくの言うことを聞いてくれると思う。あの子に何か頼もうか?」
「いや、いやいやいや! ルカ様はそれは駄目です。私は、そういう趣味はございませんから!」
そう言って、アベルは必死になってぼくの提案を拒否した。
だがそういいつつも、アベルはチラチラと男の娘の顔を見ている。
(表面上はイヤダイヤダと言ってても態度では丸わかりだなあ……)
ぼくは強情なアベルに素直になってもらおうと更に説得した。
「でも想像してみなよ、あの子は確かに男かもしれないけれど、あのキラキラとした銀髪。それに澄んだ緑色の瞳。まるで妖精みたいだろう?」
ぼくがそう言うと、アベルはゴクリと喉を鳴らした。
「いや、確かにあの子は美しいです。それでも駄目です。それに彼の気持ちを無視して何かをしてもらおうなんて決して駄目です」
「ほう」
ぼくは、アベルがカインと違って本当の【勇者】らしい心を持っていることに安心した。
(そうか、アベルはあくまで何事にも真剣勝負で挑みたいんだな)
それを察したぼくは、これ以上勇者になにかを言うのはやめた。
やはり当初の目的通り、勇者パーティを見つけることが一番だろう。
「なあ君に尋ねたいことがあるんだけど、この街に龍の痣を持った男を見かけなかった?」
「龍の痣かあ……うーん知らないなあ。でも、最近街に大男がやって来たよ」
「大男が? そいつはどんな特徴をしてた?」
「顔に痣があってそれとうーんルカって人の悪口を言って回ってました」
──間違いない【タンク】だ。【タンク】だとわかったならば徹底的に懲らしめてやらないと。
【タンク】には二つ致命的な欠点がある。一つは、無類の女好きということ。
そしてもう一つは、頭が悪いということだ。
ならばこの子には申し訳ないが、ちょっとぼくの復讐の手伝いをしてもらおう。
「ねえぼくから頼みがあるんだけど、ちょっといい?」
「はいなんでしょう」
「女物の服を着て、その大男がよくいる場所を歩き回ってもらえないかな?」
「え、まあいいですけれど……」
そういうことで、早速女物の服を仕入れてきて男の娘に着せてあげた。
するとどうだろう。そこには、ボクっ娘の美少女がいた。
(確かにこれはイイッ! アベルが一目惚れするのもなんとなくわかる)
ぼくはその男の娘に惚れ惚れしていると、何か後ろから視線を感じた。
「ちょっとルカぁ? なんで男に見惚れてるのよ」
「いや、あまりにも可愛かったからさ。えへへ」
そしてそのあまりにも可愛すぎる男の娘に近づいてくる一人の大男がいた。
そうぼくの予想通りその大男とは、【タンク】であった。
ぼく達は、陰に隠れてそれを見守っていた。
【タンク】は、いきなり男の娘に駆け寄ってなんと口説き始めた。
「やあ、可愛いお嬢さん私とデートしてくれませんか?」
「え、えとその困ります」
【タンク】のいきなりのアプローチにたじたじになる男の娘。
これは見てられないとぼくは物陰から飛び出した。
「やあ、【タンク】久しぶり。この前はどうも」
「げ! ルカ、どうしてこんなところに」
「君に復讐するためさ」
ぼくはにっこりと笑った。
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