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歴代最強の帝国皇女は敵国騎士と結ばれたい  作者: 永頼水ロキ
第三章
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第二話 顔

 ジェイコブは頬の火傷跡を撫でた。それは癖だった。撫でるたびに力が涌き出てくる。静かな怒り。それこそが彼の原動力だ。


 夜になると約束の邸に到着し、案内された円卓に座る。正面には帝国の貴族がそこに座っていた。貴族に好ましい者は少ないが、彼については比較的話しやすいと感じている。


 メイドがジェイコブの前にワインを注ぐと出ていった。


「……それで?」

「滞りはない。クロイスターが動いたお陰で上手くいっている」


 エイデン・クロイスターはアデレードに協力して、帝国内で麻薬に手を出していた貴族について告発の準備を進めている。それら貴族たちは戦争利益に関与する者達とほぼ同一であり、アデレードの目的は明らかだった。


 クロイスターやアデレードは覚悟の上で動いているのかもしれないが、この「流れ」は内乱に向かうほど早すぎる。貴族たちは領地と領軍を持っているのだ。一つ二つなら土竜の運用で何とかなるかもしれないが、これほどの数を一度に相手にしては国を割る。


 そして、事実そうなりつつあった。


 麻薬の取引先でもある貴族たちの動向を掴むのは容易(たやす)かった。そしてだからこそ、ジェイコブたちによる「これから」も決まった。


 ジェイコブは出されたワインには手をつけず、両手を円卓の上でくんでいた。そっとそれを外すと、立ち上がった。


「では予定通り」

「ああ」


 短い会話は常のことだった。たったそれだけで国が動こうとしている。歴史が動くのだ。


 別の部屋に案内されるとそこにはケイレブが待っていた。


「どうでしたか?」

「問題ない」

「では、予定通りですね」


 頷くとケイレブが魔力を展開した。彼の魔力がジェイコブを包み込んだ。すると、姿が揺らめき頬の火傷跡が消え、見知った別人の顔に変わる。『変装』は姿形だけではなく、ケイレブのそれは声まで変えられる。もはやジェイコブだと気付くものはいないだろう。


 ケイレブは続けて書類を渡してきた。そこに変装した人間の情報が書かれていて、これを基に矛盾を出来るだけ少なくする。問題は土竜の構成員であるディアク家がその場にいる場合だ。『診断』は『変装』を見抜ける対抗魔力だ。


「カサンドラは別件があり明日の場にはいません」

「……ならば懸念はないか。その別件とは?」

「噂でクロイスター家に暗殺者が紛れ込んだ可能性があると」

「デマを信じたと」

「はい」


 これは『変装』の使い手たるケイレブの専売特許だ。噂で扇動し敵の動きを誘導する。


「明日は私も同行します」

「城で合流か」

「ええ。先に入っています」


 改めて鏡を見た。そっと頬を撫でる。そこには映っていない火傷跡のあの感触が、しかし、確実にその指に触れる。


 もうすぐだ……。メル、マシュー。もうすぐ俺達の望む世界になる。


 * * *


 アデレードはディスタード帝国城に着くや否や皇帝の待つ応接室の一つに案内された。黒騎士たちは部屋の手前までで中には入らない。アデレードだけが部屋の中に入った。ミニエーラ王国の港町についたのは夜半で、ポータルで移動すると城の森から届くフクロウの声が聞こえていた。


「戻ったか」

「皇帝陛下、ただいま戻りました。遅くなり申し訳ありません」


 そっとカーテシーをするアデレードをソファーに座るよう合図した。それを見てアデレードは従い、皇帝の正面のソファーに腰掛けた。アデレードは静かに溜め息をついた。そして、まっすぐ見つめる。


「……御父様。領主の一部が反乱を起こしたと聞きました」

「お前たちが告発を進めていた者達が反旗を翻したのだ」


 父親の皇帝カサエルには幼い頃から厳しく育てられた。それは母親の皇后ソフィアの意向があったからだ。アデレードの素質が明らかになってからは、兄のガイウスと明確に育成方法が分けられ、より厳しくなった。


 そうして一年ほど前、そのソフィアが馬車の事故で亡くなった。陰謀などではなくただの事故。『治癒』も間に合わなかった。ソフィアが亡くなると、アデレードにソフィアに求めていたことを求めるようになった。親子の関係はその時から変わることになった。


「……それで、どうするつもりか?」


 ソフィアが健在だった頃、実は様々な決め事に彼女の意見が強く反映されていた。


 ……というより、ほぼ御母様が政治を動かしていた。実質的には女帝だったのよね。


 カサエルはソファーに座ったままじっとこちらを見ていた。カサエルはほとんど決め事に決断を下さない。任せるといえば聞こえがいいが。要はほとんど仕事をしていない。


「味方を集めて速やかに鎮圧しましょう。そうでないとレオール王国や属国にまで飛び火しかねない」


 アデレードはこんな父親であることを知った今、彼に気を許すことはない。その警戒心は以前よりも増していた。


 油断ならないのは協会との強い関係だ。アデレードは詳しく知らないが、普通国に関与しないはずの協会の「上の方」とカサエルは繋がっていると思われた。その証拠が先生の存在。司教が皇女の教師役など他の国ではあり得ない。


 そして、アデレードがガイウスに暗殺されたと思われていたとき、しかし、どうやらカサエルは先生の動きを知っていたようだった。彼の裏の顔は協会とどう繋がっているのか。


 無能の仮面か、ほんものの無能か。


 アデレードは静かに父親の不気味な無表情を見つめていた。

次回第三話 帝国の最高戦力

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